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第14話:心のフィルター(認知の歪み)

※この話で得られる「知識」

認知の歪み: 自分の考え方の「癖」を知ることで、落ち込みすぎるのを防ぐ。


事実と解釈を分ける: 起きた出来事(事実)と、それに対する自分のネガティブな思い込み(解釈)を分離して考える技術。



氷室さんが去った後の事務所は、まるで酸素が薄くなったようだった。

 私は、自分のデスクで、穴が開くほどケース記録を見つめていた。文字が滲む。私の三時間は、本当に無駄だったのだろうか。私は九条さんの足を引っ張る、ただの「コスト」なのだろうか。


「……いつまで、その死人のような顔をしている」


 不意に、九条さんの声がした。顔を上げると、彼は私のデスクの横に立ち、一冊の古いノートを広げていた。


「氷室の言葉に、心を乗っ取られたか。真庭、今の君は『心のフィルター』という罠にまっている」


「心の、フィルター……?」


「そうだ。人間の脳は、一度『自分はダメだ』と思い込むと、その考えを補強する悪い情報ばかりを通し、良い情報をすべて遮断するようになる。これを認知の歪みと言う」


 九条さんはホワイトボードの端に、いくつかの項目を書き出した。



全か無か思考: 一度の失敗で、すべてがダメだと思い込む。


心のフィルター: 悪いことばかりが目につき、良いことを無視する。


すべき思考: 「〜しなければならない」と自分を追い詰める。



「氷室は、効率という自分の物差しで話した。だが君は、それを『世界全体の真実』であるかのように受け取った。彼女に否定されたのは君の『やり方』の一部であって、君の『人格』でも『過去の成果』でもない」


「でも……九条さんの過去の話を聞いて……私みたいな非効率な人間が、九条さんの隣にいるのは間違いなんじゃないかって……」


 九条さんは一瞬、苦いものを噛み潰したような表情を見せた。

「……私が過去にどうあろうと、今の私の判断は別だ。私は、君の三時間が佐藤さんを救い、ハルトさんを自立させた事実を知っている」


 九条さんは私の目を真っ直ぐに見据えた。

「氷室のフィルターで自分を見るな。君自身の目で、君が救った人たちの顔を思い出せ。認知を修正しろ。事実ファクト解釈エモーションを分けるんだ」


 事実と、解釈。


 事実は、氷室さんに厳しい指摘を受けたこと。

 解釈は、私は無能で、九条さんの邪魔だと思い込んだこと。


「解釈は、君が勝手に作り出した幻想だ。そんなゴミのような幻想で、自分を傷つけるのをやめろ」


 九条さんの言葉は、氷室さんの刃とは違い、私の心の傷を縫い合わせるような力強さがあった。

 私は、震える手でホワイトボードの文字を書き写した。

 まだ胸の痛みは消えないけれど、目の前の霧が、少しだけ晴れたような気がした。


次話への展開

次は第15話:自分への「合格点」です。

氷室さんが担当した利用者が、正論に追い詰められてトラブルに発展。そこを灯が、学んだばかりの知識を使って救う場面を描きます。


実体験から書きました。少しでも、福祉従事者の役立つ情報になればと思い執筆してます(^^)

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