第二章 転生 降臨
前回は重かったですからね。
軽くなって推します。
それはもう、浮くぐらいに。
第7回 どうぞよろしくお願いします。
野盗だった死体から降りた赤毛の少女は、改めて自身の所業を見渡した。
辺りには出来立ての死体――木に吊るされたり、転がされたりと無惨に散乱している。
小さくなった焚き火に、薪をくべて、傍らへ腰を下ろす。
火がパチンと爆ぜて火の粉が舞った。
「ぅあ!」
驚いて、思わず変な声が出た。
我ながらおかしな状況だと、少女の中の俺と私の2人は思う。
私にとっては、まさに僥倖。
復讐は始まったばかりだ。
俺にとっては、まさに悪夢だ。
野盗退治なんて異世界転生ではありきたりなイベントだ……だが、自分の手で実行するとなると、話は別だ。
それでも実行できたのは、奇妙な同居人である、彼女の存在が大きいのだろうけど……。
しかし……少女の意識がこうもはっきりと残っているとは。
……もう一度、辺りを見渡す。
この惨状に、吐き気を催すかと思いきや、血や臓腑の匂いを嗅いでも、死体を見ても、さほど不快にはならなかった。
――それも、私のおかげだな。
そんな声が聞こえた気がした。
いや「気がした」じゃない。
聞こえたんだ。
ああ……どうしてこんなことに……。
「マジやば〜、ウケるんだけど! マジ神がマジ神対応でぇ説明したげるからぁ、ありがとぉっていってよねぇ」
頭上から、ちょっと思考が停止しそうな言葉が聞こえたかと思うと、なんと天女が降臨してくるではないか。
ただし、天女は天女でも、ギャル天女だったわけだが。
俺私「……えぇ?」
「いやぁ、すごいっすねぇ!いずれ天罰が降る連中でしたが、こうなりましたか」
ギャル天女は足を地につけず、それは文字通り浮いているという意味で、辺りをすぃっと見て周り、赤毛の少女の前で止まったかと思うと……。
「くっさ!おにーさん臭いよ!」
俺が、そう俺が傷付いた。
転生前でも職場の女性社員にそう言われたりしないかと、普段から気にしていたのだ。
風呂に入って体を洗って、香水なんかもつけたりして……なのに、臭いと言われた。
しかも、なんか優しい人の代表みたいな天女に!
ギャルだけど!天女に!臭いって!
私も傷ついた。
なぜなら、この身体は彼女の身体だからだ。
俺が何をそんなに傷付いたのかはわからないが、臭いと追われたのは私なのだ。
いくら相手が、よく分からない……なんとなく神聖な存在だろうとは思うけど、そんな存在から臭いって……。
「臭い……ですか……そうですか……」
うへぇと顔を顰めながら、距離をとるギャル天女に、思わず縋りつきたくなった少女は、それでも自身の格好を思って遠慮するのだった。
「おにーさん、この辺りに水浴びできそうなところがある筈だから、あげたギフトで探してみてよ」
ギャル天女は少し高度をあげて辺りを見渡すふりをしてから、そう言った。
俺私が同時に反応する。
「……ギフト!あれえあんだ」ガリッ 舌を盛大に噛んだ。
俺はギフトについて詳しく聞こうとして。
私は私の分も欲しいという要求を口にしようとして。
喋りたいことは2つあるのに口がひとつでは、当然の結果と言えよう。
「はいはい、落ち着いて」
少女の目線まで降りてきて――それでも距離は開けながら「取り敢えず水浴びしよう?ね?」
――ギフトで、水場を探す……どうやって?
そんな視線を天女に向けると、流石天女話が早い。
すぐに答えてくれる。
「おにーさんにあげたギフトは、【波の支配】っていうものなのね、おにーさんがあっちで願ってた事を叶えてあげたってわけ!」
「でもそんな願いした――ああ!サーフィン!こっちでもできるんですか!やった!マジか!嬉しい!めっちゃ嬉しいわ!」
固まるギャル天女。
さっきまで、ニコニコのドヤ顔だったのだ。
それが、ピシッと固まった。
その足元で少女の中の転生者はウキウキだ。
気まずそうな顔で天女は問う。
「波の……制覇……ってサーフィ……ン?」
「ですです!いやぁ嬉しいなぁ!」
「……えーっと……あの……」
1人冷静な少女の中の私が呆れながら口を開く。
「どうやら食い違いがあるんじゃないか?そも、女神か?精霊か?気まずそうにしてるぞ?」と。
すると天女は何もないところから取り出した書類に目を通す。
それは、ポッとでのマナー講師など、足下に及ばない、古式正しい礼法にかなっていた。
見るものに感嘆の声すら上げさせる。
誠心誠意。とはまさにこの事である。
そう!美しく完璧な【土下座】である。
もちろん高度は少女よりも高いところでではあるが。
「申し訳ございませんでしたぁ!」
どうやら、このギャル天女に色々聞かなきゃいけないことがあるようだ。
この先のことが思いやられるが――そういえば、死んだ間際に思ったこと……なら、あいつは無事なんだろうか?
私が不思議そうな顔でこっちを見ている。
いや、身体はひとつだから見ている感じがする……ってとこか?
ああもう!ややこしい!
これも含めてきっと天女が説明してくれるに違いない。
いや、そうでなければ困る。
天を仰ぐ。
天女の土下座を下から見る形になって、もはや、ため息しか出なかった。
第7回。
いかがでしたか?
前回も、今回も、これがわたしでございます。
よろしくお願いします。
暖かいコメント、お待ちしております。