路傍の石と高嶺の花々 表
こちらは男子生徒視点の表側となります
―それは人の形をした台風、とは誰の言葉だったか。
ただそこにいるだけで視線を奪い、老若男女を夢中にさせた双子の美少女。
御剣風理と御剣炎理。
薄い灰色の髪をなびかせた台風が訪れたのは、高校二年の夏休み明けの頃だった。
休み明けだけでは説明の付かない青い顔をした担任が転入生を紹介した時、野郎の視線は彼女らの体に釘付けで、女共は髪と顔を行ったり来たり。
長い髪をそのまま流しているのが風理、ポニテに纏めているのが炎理。
とは言え、リボンをほどけばすぐに分からなくなるだろうと胸を張って言える程に2人はそっくりだ。まぁ双子だから当然なのかもしれんが。
野郎共の興奮は初日から最高潮だ。自己紹介の段階から既に動いた馬鹿が出るほどには。
一瞥すらされずに一刀両断だったが。
その後も次々声を掛けられるが、リボンをほどき手を合わせて数回転。
「「どっちだ?」」
と突然の理不尽難易度の問題に全員が撃墜された。他所のクラスから来た連中も軒並潰されていた。
正直見てて楽しかったのは秘密だ。
しかし軽く見積もっても五十はくだらない数がアタックを仕掛けて誰も当てられないのは如何なものか。
灰色の台風が進路を変えたのは翌週の頭。
飯を口に放り込んでた俺の前に立った双子は、連日繰り出していた問題を出した。
何故何のアピールもアプローチもしてないのに巻き込まれにゃならんのか、と少し不機嫌な俺は当てずっぽうで風炎と指差して飯に戻った。
「「正解。よく判ったね」」
どうやら当たったらしい。心底どうでもよかったんだが。
ただ、双子にとってはそれなりに意味があったらしい。
「「どっちだ?」」
翌朝、顔を見るなりいきなり仕掛けてくる双子。
よく見た所で判るはずもないので当然当てずっぽうで指差す。
なのにまた当たった。
その後も事有る毎に仕掛ける双子。まさか二週間も続けてくるとは思わなかったし、直感のヤツがこんなに仕事するとも思わなかった。もっとテストとかで仕事してもらいたいものだが。
気付いたら時既に時間切れと頼れるナイトも言っている。
休み時間はいつの間にか側にいるし、昼は何故か同じ机で食べる。
正直止めて貰いたい。野郎共の嫉妬があまりにも怖いのだ。感情に身を任せた人間は何をやらかすか分からん。
そんなある日の金曜日。双子は最悪のお誘いを掛けてきた。
週末に遊びに出ないかとの事。
当然二つ返事で断った。
俺は双子がメインキャストの修羅場は見たいが俺が登場人物の惨殺劇は見たくないのだ。
実際、現時点ですら野郎共の視線が突き刺さってるのがよーく分かる。本当に勘弁してほしい。
だが口にしなければ伝わらないのが思いや考えというもので。
双子同時の攻勢、正直泣きたい。
必死に流してかわして断りを入れていくが一歩も退かないこの双子。
何がそこまで駆り立てるのか。
結局押し切られた俺は双子と休日まで一緒に過ごす事になった。
当日。駅前で待ち合わせと言っていたのだが姿が見えない。
いやまぁ分かってはいる。あの矢鱈人が集まってる中にいるのだろう。
とは言えそんな中に割り込める程の主人公力なんてものは備わってないし早々に撤退しようと思った瞬間にモーゼの如く割れる人垣、こっちに一直線な双子。
何故分かったと問えば、
「「なんとなく」」
の一言。もう泣きたくなった。
双子のコーデは完全なお揃いでマジで見分けは付かない。筈、だったんだがなぁ…
何故ここまで直感が絶好調なのかこれが分からない。
いつもの問題を経てどえらい上機嫌な双子の買い物に付き合う。
季節外れに暑い屋外から店内へ。
空調の聞いた屋内は涼しいが、それ以上に冷えるのが背中の冷や汗である。
まぁこんな美少女とこんな冴えない男が一緒にいたらそりゃ疑問にも思うだろうし訝しむのも当然の帰結だろう。
何しろ当事者の俺がどうしてこうなってるのか分からんのだから。
別れる前には電話番号とトークアプリの交換までさせられた。
トークアプリなんぞ入れてないと言ったら流れるように導入させられたのだ。
家に帰ってからもかなりの頻度で送られてくるトークに恐怖すら覚えたものだ。
月が変わろうと季節が移ろうと双子は全く変わらない。相も変わらずお出かけに誘われる。毎度死ぬ気で断る俺の気持ちも少しは汲んで欲しい。
そんな他人を気に掛けない事に定評のある双子だが、ここ最近はリボンすらしていない。おかげで他生徒による呼び間違いが頻発している。ただ何故確認装置代わりに俺を使うのだ。
俺自身の面倒を減らすべく、結ぶのが面倒なら伊達眼鏡でも掛けたらどうだと提案したら、
「「眼鏡好きなの?」」
と問われる。好みでは有るがそれをわざわざ明かす必要は無い。見分け付かないのは不便だろうと真っ当な理由で乗り切った。
翌日双子がフレームカラーが違うだけの眼鏡を掛けてきた。風理が緑で炎理が赤。
違うそうじゃない。
期末が近付く頃、家での勉強会をしようと双子が提案してきた。
何故か俺の家で。
当然全力拒否である。誰が好き好んで一人暮らしのアパートに他人を入れるものか。
とは言え普通や必死に断るだけでは押し切られるのは明白、俺とて学習はする。
ので素直に一人暮らしだから部屋は無理だと断る。
勢いで押し切ろうとする双子に対し、クラスメイトからの援護射撃が飛ぶ。
そう、俺一人で無理なら環境を味方に付ければ良いのだ。
事実、野郎共の援護が尋常ではない熱量で飛んでくる。九割方嫉妬由来だろうが俺が助かるなら何でも良い。
その後、四方八方から撃たれた双子は不承不承ながら諦め、辛うじて勉強会は避けられた。
しかしなぜわざわざ家で?図書館やら室やらあるというのに。
試験さえ終われば学生は解放感に満ち溢れるものだ。
まして今は師走。直近にイベントが山盛りなのだ。俺には無縁…の筈だったのだが。
例の如く双子のお誘い。今度は双子の家でクリパときた。
今までは踏ん切りが付かなかったが流石に例の札を切るべきか。
俺は双子に出来る限りのチャラい雰囲気と口調で問うた。
―随分熱心じゃないの。もしかして俺の事好き過ぎか?
と。俺のような非モテがやればただの勘違い男不可避な黒歴史確定の自爆技ではあるものの、相手の感情を逆撫で出来る効果は無視出来ん。というか今回はそれこそが目的である。しかし、
「「今更気付いたの?」」
「そう、私達は君が好き」
「誰にも渡さないし逃さない」
「「双子の包囲、逃げられると思わないでね?」」
これである。最後のセリフにいたっては耳元でASMR。興奮よりも恐怖で膝から崩れ落ちそうになったのを持ち堪えたのは喝采に値すると自分では思う。
おかしい、何故こんなにも好感度が高い?
俺が何をした。何をやらかした。
分からない判らない解らない。
誰が助けてくれ。
自爆した筈が自縛していた放課後から暫く。テストの返却も終わり終業式を越えた俺に敵は無い。
直接顔を合わせないのであれば双子なぞ怖くはない。
決して増え続けるトークの未読や鳴り続けるスマホから目を逸らしているわけではない。決してないのだ。
流石にうるさいのでスマホの電源そのものを落とそうとした時にまた着信。ただ今回は親父からだ。親を無視する訳にはいかぬと素早く操作。
「久しぶりだな。年末は戻ってくるのか」
単純明快、簡潔に要件のみ。実に親父だ。謎の安心感を覚えつつ卒業まで戻るつもりはない事を伝えた。
親父の事は嫌いでは無いが母と弟の顔は見たくないのだ。
劣等感と殺意にも似た悪意。常日頃から比較され続ければこうもなる。
「そうか。身体に気を付けるんだぞ」
そう言い残して通話は切れた。直後に鳴るスマホ、相手は双子の片割れ。
俺は流れるようにスマホの安心感を落とした。
これで次の登校までは平穏だろうさ。
年始、つまり元旦である。
俺が住んでいるアパートからは徒歩圏内に神社と寺が一つずつ存在している。無論どちらにも詣でる。
余所から来ているなら土着の方々にはしかと挨拶するが礼儀。
とは言えどちらから詣でるか、それが問題だ。どちらも距離はほぼ同じ、選択次第ということだ。
迷った挙げ句、神様に未来を託した。
さぁ最高の年始を始めよう。
おお神よ宴会の酒が抜けてないのか寝過ごしたのか。
何故あの双子が此処に居る?
俺は住所を話した覚えはないしその辺の情報管理は徹底していた筈なのだが?
おい待て双子、ナチュラルに俺を巻き込むな挟むな腕に絡み付くなそもそも何故此処に居る。
「「乙女の直感」」
嘘だッ!
その後結局二詣でが終わるまで双子は張り付き続けた。
どうやら今年は厄年らしい。心底勘弁してほしい。
散々な年始を越えて二月。
そう、二月だ。モテる男はお返しに頭を悩ませ、非モテはそんな光景を血涙と殺意と共に眺める地獄のバレンタインがある。
製菓会社の陰謀がどうとかは学生には無関係、教室にはチョコの香りが淡く漂う。
そして例の双子。
予測可能回避不可能な速さでチョコを送り付けてきた。
どう見ても手作りのハートです本当にありがとうございました俺に氏ねと申すか。
最早物理的圧力すら感じさせるほどの視線が突き刺さる。
胃に穴が開いてないのが不思議なほどだ。
家に持ち帰ってから味わう。成る程旨い。
これが手作りというものか。
だが双子にとってはチョコはあくまでオマケだったらしい。
チョコに同封されていた手紙、こちらが本命のようだ。
読み終えた俺はそう思った。
何しろようやく双子の気持ちが理解出来たのだから。
いや理解出来たというのは少々傲慢だろう。あの辛さは本人達にしか分からん苦しみだろうからな。
まぁ知った以上は答えを返さねばならん。
人として、何よりも男として。
運命の三月、ホワイトデー。
二人分のお返しと、一人分の答えを用意して。
俺は扉を開けた。
裏面と合わせてお楽しみ下さい
お粗末様でした




