第11話:火に油を注がない対話
初めて挑戦します(^^)
あたたかく見守ってくれると嬉しいです。よろしくお願いします
※この話で得られる「知識」
怒りの底にある「一次感情」への共感: 怒っている相手の「言葉」ではなく「感情の原因」を言い当てることで、相手の守備本能を解く。
自分の心を守る「6秒ルール」の実践: 怒鳴られてもすぐに反応しないことで、感情に支配されずに会話の主導権を握る。
岩田さんの家の呼び鈴を鳴らす。指先が少し冷たいけれど、昨日のような逃げ出したい気持ちはなかった。
居間に入ると、岩田さんは険しい顔で庭を眺めていた。
「……また来たのか。何度言えばわかる。お前のツラなど見たくないと――」
岩田さんの声が大きくなる。反射的に心臓が縮み上がる。
(……今だ。1、2、3……)
私は心の中で、ゆっくりと「6秒」を数えた。
4、5、6。
不思議なことに、秒数を数え終える頃には、脳の奥の火花が静まり、岩田さんの怒鳴り声が「助けて」という叫び声に聞こえ始めていた。
「岩田さん」
私は一歩、彼の方へ歩み寄った。
「何度も来てすみません。でも、昨日の帰り道、ずっと考えていたんです。岩田さんがどうしてあんなに怒ったのかを」
「あぁ!? そんなもん、お前が――」
「お前が、じゃありません」
私は彼の言葉を、静かに、けれど毅然と遮った。
「岩田さんは、リハビリが嫌いなんじゃなくて、『できない自分』を見るのが、たまらなく悔しいんですよね。誰の手も借りずに、木を削り、家具を作っていたあの頃の自分と今の自分を比べて、情けなくて、叫び出したくなるほど……苦しいんですよね」
岩田さんの口が、半開きのまま止まった。
部屋を支配していた熱い怒りが、ふっと霧散していく。
「……お前に、何がわかる」
今度の声は、怒鳴り声ではなかった。震える、小さな声だった。
「わかります。私だって、自分の不甲斐なさに毎日泣きたくなります。でも、岩田さん。その悔しさは、あなたが自分の人生をそれだけ真剣に生きてきた証拠です。情けなさを怒りに変えて、私にぶつけるのはもうおしまいにしませんか。そのエネルギーを、ほんの少しだけ、リハビリの力に貸してください」
岩田さんの視線が、不自由な右手に落ちた。
一秒、二秒。
やがて、彼は顔を覆うようにして、絞り出すような声を漏らした。
「……バカ野郎。お前、生意気なんだよ」
その言葉には、もう毒はなかった。
岩田さんの頬を伝ったのは、ずっと我慢していた「一次感情」……悔しさと、誰かに分かってほしかったという安堵の涙だった。
私は黙って、机の上にあったハンカチを彼の側に置いた。
九条さんの言った通りだ。
沈黙の中で、私たちは初めて、対等な人間として向き合っていた。
次話への展開
いよいよ第3エピソード完結、第12話:自分を許す、相手を許すです。
岩田さんの変化と、灯から九条への「反撃(?)」。そして締めくくりのメッセージへ繋げます。
実体験から書きました。少しでも、福祉従事者の役立つ情報になればと思い執筆してます(^^)
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