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第26話:「できる」という感覚の育て方

第26話では、過去の恐怖に飲み込まれそうな灯に対し、九条が「今の君の武器」を自覚させるための、魂の講義が始まります。

※この話で得られる「知識」

自己効力感セルフ・エフィカシー: 単なるポジティブシンキングではなく、「自分ならやれる」という根拠のある自信の作り方。


4つの源泉: 自信がないときは、過去の小さな成功(1)を数えたり、尊敬する人の真似(2)をしたり、励まし(3)を受け取ることが有効。


リフレーミング: 緊張ドキドキを「ダメだ」と思うのではなく、「体が戦う準備をしている」と捉え直すことでパフォーマンスが上がる。




別室のホワイトボードの前。九条さんは、震えが止まらない私を冷徹なまでに見つめていました。


「真庭。今の君の脳内では、過去の記憶が現在をハイジャックしている。君は今、目の前の女性を『相談者』ではなく『自分を壊す支配者』として見ているな?」


「……だって、九条さん。あの人がいたから、私は……」


「黙れ。過去は変えられないが、その過去に対する君の『無力感』は、今この瞬間に上書きできる」


 九条さんはホワイトボードに書いた『自己効力感セルフ・エフィカシー』という文字を指で叩きました。


「心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念だ。『自分には、ある状況を乗り越える行動ができる』という確信のことだ。今の君には、これが必要だ」


九条さんは、自己効力感を高める「4つの源泉」を書き出しました。



遂行行動達成: 小さな成功体験を積み重ねること。


代理経験: 他人が成功している姿を見て「自分にもできる」と思うこと。


言語的説得: 信頼できる人から「君ならできる」と励まされること。


生理的情緒的高揚: 動悸や震えを「緊張」ではなく「準備状態」だと捉え直すこと。



「真庭、思い出せ。君はこの数ヶ月、何人の利用者の人生に寄り添ってきた? 岩田さんの怒号を鎮め、共依存の親子を引き離し、佐伯先生の最期に付き添った。それはすべて君の『遂行行動達成』だ」


「……あ……」


「君の手は震えているが、それは恐怖の証ではない。戦うためのエネルギーが全身に回っている証拠だ。今の君には、当時持っていなかった『知識』という盾と、『経験』という剣がある。あの中学生の君は、もうここにはいない」


 九条さんは私の目を真っ直ぐに見据え、初めて少しだけ声を和らげました。


「これは、君の個人的な復讐ではない。プロの相談員として、過去の自分を救いに行く作業だ。……私に、『言語的説得』を言わせるな。君ならできることは、私が一番よく知っている」


 その言葉が、凍りついていた私の心に熱を吹き込みました。

 そうだ。私はもう、教室の隅で震えていたあの頃の私じゃない。

 九条さんの隣で、人の心の深淵を見てきた一人の専門職なんだ。


「……九条さん。私、行きます。あの人の担当として、デスクに戻らせてください」


「ふん。顔つきだけはマシになったな。……行け。君の自己効力感(自信)を、あいつに見せつけてこい」


 私は深く呼吸をし、震える指をぎゅっと握りしめて、相談室のドアノブを掴みました。



次は第27話:トラウマを乗り越える「声」です。

加奈の前に再び座る灯。過去のいじめっ子というフィルターを外し、プロとして彼女の「困窮」という問題にメスを入れます。



実体験から書きました。少しでも、福祉従事者の役立つ情報になればと思い執筆してます(^^)

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