『鉄砲撃ちと黄色プレスマン』
ある村に鉄砲撃ちがいました。村には鷹が多くいて、子ヤギをさらったりするので、鉄砲撃ちは、村人のために、鉄砲を担いで、村で一番高い木に登りました。鉄砲撃ちはあたりを見渡しましたが、鷹の姿は見えません。小半刻もたったころ、お日様の中に小さな点があるような気がして、まぶしいのを我慢しながら見ていますと、その点が次第に大きくなってきます。これは、と思った瞬間、鉄砲撃ちは、鷹に捕まえられて、宙吊りにされていました。宙吊りにされたとき、鉄砲を落としてしまい、へたに暴れて高いところから落とされても困るので、子猫のようにじっと吊されるがままになっていましたが、随分たって、大鷲があらわれて、鉄砲撃ちを吊した鷹を襲おうとしました。鷹は、たまらず、鉄砲撃ちを離し、鉄砲撃ちは、真っ逆さまに落ちていきました。ちなみに、鷹と鷲は、生物的には同じ鳥で、人間が、名前を呼び分けているだけです。
幸い、下は海で、鉄砲撃ちは、何ともありませんでした。まあ、陸地の見えない海の真ん中に落とされたことを、何ともない、と言ってよければ、ですが。しかし、鉄砲を落としたのは、明らかな幸いでした。重たい鉄砲を持っていなかったので、鉄砲撃ちは、浮き身で浮いて、どうしたものか考えるだけの余裕がありました。浮き身で浮いている鉄砲撃ちの回りを、鯨だかイルカだかが、ぐるぐる回りました。ちなみに、鯨とイルカは、生物学的には同じ海獣で、人間が名前を呼び分けているだけです。
鯨とイルカが潮の流れをつくってくれたのでしょうか、何もしていないのに、鉄砲撃ちは、いつの間にか、ほぼ岸に着いていました。名前も知らない川の河口に近づくと、ちょうど大勢の鮭が遡上するところで、鉄砲撃ちは、鮭たちに押されて、川をさかのぼることになりました。川の中ほどまで来たころでしょうか、川の両側の村人たちが、水争いをしているのが見えました。十分な水量の川であるのに、水争いをするのは、水に困ってではなく、水をどう分けていいかを決めかねるからであると見た鉄砲撃ちが、胸に差していた黄色プレスマンを投げると、たちまちのうちに中州ができて、それぞれの岸から中州までの水をとる形になりました。それぞれの岸の者たちは、鮭が連れてきた男が、不思議なわざを見せて、争いを鎮めてくれたので、このこと以来、鮭は食べず、かわりに鱒を食べるようになりました。ちなみに、鮭と鱒は、生物的には同じ魚で、人間が呼び名を分けているだけです。
教訓:酒と升は同じものではない。




