焔翼の戦姫編 幻の一撃
ダンジョン内での話です。
ダンジョンの外では違うので、注意が必要です。
魔群襲来を凌いだ一行の周りには、大小様々な石が転がっていた。
それらは赤や青や、黄色や緑といった色とりどりである。
「……さっき迄の戦場が嘘みたいに綺麗だね」
赤毛の少女が感心してそう言うと、すぐさまセイロが口を開く。
「あれはモンスターが遺した魔石だ」
セイロのセリフという事で、少女は警戒しつつも「これが……綺麗だね」と返した。
「お前……モンスターの死体だったものだぞ!?醜くて邪悪で!それを……綺麗!?さっきのあれといい、お前はなんなんだよ!」
「人だって死ねば素材になったりするんでしょう?なにか問題があるの?」
「モンスターとヒトを一緒にするな!」
少女は他のメンバーを伺い見た。
一様にセイロへの「呆れ」の色が見てとれた。
「もし、これらが穢れているというのなら、祓えば良いよね」
そういってまだ文句を言うセイロを無視して、鞄から聖水を取り出して頭からかぶり、祝詞を唱えてみせた。
それを見てセイロはまだぶつぶつと何事かを呟いていたが、この件については声を荒げることはなくなった。
後日になってハフネから、この時のお祓いについて聞かれた少女は、しれっと「ああ、あれは演技です。ああ言えば治るかなって」と笑いながら言ったものだった。
「石しか残さない様な小物のことは置いといて!ドラゴンだ!宝の山だ!」
そうウキウキで声を上げたのはキオリスだった。
彼は故郷に錦を飾るため、目に見てわかりやすい実績を求めている。
古代遺跡での遺物もそのひとつだが、ドラゴンの素材となればそれ以上の実績だ。
しかし、彼の口から『欲しい』と出ないのは、彼がドラゴン戦に参加していなかったからだ。
正確には『出来なかった』からだ。
「……どうやって持って帰るの?」
ダンジョンでは、魔素濃度の低い――格の低い魔物は死ぬと魔石だけを残してダンジョンに吸収される。
逆に魔素濃度の高い――格の高い魔物は魔石のほかに肉や皮などの素材が残る。
これが、ダンジョンが死体を吸収する際の、所謂『食べ残し』だ。
ただし残った素材でも、魔物の格に応じていずれ消える。
魔石も放置すれば吸収されてしまうため、冒険者は戦闘直後に急いで回収する必要がある。
死体はゴブリン程度ならすぐ消えるが、強い魔物ほど吸収まで時間がかかり、そのぶん素材を回収できる猶予が生まれる。
ドラゴンについての資料がなく、合成魔獣や巨人クラスなら、数日は消えなかったという資料がある。
そして知恵のあるモンスターは、回収作業をしている冒険者を襲うことがある。
と以上の解説を、ダンジョン初心者の赤毛の少女に、ハフネがしてくれたのだ。
しかしどうやら今回は、回収作業中の襲撃は気にしなくて済みそうだ。
なぜなら先ほどまでの戦闘で数を大幅に減らしたのと、ドラゴンを屠った実力をみて、知恵あるモンスターはその身を隠したからだった。
一行は急ぎ魔石を回収し、素材を拾い、いざドラゴンの解体をとなって、赤毛の少女の疑問に直面したのだ。
無事に持ち帰れなければ、命の重荷になるだけでゴミ以下だ。
――だが持ち帰れさえすれば、それは一攫千金の宝になる。
……そして冒険者の多くは、それらを持ち帰ることで富を築く者達だ。
そして『六鍵』や、キオリスもその冒険者だった。
マジックバッグがあれば、その収容可能容量にもよるが、解決する問題だ。
だからこそ、マジックバッグは冒険者や、商人たちにも大人気で、高値で取引されるのだ。
こんな話が有る。
『ある男が、全財産を払ってマジックバッグを手に入れた』
『中に入れたのは小銀貨1枚だった』
なにを読み取るかは聞いた者次第ではあるが、転生者には『人生を賭けるだけの価値のあるもの』として受け止めた。
だからこそ、人前で出すべきではないというメルニアの言を受け入れたのだ。
しかし、いまこのマジックバッグを話をだせば問題は解決する。
が、別の問題が発生する可能性も又否定できなかった。
《私は反対だよ。お兄さんは優しすぎるよ》
《しかしなぁ、ドラゴンの素材だぞ?》
《お兄さん、肝心なことを忘れているよ。あのドラゴンは私たちでやったんだ。あいつらは何もしていない。だから、あいつらが手に入れられなくても、それは仕方ない事なんだよ》
《でも、キオリスは将来がかかってるんだぞ?》
《ここで終わったかもしれない将来をつないであげたのは私たちだよ?そのうえ素材が欲しいだなんて図々しいよ?彼もそれが分っているから何も言ってこないんじゃないかな?》
《うーん……持って帰ってあげるべきだと思うんだけどなぁ》
《仮にそうしたとして、彼らはその秘密を守ってくれるの?私は――そうは思わないよ》
メルニアの意識が、ちらりとセイロへと向けられた。
それだけで、何が言いたいのかがわかる。
《持ち帰りは自由。俺たちは手を貸さない。これでどうだろう?》
《……本当に、呆れるぐらいに優しいね。はぁ……いいんじゃない?》
《ありがとう》
「とりあえず、各自持ち帰れるものは持ち帰ろうか。邪魔になる場合は捨てるしかないだろうけどね」
肩をすくめてみせながら、赤毛の少女はそう話す。
「メル……このロックドラゴンはアンタの獲物なんだ、だからその……」
いつものハフネらしくなく、言いよどむ。
赤毛の少女は、そんなハフネを見たくなかった。
だから……。
「私、戦闘に夢中で……みんなが一緒に戦ってくれて助かりました。特にキオ。貴方の一撃がなければきっと私は大けがを負っていたでしょう」
「何を……?」
キオリスが唖然としながら聞き返す。
「ハフ姐、適切なアドバイス有難うございます。おかげで誰も失わずに済みました」
ハフネは少女の意図を察し、話を合わせることにした。
「確かに、キオの一撃は……あれは良い一撃だったし、私もいい動きができて良かったよ」
ハフネのファインプレーともいうべきこの口裏合わせが、嬉しくて赤毛の少女は声を上げて笑う。
「ショージーも、ショーも、サルマールだってよくやってくれました」
俺は何もと言いかけたショーの口を押さえてショージーは、うんうんと頷いた。
「セイロ……みんなの怪我を回復して、チームを維持してくれました。ありがとう」
「何言ってんだお前、俺はな……」その瞬間、ショージーの拳骨がセイロの頬を打ち抜いた。
「おお、どうしたセイロ。疲れてるんだな?よく休め」
セイロは見事に気を失っていた。
こうして、ロックドラゴンの素材をみんなで持って帰ることにした一行であった。
まず、ロックドラゴンの特大の魔石。これは赤毛の少女へと、気絶しているセイロを除いて満場一致だった。
しかし、彼女はそれを辞退し、キオリスへ。
「一生恩に着ろ」と、笑いながら譲ったのだった。
核以外に価値が高いものは、鱗、血、牙、爪、骨、ブレス線、眼、脳、心臓、肝臓……などであるがそのうちの血は、すでに時間経過により価値が失われていた。
内臓関係や鮮度が重要な物についても、持ち帰ることは諦めた。
理由は簡単だ。持って帰る途中で腐る可能性が高いからだ。
そうすれば価値はなくなる。ならば、他の物を持って帰った方が賢いというものだった。
結局、鱗、牙、爪、骨などの腐らない物を持ち帰ることになった。
……生ものたちについては、持ち帰ることはあきらめたが、捨てるとは言っていない。
お肉となったロックドラゴンは、皆でおいしく頂きましたとさ。
焚火に焙られたドラゴンの肉から、肉汁が滴り落ちて、ジュゥと音が鳴る。
その香りは鼻腔をくすぐり、凶悪なまでに食欲を刺激した。
焼けた肉を切り分ければ、思いのほか柔らかく、口に入れれば、肉汁と共に旨味が広がる。
塩と胡椒。たったそれだけの味付けだというのに、今まで食べたどの肉よりも――。
「美味しい!」
《おいしい!》
《おいしいね!》
頬を赤らめながら、そう感嘆する少女に、肉を焼いたハフネは満足げだった。
ハフネが焼き、少女が食べる。
口の周りについた汚れを、ハフネが拭ってやり笑いあう。
食べている物が、ドラゴンの肉でなければまるで仲のいい姉妹のようだった。
「誰が信じるんだよ……こんなのが、ドラゴンスレイヤーだなんて」
「うーん……信じまいなぁ」
ショージーとキオリスが苦笑を浮かべながら、その光景を眺めていた。
「うまいな!」ショージーがドラゴン肉を口にして、その美味しさに驚いて声を上げた。
「さっき、お嬢――メルニア殿が、胡椒や塩を振ってくれていたからな。さらにうまさが増している」
「はははっ なんでお前が、自慢げなんだよ。それに何だよその『メルニア殿』って」
「……彼女は、私の命の恩人でもあり、我が家の恩人でもある。感謝してもしきれないからな」
「……なるほど。そうだな」
ショージーは何事かを考えているようだったが、キオリスはあえてそれを聞くことはしなかった。
この広く薄暗い空間で、ドラゴンの解体からのバーベキューをする一行。
煙がゆっくりと天井へ昇っていく。
焼けた肉の匂いだけが、この広い空間に温かさを残していた。
魔物たちは、ただ遠くで気配を揺らし、決して戻ってこようとはしない。
こうして一行は、束の間の静かな祝宴を得たのだった。
もしダンジョン内でヒト種が死んだ場合も同様です。
霊格の低い者(ゲーム的に表現すればレベルの低い者)が死ねば、ダンジョンに吸収されます。
所持していた加工品の多くはその場に残るでしょう。
しかし時間が経てばこれらも吸収されることになります。
ものによっては、数年から数千年かかることもあるでしょう。
海洋投棄されたごみのようですね。
吸収を防ぐ方法はあります。
まず、ダンジョン内で死なないこと。
次に、ダンジョンに触れさせないこと。
その次が、吸収しきれない強さを持っている事。
ですがまぁ ダンジョンには謎がいっぱいなので私にもわかりませんけどね!
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あと、感想。
たった一言、その一言が弱小雑魚ナメクジ作者の作家声明をつなぐのです。
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