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『追放された契約書記官は《真契読解》で信用を取り戻す ――契約を失えば生きられない世界で』  作者: 百花繚乱


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読むしかない夜

夜は、判断を奪う。

だがこの夜は――

判断させるために用意されていた。


鐘が鳴ったのは、深夜だった。


三度。

短く、切るように。


「……火事?」


宿の廊下が、ざわつく。


俺は、眼鏡をかけたまま立ち上がった。


(違う)


これは――

呼び出しだ。


現場は、河港倉庫の一角。


昼に見た、あの共同保管庫。


だが今は、

灯りが消え、

人影も少ない。


「夜間緊急出庫です」


監督官が、淡々と告げる。


「医療用物資。

期限が切れれば、明日には使えない」


――人命案件。


逃げ場はない。


「条件は?」


俺は、即座に聞いた。


「共同契約に基づく

“緊急例外条項”」


嫌な言葉だ。


真契読解しんけいどっかいは?」


「……禁止です」


即答だった。


だが、

その視線が言っている。


“使うだろう”


倉庫の中。


暗い。

狭い。

積み上げられた木箱。


三商会の代表が揃っている。


だが――

誰も、前に出ない。


「誰が開ける?」


沈黙。


「間違えれば、

責任を負う」


正しい。


「だが、

開けなければ、

人が死ぬ」


これも、正しい。


俺は、息を整えた。


(……詰んだな)


推論では足りない。

公開も、通用しない。


ここには、

“今この瞬間”しかない。


指先が、

革ケースに触れた。


中には、ルーペ。


冷たい。


「……しんけいどっかい」


ほとんど、

反射だった。


ルーペを覗く。


視界が、

夜に沈む。


《緊急例外条項:

当該物資が“唯一の供給源”である場合、

当事者の合意なく、

開封を認める》


ある。


だが――

続きがある。


《ただし、

供給の判断は

“管理責任者”が行う》


管理責任者。


今、この場にいるのは――

俺。


監督官の意図が、

一瞬で理解できた。


(……最初から、

俺に読ませる前提だ)


「この箱です」


俺は、

迷わず指を差した。


位置。

印。

積み方。


間違いない。


「開けてください」


商会の一人が、

震える手で蓋を開ける。


中には、

医療用包帯。


間に合う。


安堵が、

広がる。


だが――

その瞬間。


監督官が、

紙に何かを書き留めた。


音が、

やけに大きく聞こえた。


現場が解散した後。


河港の外で、

俺は一人、立っていた。


指先が、

まだ冷たい。


(……使った)


そして――

見られた。


エリオットの声が、

背後から響く。


「見事でした」


振り返る。


「条件は、完璧でした」


「……最初から?」


「ええ」


否定しない。


「使えば救える。

使わなければ、失う」


静かに言う。


「君が、

“どちらを選ぶか”を

見たかった」


俺は、

何も言えなかった。


「安心してください」


エリオットは、

淡く笑う。


「違反としては、

処理しません」


一拍。


「――ただし、

記録は残る」


それが、

本命だった。


「これで、

君は正式に

“危険な読み手”です」


夜風が、

冷たい。


真契読解しんけいどっかいは、

世界を救った。


同時に――

俺の首に、

見えない鎖をかけた。


宿に戻り、

俺はルーペを机に置いた。


震えは、ない。


ただ――

確信がある。


(次は、

もっと大きな代償が来る)


それでも。


「……後悔は、しない」


人が生きた。


それだけで、

十分だ。


だが――

制度は、

それを許さない。

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