第二章 転生 おもい。
一部誤植がありましたので修正いたしました。
わたしの中で人気なあの方が登場。
みなさんにも好きって言ってもらえるように、魅力を伝えていきたい。
なにはともあれ、第8回です。
よろしくお願いします。
天女に何とか土下座をやめさせた後、とにかく水場の探し方を教わり、今はその水浴び中だ。
そのなかで語られた事がいくつかある。
まずは異世界転生でよくあるチートは、ここではギフトと呼ばれている。
転生者が前世で死亡時に願っていたことを、叶える形で与えられるものだ。
今回、この転生者が死んだときに「世界の波を制覇したい」と願ったということで、【波の支配】を与えられたのだ。
元赤毛の少女が、それを聞いて「私のは!?私も欲しい!」と駄々をこねていた。
【転生】は、この世界ではそれなりに知られている概念なのだというのが分る。
異世界の知識については転生者と、その依り代の記憶の融合が行われることによって相互理解が深まったのだろう。
なにせ、1つの体に【俺】と【私】が同居しているのだから。
「私の故郷では、人は死ねば風に乗って世界を旅して、またどこかで生まれてくる。だから、会ったこともないはずなのに、懐かしく感じる相手がいたりするんだ」
もともと転生に対する下地があるからか、【異世界転生】についてもすんなりと受け入れられた。
ギャル天女が言うには「ギフトは世界を跨ぐときに審査を受けて、合格した者へのみ授けられる」のだそうだ。
赤毛の少女は世界を跨いでいない。
つまり彼女がもし異世界へ転生したなら、その時にはギフトが与えられる可能性があるということだ。
「審査を受けて合格すれば?ならその審査って何を審査するか?」
転生者の同居人ともいうべき私が、当然な疑問を口にした。
「それは言えないんだよねぇ。こう見えてあーし、一級天女で上級転生審議官だからさぁ、守秘義務っていうの?コンプライアンスとかいろいろあってさぁ」
日焼けした肌に明るい亜麻色の髪、バイオレットのインナーカラー。目元をしっかり盛ったメイクのギャル天女がふと真面目な顔でそういった。
どうやら、このギャル天女は見かけによらず根は真面目で、それなりにの地位にあるらしかった。
「ふむ、ならばその……貴女様はなぜここに、来られたのです?」
少女はギャル天女を敬うことに決め、態度を改めた。
「そう!それよ!いやぁもうさ、120年連勤だからさ、ちょぉっと疲れてて……休暇を兼ねて、アフターフォローに降りて来たってわけ」
転生者は思った(――120年連勤? 年?日じゃなくて!?えーっと……天女だから、相手は天女だから)
「言っておくけど、120年連勤なんて、あーしら天女でも異常なんだからね?」
流石の天女である、転生者が質問を口にする前に答えを返してくる。
二人は、もしかして心を読まれているのか?と一瞬疑った。その直後だった。
「いやだなぁ、お二人の心を読むなんてあるわけないじゃないですかぁ」
「……」「……」
「……」
「アフターフォローっていうのは?」
沈黙が続く中、それに耐えきれなかったのか転生者が水を向けた。
「そう、それよ!もう、二人してあーしをいじめるんだからぁ!OKわかったってば!ちゃんと説明するし」
「まず、メルにゃん。ちょっと強すぎ。うけるんだけど」
きゃははとギャル天女が笑う。
だが、まるで言ってることがわからない。
さらなる解説を待つ二人。
「んでぇ、盗賊退治マジたすかる~!ありがたみ深すぎッて感じぃ?」ときた。
そして、締めはこれである。
「んで、あとはホントのアフフォロってわけぇ」
二人は後にこう語る「相手の現地語か何かだと思った」と。
いろいろと何を言ってるか分からなかった。
二人とも口には出さなかったが、内心でじわりと苛立ちが募っていく。
少女の中の二人は、言葉少なにジェスチャー交じりで、意思疎通が始まる。
どちらともなく「メルにゃん?」と疑問を口にした。
転生者は自分の鼻を指さし――首を横に振って否定した。
次に少女は、親指で胸――心臓を指して、これも首を振ってみせた。
そのやりとりを見ていたギャル天女は、すぃっと宙を滑ってきて、少女の心臓を指さした。
――それが、「メルにゃん?」に対する答えだった。
二人がその場に顕現しているわけではない。
ただ天女がその指先で――少女の胸をなぞっただけだ。
けれどその瞬間、言葉よりも確かなものが二人の魂に響いた。
――場の空気を読んだ天女は、一瞬の沈黙の後どこからか取りだした眼鏡をかけて、仕事ができる女風にきりっと表情を引き締めた。
「この世界での転生はね、死んだ子供の身体に、転生者の魂を送り込んで、その子の記憶を引き継ぎ融合させるの」
ギャル天女は神妙な顔つきで、メルにゃんをじっと見つめる。
「メルにゃんは、本来なら消えるはずだったの。彼と溶けて混ざってね」
「消えるはずだった」といわれて、落ち着いていられるはずがない。
ところが、彼女――メルにゃんはただ一言「そうか」とだけ呟いた。
転生者が言葉にできない感情を抱くと、同じ身体に入ってるメルにゃんは、それを感じ取ったのか――。
「気にするな、人はいずれ死ぬ。そして、私はすでに死んだ者。今さら消えることに何を思うことがある」
年のころは10代前半。
間違いなく将来は美しくなる、そんな麗人の器。
なのに、その口調は、外見には似つかわしくないほど達観していた。
「……とはいえ、今はまだ果たさねばならぬことがある。天女様、お時間の猶予は?」
転生者にはわかっていた。
ギャル天女にもわかっている。
彼女の未練を――
そして、復讐を。
彼女のために命を賭した者たちのことを。
その魂が、いかに誇り高く散ったのか。
彼らの死にざまを、誰かが伝えねばならない。
それが、彼女の物語であり――
彼が引き受けるべき、最初の使命だった。
お読みいただきありがとうございます。
まだ出番はあります!
よろしくお願いします。