焔翼の戦姫編 呵血乱舞
サブタイトル『呵血乱舞』解説
造語です。
「次!前方から岩蜥蜴の群!」
「くそっ!湧きすぎだろ!」
「馬鹿ショージー!後でぶん殴る!」
「うるせぇ!俺たちゃ『六鍵』だぞ!未知を開いて何が悪ぃ!」
ゴブリンを斬り倒しながらショージーは叫んだ。
封鎖された大部屋に、次から次と魔物が現れて、一行を襲う。
それらは壁の隙間から、天井から、いたるところから現れた。
体感では一時間か、或いは数時間か、もはや時間の感覚がなくなるほど戦い続けている。
一行は部屋の角へ陣取り前衛をローテーションしながら対応。
中衛であるサルマールは適宜矢を放ち、セイロは全体を見渡して臨時の司令塔兼回復役を務めた。
赤毛の少女は長巻と呼ばれる武器を縦横無尽に振るっている。
長巻とは日本刀の柄を長くした物で、刃渡90cmほどに対して柄は90〜120cmというもの。
少女が振るっているのは大きな部類のもので、刃渡約100cm、柄の長さ約110cm。実に全長が2mを超えるというもの。
それを遠心力とテコの原理を使い、強力な一撃を繰り出す。
反面、取り回しは刀に劣る。
しかし、赤毛の少女に宿るお兄さんこと転生者は、前世において『心影六刀流』という古武術を修練していた。
そのなかで「槍じゃなくて長巻使う俺カッケェ」と厨二全開で熱心に稽古したのが役に立っている。
もちろん、長巻以外にも、槍、長刀などの長柄武器。
それ以外にも、弓から徒手空拳まであらゆる物を扱う。
うまいかどうかは別として。
《前世では、気を失うまでそれぞれの型を反復練習したものだけど……当時は理解できてなかったけど、こういうことなんだなぁ》
《前にも言ってたね。そんなに実感してるんだ?》
内面での会話をしながらも、少女の振るった長巻は、迫るオークの膝を切り飛ばし、その勢いのまま隣のゴブリンの腹を掻っ捌いた。
さらに勢いを殺さず反す刀で、別のオークの首を刎ねた。
《色んな武器を習ったけど、基本は共通してるんだなって思ってさ》
《確か、弓や……手裏剣?……本当に色んな武器を習ったんだね》
《しかも、転生特典かな?以前よりも技に身体が追いついてる感じがする》
《私も似た様な武器を練習してたから、身体が馴染んでるのかもね》
そんな話をしながら何匹目かわからないオークの首を刎ねた。
「俺のせいじぇねぇだろ!あの壁に穴を開けた奴がわりぃ!」
「馬鹿をお言いでないよ!宝物に迂闊に手を出した奴が悪いに決まってんでしょ!」
魔物の攻勢が激しさを増していく。
赤毛の少女は大きく息を吸い、大きく息を吐いた。
肺に入った空気が、ほんの僅かに体を冷やす。
《ああ……どうしてこんなことに》
《今まで罠がなかったことも、油断を誘う罠だったのかもね》
ひと際大きなオークが、棍棒を振り回しながら突撃してくる。
赤毛の少女はそれを、無数の光の矢を放ち、撃ち倒した。
《……SF映画みたいだ》
《余裕だねぇお兄さん》
《開き直りだよ》
《ははは!……いいね。楽しくなってきた!》
《同じく!》
オークの群れの向こう側、暗い茶色の岩山のような――それはそれは大きな、爬虫類型の生物が迫っていた。
赤毛の少女の胸は高鳴るばかりだ。
――遡ること数時間。
油断と好奇心が、この魔群襲来の始まりだった。
※※※※
「順調だな」
「確かに、ここまでは罠もなかったし、戦闘もなかった……だからと言って、油断は禁物だよ!」
ショージーが気の抜けたことを言い、ハフネがそれを注意する。
もう何度も見た光景だった。
「まぁいいじゃねぇか実際、順調なんだからよ」
「順調なのは良いのよ。だからって油断して、気を抜くのがいけないって話」
大隧道に入って五日が過ぎ、既に地下遺跡へと入っていた。
ここまで一度も魔物らしい魔物と遭遇はなし、罠もなし。
正直言って拍子抜けだった。
『六鍵』からすれば過去の経験から、何度も戦闘をこなし罠をいくつも乗り越えて来るはずの道程だった。
なのに何も無い。
このまま最後まで……とは流石に思ってはいないが、油断は確実にあった。
その時、赤毛の少女が壁の向こうに何かを見つけた。
それは【ギフト:波の支配】による【透視】に映り込んだのだ。
「ねぇ、この壁の向こう、何かあるよ」
「何かってなんだよ?しかも壁の向こうってお前……なんだ?有能アピールか?」
セイロがいつもの様に憎まれ口を叩く。
「ふむ……何も見つからないね。あるとしたら――この辺かい?」
ハフネが赤毛の少女の指差すあたりを調べている。
しかし何も見つけられず「本当に何かあるのかい?」と苦笑した。
「もし魔法の仕掛けなら、その手のことを得意とする魔法使いが要るね」
「そんなのが必要なら、なんでコイツは何かあるってわかったんだよ。どうせみんなには分からないからって有能アピしたかったんだろ!」
《お兄さん!コイツぶん殴ろうよ!我慢の限界だよ!》
《野蛮が過ぎるよ》
《だってずっとだよ!何かあればいちゃもんつけてさ!ここが『草原』だったらとうの昔に血祭りだよ!》
《怖っ!》
ハフネの言うとおり、機械的な何かを見つける事はできなかった。
【ギフト:波の支配】の【透視】をもってしても。
しかし壁の向こうに、何かが確実にあるのだ。
通常の岩程度なら透視できるが、地下遺跡の素材のせいか、ぼんやりとしか見ることができなかったが。
「この壁、ぶち抜いてみようか」
「何言ってんだ。遺跡の壁がそう簡単に……」
セイロがそう馬鹿にする様に言いかけて、目の前の光景に絶句した。
赤毛の少女の作り出した光球から、光の筋が放たれる。
その一条の光を受けた壁はみるみる赤熱化し、ついにはドロドロの溶岩の様に溶け落ちたのだ。
セイロだけではない、皆が息を呑んだ。
壁に大穴が――開くはずのない大穴が空いのだ。
冷たい空気が漏れ出て、皆の足元を冷やして消えた。
溶け落ちた壁の向こう側、確かに空間があり台座に置かれた何かが見えた。
「古代遺跡だぞ……どんな武器でも魔法でも、傷つかないのに……なんで……?」
「……なんだって良いさ。冒険者が手の内を明かすことなんてないんだからさ」
ハフネがそう言い、
「あれの一撃は……巨人をまとめて輪切りにするからな……二度と狙われたくないものだ」
キオリスが笑顔を強張らせながら言い、ショージーは無言で頷いた。
「ドラゴンブレスならぬ……メルニアブレス」
ショーがそう呟くと、それを聞いた赤毛の少女が、「三十点」と返して笑いが起こった。
その一方でサルマールが笑いながらセイロの背中を叩いた。
「良かったな。彼女が文明的な人で。でなきゃ今頃お前も……」と視線で壁だった所を指し示した。
愕然とするセイロに赤毛の少女は振り返り、満面の笑みを向けたのだった。
この時、セイロの中に何かが芽生えたが、それは別の話。
「おい、これもう少し広げれねぇか?」
今のままでも十分通れる大きさだったが、身動きが制限されながら通るよりも、安全確保のため動きやすい大きさが良いということだった。
結局、立ったまま二人並んで通れるくらいまで拡張したのだが、少女からは不満の声が上がっていた。
「面白がってない?疲れはしないけど、見せ物にされるのは嫌なんだけど?」
「ごめんごめん 珍しい特殊能力だと思ってね。つい見入ってしまったよ」
ハフネがそう言って少女を宥めた。
全員が部屋に入り、各自部屋を調べ始める。
台座の周りには透明な壁があり、それ以上近づくことができない様になっていた。
台座の上には腕輪だろうか、直径10cmほどの『輪』が浮いていた。
見る角度によって、その色を変える以外に飾り気のない『輪』だった。
「浮いてる!?」
赤毛の少女は、この世界に転生して日は浅い。
目の前にあるわかりやすい『不思議』に興奮を隠せなかった。
「……みてぇだな――これは、興味深い!」
未知を切り開くという意味で『六鍵』という名を持つチームのリーダーであるショージーは、好奇心が抑えきれないかのようにまじまじと見入っている。
「これを持ち帰れれば……うん。これは良いな」
キオリスは、自身の取り分としてこの『輪』を候補にと考えている。
「ここは、なんのための部屋なんだろうね……入り口も出口も見当たらない……魔法で出入りをするのかもしれないね」
ハフネがそう言って、言葉を続ける。
「て事は防犯の為の何かがあるはずだから、迂闊に触らないほうがいいね」
「え?」「あ」「てことは?」「まじか」
皆の視線が台座へと集中する。
「だめなの?」「そのようだな」
ショージーとキオリスがが見えない壁に短剣を突き立て、ガリガリと穴を開けようとしていたところだった。
もちろん傷ひとつ付けられなかったが。
赤毛の少女は天を仰ぎ、次に起こる事へ覚悟を決めた。
そしてその瞬間、床が光り――部屋は無人となった。
一行が軽いめまいから回復して周りを見るとそこは、薄暗く獣臭い、ただ――広い空間だった。
そしてこの空間には、無数の殺気が満ちており、この後の戦闘を予感させた。
斯くして、魔群襲来の始まりであった。
映画化したい私。けれどこういったシーンはアニメの方が迫力出ると思うんだよなぁ・・・。
実写映画をアニメで補完するっていう感じでならんかなぁ・・・
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