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第24話:完璧ではない、私たちができること

第6エピソードの完結編です。悲しみを乗り越えた二人の間に、これまでとは違う「対等な信頼」が芽生える、静かで温かなラストをお届けします。


佐伯先生の葬儀から数日。事務所の九条さんのデスクには、再び万年筆が置かれていた。

 彼は以前と同じように背筋を伸ばし、淡々と書類を捌いている。けれど、その横顔からは、あの刺すような冷たさが消えていた。


「……真庭。これを」


 九条さんから差し出されたのは、私の評価シートだった。

 そこには、たった一言だけ、殴り書きのような文字で記されていた。


『合格。君は私の想定を、不合理に超えた』


「九条さん……。これ、褒めてるって受け取っていいんですよね?」


「ふん。君の独断専行で、私は自分の部屋から引きずり出され、人前で醜態をさらした。効率の観点から言えばマイナス100点だ」

 九条さんは眼鏡を指先で押し上げ、ふっと視線を外した。

「だが……あの時、君がドアを叩き続けなければ、私は一生、あの『死』という5段階の檻から出られなかっただろう。……礼を言う」


 九条さんの口から出た、初めての「礼」。

 私は胸がいっぱいになり、泣きそうになるのを誤魔化すように、新しいコーヒーを淹れに立った。


「九条さん、佐伯先生が最後に言っていました。九条さんの正論が、唯一の救いだったって」


「……ああ。救いとは、痛みを消すことではない。その痛みを、誰かが『分かっている』と伝えることだ。私は完璧な神になろうとして、一番大切なことを忘れていた。不完全な人間だからこそ、隣に座ることができるのだとな」


 窓の外には、新しい芽をつけた街路樹が風に揺れている。

 私たちは、これからも多くの不条理や、理屈では救えない悲しみに出会うだろう。

 けれど、今の私には、九条さんから学んだ「知識」という武器と、彼と一緒に流した「涙」というお守りがある。


「真庭、次の利用者が来るぞ。……次は、自分の過去に縛られて動けなくなっている女性だ」

「はい、九条さん! 今日のコーヒー、自信作ですよ」


 私は、自分の心の境界線が、また少しだけ広く、優しくなったのを感じていた。

 不完全な二人の、不完全な救いの旅は、これからも続いていく。


(第6エピソード・完)


※このエピソードのまとめ

不完全さの受容: 誰かを助けるために、自分が完璧である必要はない。むしろ、自分の弱さを知っていることが、相手の心を開く鍵になる。


本当の共感: 相手を「治そう」とするのではなく、相手の苦しみを「そのまま、そこに置いておく」ことを許容する姿勢。



実体験から書きました。少しでも、福祉従事者の役立つ情報になればと思い執筆してます(^^)

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