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第1話:【エピソード0】扉を叩く音は、小さすぎて

閲覧ありがとうございます(^^)

少しでも、読んでいただいた方が「役立った」と思えるような内容にしたいと思い頑張ってます


よろしくお願いします

「……あの、失礼します。本日お伺いした、相談員の真庭まにわです」


 古びた洋館の重い扉の向こうからは、返事がない。

 私は、手に持ったバインダーをぎゅっと抱きしめた。

 ここ、佐藤さんのお宅を訪問するのは、今日で三度目だ。


 佐藤さんは元大学教授。最愛の奥様を亡くして以来、外部との接触を一切断ち、食事も満足に摂っていないという。地域包括支援センターからの依頼を受け、私たち福祉従事者が介入することになった。


「佐藤さん、少しだけ、お話ししませんか?」


 返ってきたのは、低く、刺すような声だった。


「……帰れ。話すことなど何もないと言ったはずだ」


 その一言で、私の心臓は跳ね上がる。

 内向的な私にとって、拒絶の言葉は鋭い刃物と同じだ。何か気の利いた言葉を返さなきゃ、彼を救い出さなきゃ。焦れば焦るほど、言葉は喉の奥で渋滞し、結局はありきたりな励まししか出てこない。


「でも、お食事も摂っていないと伺って……心配なんです」

「余計なお世話だ。偽善者が」


 扉の向こうで、足音が遠ざかる。

 私は結局、何もできないまま、冷たい木の扉の前で立ち尽くすしかなかった。


 ◇


 施設に戻り、夕暮れ時の事務所で報告書を作成していると、背後から氷のような声が降ってきた。


「また成果なしか。君の給料は、扉と会話するために支払われているのか?」


 振り返ると、そこには管理者の九条蓮くじょう・れんが立っていた。

 整いすぎた容姿に、隙のない三つ揃えのスーツ。彼はこの施設の絶対的な支配者であり、何よりも「効率」と「結果」を重んじる人だ。


「すみません、九条さん……。でも、佐藤さんは心を閉ざしていて、何を言っても届かなくて……」


 私の弁明を、九条は冷笑で切り捨てた。


「何を『言っても』、だと? 真庭、君の根本的な勘違いを正してやろう」


 九条は私のデスクに指を立て、一歩近づいた。彼が放つ威圧感に、思わず息を呑む。


「君のやっていることは支援ではない。自分の『無能感』を埋めるために、相手に言葉を投げつけているだけの嫌がらせだ。君の会話は、相手にとってただのノイズでしかないんだよ」


「ノイズ……」


 ショックで指先が震える。

 一生懸命、彼のために言葉を選んでいるつもりだったのに。


「明日も行くつもりなら、一度その口を縫い合わせてから行け」


 九条はそう言い捨てると、一度も目を合わせることなく自分の個室へと戻っていった。

 静まり返った事務所で、私は一人、佐藤さんの家の冷たい扉を思い出していた。



まとめ

支援には必要な沈黙がある


実体験から書きました。少しでも、福祉従事者の役立つ情報になればと思い執筆してます(^^)

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