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『追放された契約書記官は《真契読解》で信用を取り戻す ――契約を失えば生きられない世界で』  作者: 百花繚乱


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読まない契約

読めば、真実は分かる。

だが――

読まないことでしか、分からないこともある。


街道沿いの倉庫跡。


事故が起きた場所だ。


修繕は終わっている。

壊れた馬車も、もうない。


「……何も残っていませんね」


アリアが、静かに言う。


「はい」


俺は、地面に視線を落とした。


(だから、来た)


俺は、最初にこう告げた。


「今回は、

真契読解しんけいどっかいは使いません」


老人は、

驚かなかった。


「信じていいのか?」


「はい」


「結果が、

不完全でも?」


「それでもです」


沈黙のあと、

老人は頷いた。


「……それが、

君の条件なら」


契約は、

まだ書かれていない。


俺は、

帳簿ではなく、

人を見ることにした。


運送を担当していた御者。

倉庫の管理人。

同じ街道を使う他の運送者。


共通点を、

一つずつ拾う。


「時間帯は?」


「夜明け前です」


「天候は?」


「霧が出ていました」


「急ぎでしたか?」


誰も、

即答しなかった。


(……ここだ)


俺は、

地図を広げた。


街道。

分岐。

倉庫の位置。


「事故は、

不可抗力じゃない」


老人が、

息を詰める。


「だが、

違反でもない」


視線を上げる。


「“期待”です」


全員が、

首を傾げた。


「急げとは、

誰も言っていない」


俺は、続ける。


「だが、

“早く着くのが良い仕事”

という空気がある」


契約に書いていない。

だが、

評価に影響する。


「霧の日でも、

同じ速度が“期待される”」


だから、

無理をする。


だから、

事故が起きる。


「……だが、

それは慣習だ」


誰かが、

そう言った。


「はい」


俺は、頷く。


「だからこそ、

契約で縛る必要があります」


紙を取り出す。


初めて、

条件を書く。


「第一条」


声に出す。


「天候不良時の

到着遅延は、

評価に影響しない」


老人が、

目を見開く。


「第二条」


「予定到着時刻は、

“努力目標”とする」


「第三条」


「事故が発生した場合、

速度記録の提出を義務とする」


違反を罰しない。

期待を、壊す。


「……読まずに、

ここまで来たか」


老人が、

ぽつりと言った。


「はい」


俺は、正直に答える。


「読めば、

誰が悪いかは分かります」


だが――


「それでは、

また“次”が死ぬ」


沈黙。


やがて、

老人は深く息を吐いた。


「この条件で、

契約を結ぼう」


宿に戻る途中。


アリアが、

小さく言った。


「今回は、

削れなかったわね」


「はい」


「……怖くなかった?」


少し考えて、答える。


「怖かったです」


「でも?」


「信用を、

壊したくなかった」


アリアは、

何も言わずに頷いた。


夜。


机の上のルーペを、

俺は見なかった。


使わなかった。


それでも――

人は、一人救えた。


(……これも、

仕事だな)


真契読解しんけいどっかいは、

確かに強い。


だが――

信用を作るのは、

読まない覚悟だ。

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