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第10話:「怒り」は二次感情である

初めて挑戦します(^^)

あたたかく見守ってくれると嬉しいです。よろしくお願いします


※この話で得られる「知識」

怒りは二次感情: 怒りの裏には「不安」や「悲しみ」が隠れていることを理解し、相手を「怖い人」から「困っている人」へと視点を変える技術。


6秒ルール: 衝動的な反応を抑えるための、アンガーマネジメントの基本テクニック。


「……怒りの、正体、ですか?」


 翌朝。私は昨夜一晩中考えた答えを、九条さんの前でおどおどと口にした。

「岩田さんは、リハビリが上手くいかなくてイライラしていて……その、八つ当たりを私にしている、とか……」


「それは現象の説明であって、正体ではない」

 九条さんは溜息をつき、ホワイトボードに一つの大きな「氷山」の絵を描いた。


「いいか、真庭。心理学において、怒りは『二次感情』と呼ばれている」


「二次、感情?」


「そうだ。怒りという感情は、単独で発生するわけじゃない。その下には、必ず『一次感情』という別の感情が隠れているんだ」


 九条さんは氷山の海面下の部分に、いくつかの言葉を書き込んだ。

 ――不安、寂しさ、虚しさ、情けなさ、苦しみ。


「人間は、これらの『一次感情』に耐えきれなくなった時、それを防衛本能として『怒り』に変換して外に放り出す。岩田氏の場合、その火種の正体は何だ?」


「……情けなさ、でしょうか。職人として完璧だった自分が、今は靴下すら一人で履けない。その惨めさに、耐えられない……」


「その通りだ。彼は君を憎んでいるわけじゃない。自分の無力さに泣きたいのを、怒鳴ることで誤魔化しているに過ぎない。君は、ライターの火(怒り)だけを見て怯えているが、プロならその下のガス(原因)を見ろ」


 九条さんの言葉が、ストンと腑に落ちた。

 昨日の岩田さんの、あの真っ赤な顔。あれは私を攻撃する顔ではなく、溺れそうな人が必死にもがいている顔だったのではないか。


「もう一つ。相手の怒りに火をつけられた時、君の脳内ではアドレナリンが放出される。そのピークはわずか6秒だ」


「6秒、ですか?」


「そうだ。怒鳴られた瞬間、すぐに言い返したり謝り倒したりするな。まずは心の中で6秒数えろ。そうすれば理性を司る前頭葉が働き出し、冷静な判断ができるようになる。これを『6秒ルール』という」


 九条さんは、いつになく真剣な眼差しで私を見た。

「真庭、いいか。相手の怒りを受け止める必要はない。だが、その下にある『悲しみ』には寄り添えるはずだ。それができるのは、君のような内向的で、人の心の機微に敏感なタイプだけだ」


 初めて、九条さんに認められたような気がした。

 鼻の奥が熱くなる。

 私は、自分の手のひらを見つめた。昨日は震えていたこの手が、今日は少しだけ、岩田さんの「悲しみ」を支えるために動かせそうな気がした。



次話への展開

次は第11話:火に油を注がない対話です。

灯が岩田さんの元へ戻り、「6秒ルール」を実践しながら、彼の怒りの下の「一次感情」に触れる瞬間を描きます。


実体験から書きました。少しでも、福祉従事者の役立つ情報になればと思い執筆してます(^^)

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