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嫉妬

作者: Edgar

桜舞う季節。出会いの季節。そして嫉妬の季節。私は今日もあの子が気に入らない。

私の左隣。凛としたすまし顔で本を読む。人付き合いなんかなくいつも孤独なあの子。誰も彼女に話しかけたりはしない。唯々あの子は本を読むだけだ。

「やっぱ××って不気味よね。」

「話してるの見たことないよ。怖いね。」

「そうね。」

私は仲の良い二人に同調する。

「はいじゃあ朝礼始めるぞ!みんな座れ。」

「はーい。」

「へいへーい。」

二人は自分の席に座った。

「えーと。今日は授業変更があって…」

その後も先生の話は続き、隣のあの子は何も気にする様子は無く本を読み続けている。ふとあの子が私の視線に気づいたのかこちらを向く。私は焦りほかの方向を向く。あの子はまた本に目を落とし始めた。焦ってしまった自分が何だか馬鹿らしくなって少し怒りさえ覚えてしまう。あの子は正直言うと顔が整っていてすらりとしていてスタイルもよく私が争おうとどこも勝てるところはない。その事実に改めて嫉妬する。

「××さん!今日昼休みちょっと話があるんで校舎裏に来てください!」

学年一イケメンでスポーツマンの君津君があの子に話しかける。すると周りが一気に沸く。

「おいおいまじかよ。あいつ××に告るんじゃね。」

「まじかよ。好きな奴いるとは言ってたけどまさか××だったとは。」

「ムキィィィ。君津君があんな奴に。」

「うそでしょよりによって××なの…私君津君のこと好きだったのに。」

クラスのざわざわが最高潮になり収拾がつかなくなる。その時

「はいそれでは授業始めますよ。ほら早く座って。」

一限の担当の先生が入ってきて生徒を着席させる。

「ほらほらさっさと座った座った。おい松灯なんでないてるんだ。」

「なんでもぉ無いですぅ…うぅ。」

クラスの女子の大半が泣いている。地獄絵図だ。左を見るとあの子は動揺する様子もなくただ本を読んでいる。その姿は堂々としていて逆に美しくもあった。この空気が地獄のようでなければの話なのだが。

そうしてなんだかんだ四限が終わり昼休みになった。あの子は席を立ち校舎裏へと向かっていった。

「ねぇねぇ見に行こうよ。」

「えーカップル成立の瞬間なんて見ても悲しくなるだけだよぉ。」

「じゃあ行かないの?」

「行くよぉ。」

「あんたも行くでしょ?」

「わかったわ。」

私たちが校舎裏の近くに行くと学年中のみんなが集まって君津君の告白を見守っていた。

「あ…あの××。おれ××のことが好きだ。付き合ってください!」

「気持ちはうれしいけどごめんなさい。」

「え…あ…わかった。でも俺まだあきらめないから。」

君津君は走って行ってしまった。

みんなは君津君のほうに走っていき君津君のことを慰めていた。

「あいつ信じられないな。お前の告白断るなんて。」

「まじで最悪すぎんだろ。」

「は?まじであり得ないんですけど君津君の気持ちもてあそんだ挙句断るとか。」

「私は好きだったのに。××なんて…」

クラスどころか学年中は再び地獄絵図になった。何ならさっきよりもひどい。君津君の告白を受け入れなかったという怒りと女子たちの悲しみとであの子への噂話と愚痴と陰口だらけだった。しかしそんな状況の中でもあの子は動揺することなく唯々本を読むだけだった。ふとあの子が視線に気づいたのかこちらを向いた。彼女は目が合うと少しにっことしたような気がした。私は慌ててそっぽを向いた。

その日からもともと浮いていたあの子はさらにクラスで浮くようになった。誰もあの子に話しかけないしまぁそれはもともとだったが。というかもともと人付き合いがなかったのが功を奏したのかあの子へのみんなの嫌悪感は高まろうと特にあの子に何かがあったわけではない。むしろ何も変わらなかった。あの子はずっと本を読んでいる。そんな日々が一日また一日と過ぎていき季節は葉が散る季節に変わっていた。巷では文化祭の話でもちきりだった。

「文化祭でお化け屋敷やろうぜ。」

「いやいや食品だな。」

「お前食べたいだけだろ。」

「あはははは。正解。」

「私文化祭であの人を誘ってみる。」

「うぇ!まじ!え応援してるわ。」

「私は君津君誘ってみるわ。」

「まじか。君津君まだあきらめてないらしいよ。」

色々な話とうわさが飛び交い盛り上がりは最高潮に達していた。そして当日が近づき、教室はお化け屋敷に魔改造されていった。あの子は教室にいなかった。教室が魔改造されると机も椅子もないからあの子はどこかへ行ってしまっていた。それでもクラスのみんなは誰も気にしなかった。そうやって貴重な準備期間が過ぎ、ついに明日にまで文化祭が迫っていた。

「やっと終わった。みんなお疲れ!」

クラス委員長の君津君がみんなに慰労の言葉をかけた。

「やったーー!」

「おつかれーー!」

みんながみんなをねぎらう言葉で教室は溢れた。でも私は少し上の空だった。なんだか胸がもやっとした。

「ねね。文化祭準備終わったことだしお茶しない?」

「えいいねいこいこ。あんたも行くっしょ。新作飲みたかったんだぁ。」

私は二人に誘われた。が。

「ごめん今日はちょっと予定があって二人で楽しんで」

「えまじ。そっか。じゃまた明日。」

「明日から楽しもうね。」

私は二人を見送った後、校舎内をぐるぐると回った。屋上に行くといつもは締まっているドアが開いていた。屋上に出てみるとあの子がどこからか持ってきた椅子に座り、本を読んでいた。その姿はあまりに美しく夕日に混ざりきれいすぎて言葉すら出なかった。あの子はこちらに気づくとにこりとしてまた本に目を落とした。私はふと我に返る。

「行かなくていいの?」

気づくと私はあの子に質問していた。

「独りでいいの?」

「行ったら迷惑かけちゃうよ。きっと。あなたこそいいの?いつもの二人は行っちゃったよ?」

「それはいいの。断ってきたから。あなたずっと独りで本当にいいの?」

「優しいのね。大丈夫よ。私はほかの人よりも少しだけ生きるのと暇をつぶすのが上手だから。」

そういってあの子は少し微笑む。

「行ったほうがいいよ。一緒にいるのがばれたらあなたまで仲間外れにされちゃう。わたしもそろそろ帰るし。先におりたほうがいいわよ。」

「でも…」

「それに私は独りじゃないから大丈夫よ。」

キーンコーンカーンコーン「生徒の皆さんは直ちに下校してください」最終下校時刻のアナウンスが鳴る。私は先におりることにした。

階段を降りると下駄箱には君津君がたっていた。

「よっ!元気してる?」

「君津君。」

「一緒に帰ろうぜ。」

わたしと君津君は幼馴染で家が隣同士で近い。でも中学からは男子生徒としか君津君は帰らないから一緒に帰るのは大体3、4年ぶりだった。

「なぁ藪からスティックで申し訳ないんだけどさ…」

「藪から棒でしょ。でなに?」

「さっき話してたのってさ××さんだよな。」

ドキッとした。

「ええ何で知ってるの。」

「いやさ××さんさずっと姿が見えなくてささすがにクラスとしてまずいから探してたらたまたま見ちゃった。話してるところ。」

「別に特になにも話してないよ。いじめたりとかはしてないから。」

「いやそりゃわかってるよ。おめーそういうことは絶対しないって。もう俺ら9年目だぜ?もうぎっちぎちに繋がった絆があるじゃん。」

「表現きっも。誤解が生まれるから外ではそーいう発言控えな。」

「あはは冗談だって。いやー俺のせいで××さんに迷惑かけちゃって申し訳ないなって。」

「噂はほんとだったのね。あんたがそこまで一途だったのは驚いたわ。」

「まぁね☆いやでも本当に申し訳ない。だからさよかったら謝っといて。ごめんって。」

「私は伝言役かい。まぁいいわわかったわよ。伝えとく。でも次いつ話すかわからないわよ。」

「いいよいいよお願いね。頼りにしてるぜ!おちょうど家着いたな。じゃあな明日から文化祭頑張ろうな。」

「へいへい。」


「寝れない。」

ご飯と風呂も済ませて私はベッドに入っていたけどなかなか眠ることができなかった。あの子のことが頭から離れなかった。そして君津の言ったことも頭から離れなかった。

「生きるのと暇をつぶすのが上手か…」

確かにそうかもしれないな。あの子は君津を振ったことでヘイトを買ったけど特に生き方や生活が変わったわけではない。変わっていったのは常にほかの人たちだった。あの子は私みたいにこんな迷うこともないんだろうなと思う。そんなことを考えていると少し腹が立つ。今度は自分に。仕方がないから君津に言われたことを話しに行くことを決めた。別に私が話したいとかそういうことを考えているわけではない。あくまでも伝言役としてだ。自分にそう言い聞かせる。そのうち意識が遠のき眠りについた。

翌朝学校は文化祭で皆浮かれていた。男子が女子を誘い、女子が男子を誘って文化祭を回ったりだとか食品を全制覇しようとするだとか。私は紅茶を二本買って屋上に向かった。

ガチャ。重い扉が開き外から心地よい風と光が差し込んでくる。あの子は予想通り今日も屋上にいた。

「また来たの?」

「別に大丈夫よ私はそんな仲いい人がいるわけじゃないし、嫌われたって別に構わない。そう決めたもん。ん。紅茶これあげる。」

「え。いいの?ありがとう。でも何か理由があってきたんじゃないの?」

「まぁそうだね。伝言頼まれちゃってさ。君津から。ごめんだってさ。俺のせいでクラスがあなたのことを嫌っちゃって本当に申し訳なく感じてるってさ。自分で行けって言ったんだけどさ。もう俺の顔も見たくないだろうからって。一途なんだよあいつ意外と。」

「ごめんだなんてそんな。」

「というかさなんで振ったの。」

「私に君津さんは合わないと思ったの。」

「まぁ遊んでそうな見た目してるし。陽キャだしね。」

「そうではないんです。君津さんに私が釣り合わないと思って。」

「いやバリバリバリに合うでしょ。」

「あの方は生徒会長で運動部エースでコミュ力も高いので。私のようなコミュ障陰キャは合わないかと。」

「いやあなた美人じゃないすかスタイルもいいじゃないすか。なんすか自慢スカ。」

「いや自慢ではなくていやその。不快な思いにさせてたらごめんなさい。」

「あごめんごめん。ジョークで言ったつもりで。大丈夫大丈夫。てか顔真っ赤だね。あなたこそ大丈夫?」

「えいや私そんな真っ赤?恥ずかしい。」

なんか色々感情がぐるぐるして収拾が全くつかないが思ってた人物像と違った。もっとお堅くて氷の女王のような人だと思っていたが案外人間らしくて驚いた。

「私から提案なんだけどさ。君津のことは別に嫌いじゃないんだよね?」

「はい。全く嫌いじゃないです。」

「じゃあさ。あいつと文化祭回ってあげてくんね?明日でいいからさ。」

「え。無理ですって私なんかにそんなそんなそんな…」

プシューといいショートしそうなくらい真っ赤になったあの子を見て私は何とも言えない気持ちになる。

「嫌なの?」

「いや嫌ではないです。でも私にそんな…。」

「んじゃ。明日ね約束しとくから。いいね。」

「は…はい。」

私はそう言って屋上を立ち去った。一日目の文化祭終了後、帰り道で私は今日話したことを説明した。

「うぇ!まじで言ってんの?最高すぎだろ。」

「はぁ。感謝しなさいよ。」

「えまじでこのご恩は一生忘れませんわ。」

「一時間もしたら忘れるでしょあんた。」

「ははは。そのとーり!」

「誇ることじゃないでしょ。」

「てかさやっぱおめーはこのほうがいいよ。」

「どゆこと。」

「なんか昔に戻ったみたい。こっちのほうが俺好きだわ。お家着いたわ。てかまじ感謝感激雨あられ。ありがとなじゃまた明日。」

そういうと君津は帰ってしまった。

「ばか。」

私はそう一言だけ小さくつぶやいた。

次の日あの子を屋上から引きずり下ろし君津と文化祭を回らせた。途中から私は見ていなかったが大成功だったらしい。だが君津は告白はしなかったらしい。理由を聞くと「俺が掴んだチャンスじゃないから」だそうだ。全くどこまで行ってもバカ真面目だなと感心する。だけどいいことばかりではなかった。後で二人から聞いたが女子からは大批判だらけだったらしい。「一回振ってるのに何様!」「またもてあそんでる。」そーゆー陰口ばかりだった。だけどあの子は気にしない。聞こえるほどの陰口が飛び交おうと唯々本を読むだけだった。放課後屋上に向かうとやはりあの子が椅子に座り本を読んでいた。

「また来てくれたのね。ありがとう文化祭は久々に楽しかったわ。」

「久々?」

「私中学のころ仲間外れでいつも本読んでたから。昨日初めて楽しいと思えたわ。ありがとう。」

中学の頃も今もおそらくみんな嫉妬なのだろう彼女の美貌に勝てないがためにみんな寄ってたかって仲間外れを決め込んだのだろう。

「そっか。よかったわね。」

「えぇあなたのおかげよ。ありがとう。」

「それで渡したいものがあるの。よかったらなんだけどね。」

「申し訳ないなぁ。」

「紅茶の分のお返しもしたかったからいいの。はいこれ。私の好きな本なんだこれ。」

そう言って彼女は私に新品の本を渡す。

「えいいよ悪いよ。」

「いいのいいのもらって。」

「じゃお言葉に甘えて。ありがとう。」

幸せそうな笑顔になった彼女はとてもまぶしかった。

「もしよかったらなんだけどね。一緒に本読まない?あなたとなら一緒にいて楽しいって思えるの。」

正直なところ私は本を読むのはあまり好きではなかった。だけど…いい人すぎる。彼女の希望のまなざしに負けて私は。

「わかった。いいわよ。」

「やった。うれしい。おすすめの本いっぱい持ってくるね!」

それから私たちは放課後一緒に本を読むようになった。最初は遅かった読むスピードも少しずつ速くなっていった。そんな日々がしばらく続いてそろそろ雪が融け始める季節になったとき事件は起きた。

「今日も放課後会いましょう。」

「わかったわよ。今日のおすすめの本は?」

「ずばり『蝉の足跡』です。」

「蝉の本冬に読むのかい。」

「冬だからこそですよ。」

私たちが会話していると。

「ねぇちょっといい?お二人さん。」

と呼ぶ声がして二人が振り向くとそこには松灯をはじめとした女子の集団が立っていた。

「ちょっとお話いいかしら。」

「なんですの?」

「君津君をこれ以上もてあそばないでいただけますか?」

「え?」

「え?じゃないでしょ。一度振ってるにもかかわらずあなたは文化祭から継続的に君津君と話してるじゃない。もうもてあそぶのはやめてよ。」

「私は決してもてあそんでるわけでは…」

「黙ってて!あなたのせいで私の計画ぐちゃぐちゃよ。私たちは君津君のこと大好きなのに。」

「そーよそーよ。」

後ろの取り巻きたちが声を合わせる。

「あなたもそーよ。××と君津君がくっつくよう協力したらしいじゃない?いい度胸してるわね。最近付き合いが悪いと思ったら××に協力してただなんて。」

「好きな人がいる人応援して何が悪いってのさ。あんたら趣味悪いぜ。実力で勝てないからって寄ってたかって。」

「君津君の幼馴染だからって調子乗るんじゃないわよ。今まで仲間に入れてあげててもらった身分の癖に。」

「もう入れてくれなくていいわよ。あんたらよりこっちのほうが居心地いいからな。人をけなすことしかできないあんたと違ってね。」

「ムキィィィ。一度痛い目見ないとわからないようね。」

「喧嘩はやめましょうよ。」

「あんたは黙って。」

松灯が彼女の胸ぐらをつかむ。私はそれを振りほどくが力が入りすぎて松灯は倒れてしりもちをついた。そこで君津が教室に入ってきた。すると松灯がここぞとばかりに泣き出す。

「君津君聞いてあの女が私のことを倒してきた。暴力よ暴力。うわーん。」

そこで先生も教室に入ってきた。

「おいこれはどういうことだ。職員室に来なさい。」

私と松灯とその取り巻きは職員室に呼ばれて事情を聴取された。当然松灯と取り巻きはでっち上げしか言わないが多勢に無勢で私が悪いことにされてしまった。あの子は先に帰らされてしまっていたみたいで私は一人で重い足を動かし家に向かっていた。すると後ろから声が聞こえてきた。

「おい。本当はお前じゃないんだろう。」

君津の声だ。

「何を信じようとどうでもいいよ。多勢にゃ無勢だよ。」

「俺はお前を信じるよ。何があった。」

いっそのこと言ってしまおうかと思った。だけど言ったら君津は少なからず傷ついてしまう。それはわかりきっていたことだからそれだけは言わなかった。

「言わないってことは言えないわけがあるんだな。俺が傷つくからだろ。」

「…」

「図星か。言ってくれ。この先また同じことで傷つけたくない。お前も××さんも。9年の絆だぞ信じてくれお願いだ。」

「あんたとあの子が仲いいのが癪に障ったみたい。松灯があんたのこと異常に好きなの知ってるだろ。そーゆーことだよ。あの子を傷つけようとしたからかばった。そこでへましただけ。」

「そうか。ごめんな大丈夫か。」

「私よりあの子を心配してあげな。相当心に来てるだろうから。」

「うん。明日話してくる。」

「へいへい。いってらいってら。」

「なぁ。」

「何?」

「本当にありがとな。××さん守ってくれて。」

私たちは家につき中に入った。

次の日あの子は学校に来ていなかった。次の日も、その次の日もいなかった。そうして一週間がたった。

「さすがにおかしいよな。こんなに学校に来ないなんて。」

「そうだね。さすがにおかしい。私家に行ってあってくるよ。明日。」

「本当に。お願いします。俺も話しつけられてないから××さんが元気になったら学校で話付けるよ。」

「えあんたいかないの?」

「だってまずいだろ。付き合ってもない男子が女の子家尋ねたら。」

本当に変なとこだけ真面目なのだからこいつは。まぁそこがこいつのいい点なのだろうが。

「とりあえず様子見てくる。」

「わかった。」

家に帰った私はいつもより早くご飯と風呂を済ませベッドに入り眠りについた。


ぴーんぽーん。呼び鈴を鳴らす。

「あなたなの?」

インターホン越しに曇った声が聞こえる。

「そうだよ。開けて。」

「私といたらあなたが不幸になっちゃう。だからここにいないほうがいいよ。」

「そんなこと面と向かって話してから言ってよ。インターホン越しに話して突き放さないでよ。しっかり正々堂々と話してからでも遅くないでしょ。お願いだから開けてよ。」

ガチャ。玄関のドアが開いた。

「わかった。しっかり話す。」

私は彼女の部屋に上がらせてもらう。彼女は紅茶を出してくれた。

「私といたらあなたが不幸になっちゃう。いじめられちゃうよ。それは嫌なの。だからもうかかわらないで。」

「私が不幸か幸せかは自分で決める。あなたがいないと嫌だ。」

「私みたいな浮いてるやついらないよ。みんなのことを傷つけちゃうんだよ。あなたのことも」

「あなたが浮いてるんじゃない。みんな沈んでるんだよ。あなたは美人でスタイルもよくて話していて楽しいし共感もしてくれる。それに何よりも本のセンスがいい。」

「本なんて私が無理やり押し付けただけじゃん。我慢してたんじゃないの。」

「違う。あなたの選ぶ本は読んでて楽しかった。それにあなたと本を読む瞬間が一番幸せなの。言葉なんか交わさなくてもいい。それでも楽しいそんな時間を過ごせるのはあなただけなのだから戻ってきてよ。お願い。」

「私が戻ったら。戻ったらまたみんなを…」

「みんななんかどうでもいいよ。私あなたのおかげで初めて生きがいができたの。一緒にいて楽しくて幸せで本当に最高な時間をあなたの周りだけでは唯一過ごせたの。」

「私いてもいいの?本当にいてもいいの?」

彼女は泣きながらこっちに問いかけてくる。

「あたりまえだよ。あなたは私にとってただ一人の友達だから。」

私は思わず彼女を抱きしめる。彼女はうぉんうぉんと泣いている。

「だから呼んでもいいかな。あなたの名前を。」

「うん。春香。呼んで。」

「あなたの名前は…」



愛桜奈あおな!学生の時はいろんなことがあったね。やっぱ二人はお似合いだよ。結婚おめでとう!」

目の前にはウエディングドレス姿の愛桜奈とタキシード姿の君津が座っている。あの後君津は愛桜奈に告りOKをもらい付き合ってその後約10年付き合い、ようやく結婚式の費用がたまり今式を挙げている。私は二人の共通の友人としてスピーチをしていた。であった頃の話とかその後の話とかいろいろ話してくうちに目の前の愛桜奈は今にも泣きそうだ。君津も懐かしがっているようだった。私たちは高校では3人クラスから浮き続けてしまったが、大学では君津はスポーツのサークル、私たちは文芸サークルに所属したくさんの友人を作って幸せに過ごした。就職もうまくいき私たちは今順風満帆な人生を送れているのだろう。高校では本当は君津のことが好きで途中まで君津のタイプになるためおしとやかな女子を演じようとしていたけどやっぱり愛桜奈にはかなわなかった。嫉妬がないといえばうそになる。でも親友と親友の結婚はうれしいものだった。

「どうかこの二人の幸せが永遠に続きますように!」

「春香…本当にありがとう。」

「やっぱおめーは最高だよ。」

「愛桜奈。いつでも嫌になったら逃げてきてね。」

「きっと君津君なら幸せにしてくれると思う。」

「絶対幸せにしろよバカ君津。」

「あったりまえだろ!後馬鹿は余計だ。」

周囲に笑いが起こる。これからもずっとずっとずーっと日々は続いていく。

桜舞う季節。出会いの季節。そして嫉妬の季節。私は今日もあの子が大好きだ。


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