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群青と焔(あおとあか)  作者: 旭ゆうひ


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焔翼の戦姫編 この子のために

 長が安堵し、ハフネの話も終わった頃。

 少女は疲れていた。

 『緊張』と『断罪と責任』、『他者からの

 視線』に疲れていた。

 お腹いっぱいご飯を食べたせいもあり、眠さも到来し船を漕ぎ始めていた。


 そんな赤毛の少女を暖かく見守る長だった。


「なぁ、おっちゃん」

 ショーが長へ気安く声をかける。

 少し前、皆でその行為を止めた六鍵のメンバーだったが、本人が構わないと言っているものを何度も止めるのは逆に失礼にあたるため、ヒヤヒヤしながらもショーの次の言葉を待った。


「さっきのアレ、結局なんなんだ?」

神子(ヒスィカ)の事か?」

「そう!それ!――最後に『カ』って付くってことは……草原の文化だと神聖な何かなんだろ?」

「おお!よく知ってるな少年!」

「勉強したんだ!……でもよ、メルが神聖なってのがよくわかんねぇ」


 首を捻るショーに笑顔で答える長。


「『ヒスィカ』と言うのは我ら氏族の、ひいては草原の守護者のようなモノでな、巫女の中から現れるとされている」

「ふーん……よくわかんねぇや」

「そうか!わからんか!……実はな、われらにもよくわからんのだ!」

 ガハハと長が笑う。

 ショーもつられて笑う。


「だがな、我らにとっては大切なモノでな。どうやってなるのか、なったらどうなのか……口伝でしか情報がない。文字に出来んのだ。だから、もしかしたら間違った内容で伝わっているかもしれん。もしかしたら、そもそもそんなモノは存在しないかもしれん」

「……なんだいそりゃ。そんな者にこの子を縛りつけようってのかい!?」

 ハフネの声が少し、固くなる。

 それは肩へ寄りかかって、眠りにつき始めた少女を思っての事だった。


「客人よ、その子のために憤りを覚えてくれるのはありがたいことだ。だが、草原の民たる者は巫女(みこ)に選ばれ神子(ヒスィカ)に成るのは名誉な事なのだ。それはその子も承知している」


「その神子ってのはどんな扱いをされるんだ?貴族的なものか?」


「ふむ……貴族的と言うのが分からないが大事にされる事は間違いない」


 それを聞いてほっとしたハフネだったが、それは次の言葉を耳にするまでだった。


「大事な【(にえ)】だからな」


 贄とは神や精霊に捧げる供物などを意味する言葉だ。


「に……贄?それは――どういったかたちで?」

 ハフネだ。

 寄りかかる少女の肩を抱きしめながら、込み上げる感情を抑え込みながら……そう聞くのが精一杯だった。


「そう怖い顔をするな。何もそう成ると決まったわけではない。神子となり、人としての天寿を全うしたモノはいた()()()。それに、仮にそうなったとしてもその名誉は語り継がれその一族は繁栄が約束されるのだ。その子とて、それを望んでいるはずだ」

「そんな――そんなもののために、この子は命をかけてここまで帰ってきたってのかい……」


 馬鹿げてる。

 その言葉をかろうじて飲み込んだハフネの脳裏には、無邪気に笑う赤毛の少女が浮かんでいた。


「じゃぁこの子は!……この子は死ぬために戻ってきたってのかい」


「場合によってはそう成る……」

「ふざけんな!」

 セイロだった。

「ふざけんなよ!メルを生贄にしようってのかよ!」


「ガッハッハッハッ!」

「な!?」

 呵呵大笑。意表を突かれたセイロはその勢いを失い、再びその場に腰を下ろした。


「落ち着け、若人よ」


 セイロにだけではない。

 その場にいる彼女の仲間たちへかけられた言葉だった。



「それもこれも、神子と成り、その定めが来た時の話だ。そもそも神子になろうとしてなるわけでもない。今代の神子も元気にヒトの生活をされておる。わしが言いたいのはだ、客人たちよ、そうなったとして悲しむ事はないと言う事だ」


 納得できなかった。

 腕の中で眠る少女の未来に、そんな可能性があると言うだけで、納得できるはずがなかった。

 それでも――ハフネは、文化の違いというものを理解している。

 その身に刻まれた紋章魔術は彼女にとっては当たり前であり、家族の絆そのものだ。

 しかし、他所ではそうではない。

 ならず者として見られる事もあれば、紋章魔術を知る者からは恐れられたりもする。

 仕方のない事だと分かっている。

 だから、少女のことも、セイロの様に感情のまま抗議することができない。

 文化の違いをわかってしまうからだ。


「それでも!それでも俺は――メルニアに生きて欲しい!こいつが贄になるのを納得するなら、縛って誘拐でもして止めてやる!」


 そんな事はできやしないのに……ハフネは心のどこかでそう思ってしまった。


 セイロは拳を握りしめて、言葉を紡ぐ。

「俺はメルニアが好きだ!だから!……だから……」


 俺はメルとやった。

 そう嘘をつきかけてやめた。

 最初は、そうすれば巫女ではなくなり、神子にはなれない。

 悲惨な運命を回避できるいい案だと思えた。

 けれど、メルニアが喜ぶかと考えた時、セイロの知る少女は、烈火の如く怒る姿しか思い浮かばなかった。


「この子は幸せ者だな。我ら草原の民以外にも、この様に慕われている。この子はきっと神子になるだろう。それでも、その友誼を絶やさないでやってくれ。それがいつかこの子のためになるかもしれない」


 六鍵の大人たちは理性や知識から動けず、子供であるセイロは感情を爆発させ、ショーは難しい話についていけなかった。


 そんな中、ハフネの肩を借りて寝る――フリをする少女は、ただただ動けないでいた。



 

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