同じ構造
救うために結ばれた契約ほど、
切るために使われやすい。
それを知っている者は、
もう多くない。
資料は、厚かった。
だが――
読まなくても、分かる。
(……同じだ)
孤児院支援。
雇用創出。
地域活性。
言葉は違う。
数字も、違う。
それでも――
構造が、同じ匂いを放っている。
「今回は、
地方連合案件よ」
アリアが、
資料をめくりながら言う。
「王都だけじゃない。
複数領が絡んでる」
「だから、
“正しそう”なんですね」
俺は、
眼鏡を押し上げた。
正しさは、
数が増えるほど
疑われなくなる。
現地は、
新設された保護施設だった。
孤児。
職を失った者。
身寄りのない老人。
善意の集積地。
「感謝しかありません」
責任者は、
そう言って頭を下げた。
嘘は、ない。
それが、
一番厄介だ。
俺は、
現場を歩いた。
寝室。
食堂。
作業場。
整っている。
過不足なく。
だが――
外に出る導線が、ない。
(……やっぱり)
「質問です」
俺は、
責任者を見る。
「ここを、
辞めた人は?」
一瞬の間。
「……まだ、
いません」
違反はない。
問題も、ない。
今は。
帳簿を見る。
支援金の流れ。
労働対価。
生活費。
すべて、
“中で回る”設計。
外に出ると、
支援は切れる。
(同じだ)
最初の契約と。
夜。
宿で、
俺は一人、座っていた。
ルーペは、
まだ使っていない。
(……使えば、
全部見える)
誰が設計し、
どこで切り、
いつ人が溢れるか。
だが――
それは、
“また記録される”ことでもある。
アリアが、
静かに言った。
「……どうする?」
「同じことを、
もう一度はしません」
俺は、
即答した。
「前は、
“止めただけ”だった」
「今回は?」
「最初から、
出られる契約にします」
逃げ道を、
後付けするのではない。
最初から、
入れる。
翌朝。
俺は、
現地責任者を呼んだ。
「この契約、
完成していません」
責任者が、
眉をひそめる。
「違反は、ありません」
「はい」
頷く。
「だから、
今なら直せます」
空気が、
張る。
「条件を、
一つ足してください」
俺は、
紙を差し出す。
「外部移行条項」
学習期間。
職業訓練。
外部就職支援。
「ここを出るための
支援です」
責任者は、
黙り込んだ。
善意が、
試されている。
「……それは、
予算を食います」
「はい」
即答する。
「でも、
人を囲いません」
沈黙。
やがて――
責任者は、
深く息を吐いた。
「……検討します」
それで、
十分だった。
夜。
俺は、
ルーペを手に取った。
今日は、
使わない。
(……もう、
同じ始まりにはしない)
最初の契約は、
止められなかった。
だが――
今回は、
書き直せる。




