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リスティリア救世譚 外伝 ルディラント建国記  作者: ともざわ きよあき
遥か天窮のゼムナデュラス
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第一話⑤ ”誰か”の狙いは

 リシア・アリンティアスがルディラント領を訪れたのは久しぶりのことだった。


 救世の旅路を終え、新たなる目的に向かって歩み出した総司とも、しばらく顔を合わせていない。


 旧ルディラント領を拝領し、国を創るという大望を抱いた彼に、レブレーベントまで足を運ぶ時間的余裕も、精神的余裕もなかったのだろう。


 最初の一か月、総司と共に領地の基盤づくりに奔走した彼女だったが、本人の意識としては「貢献できなかった」という評価である。


 レブレーベントから報酬として与えられた大金は置いてきたし、アイデアも多く出したが、領地運営の全てが一歩目を踏み出す前にリシアの期限が訪れた。心配な気持ちもあったが、アレインの元で働き出したリシアにはなかなか暇がなく、頻繁に訪れるのは総司のプライドを傷つける恐れもあると余計な遠慮もしていた。リシアの来訪はいつでも歓迎されるものだが、「あまり余計な手出しはするなよ」というアレインの厳しい視線があったのも一因だ。


 ある意味では誰より総司を信頼し期待しているレブレーベント王女は、放っておくと過保護になりそうな母やリシアをよく監視していた。リシアも総司を信頼していないわけではないのだが、相当濃い時間を二人で過ごしただけに心配が勝つのも致し方ないことだ。


 その心配が今のところ不要なものであったらしいことは、ルディラント領を訪れれば一目瞭然だった。


 まず目を引いたのは麦畑だった。まだ生育過程ではあるが、既に見事な麦が実りそうな様相を呈している。


 リスティリアの季節感は国や地域ごとにまちまちで、そこに住む強力な魔獣の性質なども地域の気候に影響を与えることがあったりもする。万年冬の様相で雪が積もるエメリフィムのアンテノイア地域などなど、場所ごとに気候の特色は様々だ。


 ルディラントは比較的温暖な気候を主軸として四季がある地域だが、冬の訪れが少し特殊だ。緩やかにではなく一週間程度で急激な気候の変化が生じ、一気に氷点下級の気候になることもある。気候の巡りで言えばあと二か月ほどで冬が到来し、三か月程度は寒い日々が続く可能性がある。


 通常、麦は初冬に種を撒いて次の夏から秋頃の収穫を目指すものだが、シルナ麦の成長速度はリシアが知る麦とは一線を画すらしく、恐らくは収穫時期が冬の訪れに間に合う。ルディラントには知識豊富な傀儡の賢者・マキナがいるので、恐らくマキナによる助言があったのだろう。


 総司が魔法を使ってこしらえたであろう小川も、マキナの助言がなければ作り得ないものだ。治水は村を作るにあたって必要不可欠であり、同時に煩雑な過程では後々の災害に繋がるもの。山脈から流れて来る美しい水がどこか湧き出ているポイントがあったのだろう。リシアは専門家ではないが、素人目にも完璧な計算の元で新生ルディラントに届けられているようだ。


 総司と共にルディラントを訪れ、シルナ麦にも触れたことのあるリシアとしては思い出深い。首尾よく見つけられたのは喜ばしいことだ。


 少し歩けばパルーテン羊が囲われた、ちょっとした牧場めいた草原にも出た。綺麗に開墾された平地で、羊がのんびりと過ごしている。結構な数であり、通常の羊や他の家畜なら総司一人で面倒が見られるとはとても思えないが、パルーテン羊の賢さはリシアも知っている。


「手紙でおおよその状況は把握している。私の見解を伝えよう」


 それらの「総司の実績」について語る時間よりまず先に、リシアはやるべきことをやろうと話を切り出した。


 ディアナたちから離れ、領地を歩きながら、リシアは今新生ルディラントが直面している事件についての考察を総司に伝える。


「“狙いはお前”だ。そうでなければ説明のつかないことが多すぎる」

「……やっぱりそう思うか」

「デミティスリーヴへの到達の仕方が特殊で“逆も然り”ならば――――容易にはあちらからこちらへの接触ができない状況にあるならば、まず以てディアナ殿は『何者かに生かされた』のだと見るべきだ」


 リシアは腕を組み、総司に伝わりやすいよう言葉を選びながら、自分の考察を並べていく。


「ウェルスは恐らくお前のことを気にかけて、ルディラント近海を泳いでいたはずだ。デミティスリーヴの近くにいたとは考えにくい。多少、遠洋であったとして……ウェルスの察知範囲に入るところまで、ディアナ殿を運ぶか転移させるかした何者かがいなければ道理に合わない」

「死んでるよな、普通は」

「不可解な記憶の枷は、ディアナ殿に『デミティスリーヴに戻らなければならない』と強く認識させるため。しかしこれも、彼女が傷だらけで放り出された事実とは整合しない。記憶の枷を課した者と傷を負わせた者が同一人物であった場合にはな」

「別だと思ってんだな」

「であれば多少は想像がつく。傷を負わせた者はディアナ殿の帰還を望んでおらず、記憶の枷を課した者はその逆だ。そして恐らくは“お前を連れて戻ってくること”を望んでいる。想像の域を出ないが、今起こっている事態には説明がつくだろう」

「……何か問題が起きていて、ディアナの記憶に細工したヤツは、その解決に俺を必要としている、みたいな」

「しっくりくるがその断定もまだ出来ん。差し当たってお前が注意すべきことは……」


 リシアが総司に詰め寄り、間近でじっとその顔を見つめた。


「“首を突っ込むか否か”の判断を誤らぬように、だ」

「……お見通しだな」


 総司が苦笑する。


「お前のことだ、デミティスリーヴでのディアナ殿の状況が――――詳細にはわからんが『芳しくない』ものであれば、手を貸そうとするだろう。だが私は、そう決めつけて旅に出るというのは反対だ。お前は今でも特殊な力を持っているとは言え、以前ほどの破格の力を持っているわけではない」


 リシアが真剣な声で言った。


「己の欲求だけで道理をひっくり返せるほどの力は、今のお前にはないぞ、ソウシ。手に余ると判断したなら退くことも覚えなければならない。これから王になるお前だからこそだ」

「……わかってる、つもりだ」

「私も共に行ければよかったがな、残念ながらそうもいかない」

「アレインの許しが出なかったか?」

「取りつくしまもなかったよ」


 リシアが苦笑した。


「ついでにお前への伝言もあるぞ。『馬鹿なことしてないで領地運営に専念しろ』と。ディアナ殿には諸々諦めてもらって、第一の臣民としてルディラントで受け入れたらどうだ、とも仰っていた」

「正論過ぎてぐうの音も出ねえな」


 アレインの至極まっとうな忠告を聞いて、総司が思わず笑った。


「アレイン様にはもう、お前への命令権はないからな。あくまでも忠告として、だそうだ。とは言え理解しているな。大変ご心配なさっている」

「アイツが正しいよ。それは俺もわかってる。ただまあ……もう決めたことだ。約束もした。アレインには礼を言っておいてくれ」

「だろうな。止めはせんよ、私は」


 リシアは軽くため息をついて、話を締めくくる。


「十分に警戒し、できれば送り届けてすぐ引き返せ。それが叶わぬとしても引き際を常に意識して、己の命を最優先に考えろ。何かが起こっていて、それは恐らく危険を伴うが、そもそも現状『お前には関係のないこと』だ。忘れるな、わずか二名の臣民しか抱えていないとはいっても、新生ルディラントを立ち上げた以上、お前の命はお前だけのものではない」

「いろいろと気を遣わせちまって悪いな、リシア」

「馬鹿言え、私がお前に気を遣うことなどないし、お前が私に気を遣う必要もない。そうだろう?」


 リシアは楽しそうに笑った。二人で命を賭けて旅をしていた二か月前を思い出しているのかもしれない。


「好きにすればいいが、何事もなく帰還するのが前提だ。それさえ守ればあとは何だって良いさ。さて、そろそろ時間だ」

「早いな。一泊ぐらいしていけないのか?」

「アレイン様は私がここへ来ることすらも反対だったものでな」


 リシアが肩を竦めて見せた。


「私が来てお前と話すこと自体が、お前の背中を押す結果になると踏んでおられた。さて、あの御方の見立て通りかどうかは定かではないが……」

「お前の責任にする気はないぞ」

「わかってる。お前と久しぶりに会いたかったというのもあるからな、無理を言って少しだけ暇をいただいたんだ。相棒がどう過ごしているのか見ておこうと思ったが……不測の事態以外が至極順調そうで何よりだ。安心したよ、そっちの意味では」

「マキナとレッドのおかげで、相当快適な辺境暮らしだよ。ただ、いつまでも辺境暮らしってわけにはいかない。今回の件が片付いたら、もっともっとデカくすることを考えるさ」

「色気を出し過ぎるな。決めたからには一つずつ、やるべきことを潰していけ。何もかも同時に進められるほど器用ではあるまい」

「よくご存知で」

「お前のことはよく知っているとも。当然だろう?」


 リシアは“ジラルディウス”を展開し、総司の肩をポン、と叩いた。


「戻ってきたら報せをくれ。今度はしっかり時間を作る」

「おう、忙しいだろうが体に気をつけろよお前も。またな」


 リシアは特に名残惜しむ様子もなく、伝えるべきことだけ伝えて去って行った。久々に見た天翼の飛翔は、相変わらず爽快なスピードである。


「……相変わらず正しいことしか言わねえな、リシアもアレインも」


 総司は一人苦笑しながら呟いて、拠点に向けて踵を返した。


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