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『追放された契約書記官は《真契読解》で信用を取り戻す ――契約を失えば生きられない世界で』  作者: 百花繚乱


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試される条件

依頼書は、一枚だった。


厚みもない。

特記事項もない。


それが――

一番、危険だった。


「……これだけ?」


アリアが、紙を覗き込む。


「はい」


俺は、静かに頷いた。


《王都監督案件》

《内容:契約確認》

《是正:不可》


短い。

あまりにも。


「確認だけなら、

問題ないわよね?」


アリアは、そう言った。


だが、

彼女も分かっている。


“確認だけ”ほど、危ない仕事はない。


現場は、街外れの採掘場だった。


人はいる。

道具もある。

契約も、整っている。


事故も、

トラブルも、

起きていない。


――今のところは。


「……完璧だな」


現場責任者が、

胸を張る。


「王都式の契約です」


その言葉に、

少しだけ引っかかる。


俺は、契約書を受け取った。


眼鏡の奥で、

文字を追う。


読める。

読めてしまう。


だが――

読むな、と言われている。


(……なるほど)


これは、

真契読解しんけいどっかい

使わせるための案件だ。


「質問します」


俺は、

現場を見渡した。


「この採掘、

夜も続けていますか?」


「当然だ」


責任者は、

即答する。


「契約通り、

三交代制だ」


違反は、ない。


「夜間の照明は?」


「規定通りだ」


「換気は?」


「問題ない」


すべて、

“問題ない”。


だからこそ――

問題がある。


「……このまま続けると、

一週間以内に

事故が起きます」


空気が、凍る。


「何だと?」


責任者が、声を荒げる。


「違反はない!」


「はい」


俺は、

落ち着いて答えた。


「だからです」


「是正は不可だぞ!」


王都監督官が、

強く言う。


「分かっています」


俺は、頷いた。


「だから、

是正はしません」


一瞬、

全員が黙った。


「代わりに」


俺は、続ける。


「“確認報告”を書きます」


「確認だと?」


「はい」


俺は、帳簿を開いた。


《確認事項》

《現行契約は、条文上問題なし》

《ただし、夜間作業の疲労蓄積は

 数値上限に近づいている》

《事故発生時、

 責任所在は現場責任者に帰属》


ペンを置く。


「これを、

王都に提出します」


監督官の顔色が、

変わった。


「……脅しか?」


「事実です」


俺は、即答する。


「是正はできない。

ですが――

記録は残ります」


沈黙。


責任者が、

唾を飲み込む。


「……どうすればいい」


契約は変えられない。


だが――

行動は変えられる。


「夜間作業を、

自主的に減らしてください」


「契約違反にならない範囲で」


それが、

限界だった。


夕方。


現場は、

静かになった。


夜間の人員が、

減らされている。


誰も命令していない。


記録が、

人を動かした。


帰り道。


アリアが、

小さく息を吐く。


「……上手いわね」


「綱渡りです」


俺は、苦笑した。


「一歩間違えれば、

終わってました」


「でも」


彼女は、

俺を見る。


「読まなかった」


「はい」


その夜。


宿の机。


ルーペが、

そこにある。


使えば、

もっと簡単だった。


だが――

それは、負けだ。


(……王都は、

まだ諦めない)


次は、

もっと露骨に来る。


――王都契約院・内部記録。


《監視対象:リュカ》

《是正行為なし》

《だが、現場行動に影響を与えた可能性あり》


《評価:

依然として危険》


▶︎ 次話へ


王都は、“使わせる”状況を作り始めた。



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