捕縛命令
朝霧の中、
街道が封じられた。
鎧の音。
馬のいななき。
――王都契約院・執行部隊。
隠す気は、ない。
「……早い」
アリアが、
低く息を吐く。
「想定内です」
俺は、眼鏡を押し上げた。
疫病案件での是正。
真契読解の使用。
契約違反。
――三つ揃えば、
即時拘束。
先頭に立つのは、
あの男だった。
エリオット。
「追放書記官リュカ」
淡々と、
事務的に告げる。
「王都契約院の名において、
身柄を拘束する」
選択肢は、
提示されない。
「理由は?」
俺が聞く。
「契約違反」
「人は死んでいません」
「結果は関係ない」
エリオットは、
冷たく言い切る。
「前例を壊した」
それが、
最大の罪だった。
アリアが、
一歩前に出る。
「この街は、
まだ不安定よ」
「関係ない」
即答だった。
「彼は、
王都の管轄だ」
俺は、
周囲を見渡した。
街の人々。
不安と、
恐れ。
そして――
期待。
(……ここで捕まれば、
全部終わる)
「少し、
時間をください」
俺は、
静かに言った。
「最後に、
記録を残します」
エリオットは、
眉を動かす。
「……三分だ」
それが、
最大の譲歩だった。
俺は、
帳簿を開いた。
疫病対策の
最終記録。
誰が動き、
誰が救われたか。
「……何をしている」
エリオットが、
苛立つ。
「責任を書いています」
俺は、
ペンを走らせた。
「誰が、
この街を救ったのか」
書き終える。
帳簿を、
アリアに渡す。
「……これは?」
「俺が戻らなくても、
条件が続くように」
彼女は、
唇を噛んだ。
エリオットが、
手を上げる。
「時間切れだ」
――その瞬間。
街の奥で、
叫び声が上がった。
「子どもが、
倒れた!」
一瞬の、
混乱。
「……行け」
俺は、
アリアに囁いた。
「え?」
「この記録を、
守れ」
「リュカ!」
彼女の声が、
揺れる。
俺は、
一歩前に出た。
「……抵抗はしません」
エリオットが、
一瞬だけ驚く。
「だが」
一拍。
「彼女は、
関係ない」
エリオットは、
アリアを見る。
そして、
小さく舌打ちした。
「……逃がせ」
部下が、
目を見開く。
「だが」
「次に会う時は、
二人ともだ」
拘束具が、
腕にかかる。
冷たい。
だが――
心は、静かだった。
馬車に乗せられる直前、
俺は振り返った。
アリアは、
立っていた。
帳簿を、
胸に抱えて。
目が、
合う。
言葉は、
いらなかった。
馬車が、
動き出す。
街が、
遠ざかる。
だが――
物語は、
ここで終わらない。
――王都契約院・執行記録。
《対象:リュカ》
《拘束完了》
《ただし》
《関係者一名、
現地に残留》
《評価:
想定外》
▶︎ 次話へ
彼女は、追われる側になった。




