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『追放された契約書記官は《真契読解》で信用を取り戻す ――契約を失えば生きられない世界で』  作者: 百花繚乱


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見えない条件

条件が見えないのではない。

最初から、見せないように作られているだけだ。

そしてそれは――偶然ではない。


依頼書には、内容がほとんど書かれていなかった。


《共同保管契約》

《紛争未満・違反なし》

《是正行為・不可》


三行だけ。


「……これは」


アリアが、顔をしかめる。


「問題が“起きていない”契約ね」


「はい」


俺は、眼鏡を直した。


(起きていない、のに来た)


それが、答えだ。


現場は、河港の倉庫群だった。


三つの商会が、

同じ倉庫を使っている。


契約は公平。

保管区画も等分。

使用時間も、均等。


誰も、文句を言っていない。


――表向きは。


「異常は?」


監督官が聞く。


「ありません」


三人の商会代表が、

揃って頷く。


声も、表情も、完璧だ。


(……揃いすぎている)


俺は、倉庫を歩いた。


音。

匂い。

人の立ち位置。


契約書には、

すべて書いてある。


だが――

**書いていない“運用”**が、

ここにはある。


(読むな、と言われている)


ルーペは、

革ケースの中だ。


だが――

使わなくても、

“違和感”は拾える。


「質問します」


俺は、三人を見る。


「夜間作業は?」


「行っていない」


即答。


三人、同時。


「緊急出庫は?」


「ありません」


同じだ。


「……分かりました」


俺は、倉庫の中央に立つ。


「この契約、

“静かに人を潰す”構造です」


監督官が、眉をひそめる。


「違反は?」


「ありません」


即答する。


「ですが――

使える人間から、

先に消える」


ざわめき。


俺は、床を指した。


「この線」


古い塗装跡。

区画線だ。


「区画は等分。

ですが、動線は?」


三つの区画。

出入口は一つ。


「奥の商会ほど、

移動距離が長い」


時間を、奪われる。


「時間が遅れれば、

評価が下がる」


だが――

契約違反ではない。


「評価が下がった商会は?」


監督官が、

代表たちを見る。


一人が、目を伏せた。


(……いた)


「これは、

条件で殴る契約です」


俺は、静かに言った。


「正しいまま、

競争を歪める」


エリオットの顔が、

脳裏に浮かぶ。


(これが、

“見ることすら足りない案件”か)


「是正は?」


監督官が聞く。


俺は、

一拍、置いた。


(……読むか?)


真契読解しんけいどっかい

使えば、

誰が設計したか、

どこまで意図的か、

すべて見える。


だが――

それは、禁じられている。


俺は、首を振った。


「是正はしません」


どよめき。


「代わりに――

公開します」


監督官が、

目を見開く。


「この契約の

“勝ち方”を」


数日後。


倉庫の運用方法が、

掲示された。


《動線距離と作業時間の相関》

《区画位置による評価補正》


すべて、

数字で。


誰も、違反していない。

だが、

誰も、誤魔化せなくなった。


三商会は、

話し合いを始めるしかなかった。


契約は、変わっていない。


だが――

運用が、変わった。


執務室。


エリオットが、

静かに言った。


「君は、

条件を“読む”のではなく、

条件を“晒した”」


「はい」


「危険だ」


「承知しています」


だが――

これは、俺の線だ。


夜。


宿の部屋で、

俺はルーペを取り出した。


使っていない。


それでも、

指先が冷たい。


(……次は、

使わせに来る)


確信があった。


真契読解しんけいどっかい

封じるためではない。


使わせ、

記録に残すために。

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