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焔翼の戦姫編 待ち人、来たれり

後書きに解説アリ。

 ジャイアントスレイヤー誕生の宴から数日が経った。

 あれからずっと募集していた盗賊(スカウト)がようやく、応募してきたのだ。

 名を『ハフネ』という女盗賊だ。


「大丈夫?コイツらだよ?」

 赤毛の少女は、真面目な顔で『コイツら』を指さした。

 それはショージー率いる『六鍵』と、半淫魔(カンビオン)の青年貴族キオリスだった。


「ああ。あの噂も所詮は噂。それに、チーム内の痴情のもつれなんてよくあることさ。ダンジョン内でどうにかならなきゃ、あたいは気にしないよ」

 あの噂とは、『チームの女メンバーを襲う奴が盗賊を捜してる。きっと……』というものだった。

 足を組んで座る彼女は肩をすくめてみせた。

 その姿は色っぽく、けれど幽かな違和感を覚えるモノだった。

 年の頃は二十代後半。

 ハフネは短く整えたダークブラウンの髪に、季節に似合わぬ露出の少ない服装をしていた。

 見えている肌は顔くらいだが、その顔には化粧のような精緻な紋様が描かれ、彼女の美貌をいっそう際立たせている。

 ただの装飾ではない――そんな『意味ありげな紋様』だった。


「なんだいお嬢ちゃん、紋章魔術を見るのは初めてかい?」

「紋章魔術?」

 少女がそう聞き返すと、笑って解説を始めてくれた。

 見かけによらず世話好きなのかもしれない。


「紋章魔術てのはね、力のある紋章……つまり、魔法陣みたいなもんさ――それを体に彫ることでいつでもその恩恵を受けられる様にしたものさ」

 そう言って周囲を見回してから、少女にだけ見える様に、胸元をチラリと開いてみせた。


 周囲の男たちが、わずかに息をのむ気配がした。

 彼女の持つ曲線は、服に隠されていてもその魅力は十分すぎるほどに溢れているのだから。


 赤毛の少女がのぞき込むと、そこには確かに紋様が描かれていた。

 しかし、それよりも豊かな双丘に目が行ってしまう。

 なにせ赤毛の少女はその身に少女とおじさん――『お兄さん』の魂を宿しているのだから。


 《お兄さん?何を見てるのかな?》

 《……ごめんなさい》

 赤毛の少女の内面での会話である。

 尻に敷かれつつある、お兄さんであった。



「で、報酬についてだけど……頭数で等分でいいんだね?」

 新加入のハフネが改めて確認する。


「もちろん……ではあるんだが、キオ――お前どうすんだ?」

 いつの間にやら呼び捨てる仲になったショージーと半淫魔(カンビオン)の青年貴族キオリス。

「我が従弟殿も大隧道から出て来ないのでな、ならばこちらから迎えに行こうかと思っている」

「それは立派だが……一緒に来るなら、中での人探しにかける時間はないぞ」

 薄情なのではない。

 もとより彼らはこの大槌(ドワーフ)族の大隧道(トンネル)を踏破することが目的なのだ。


「承知している。それですれ違うならそれまでの事。私としては遺物を手に入れて、我が名が上がる方がありがたい」


 薄情なのではない。

 彼自身そうでもしないと、彼の肩書きに『元』とついてしまうからだ。


「重要なのは『血脈』ではない。『歴史』でもない。最も重要なのは『家名』。『家名』は『武』をによって支えられ、初めて『武家』とされる」

 いつも笑顔で、女とみるや尻尾を振る軟派者に見えるキオリス。

「だからこそ、この身が代わって武名を上げようと決めたのだ。故郷の大人たちも、文句を言うまいよ」


 その横顔には、普段の軽さとは似ても似つかぬ、武人としての気高さが宿っていた。

 少女はその一瞬に、彼の本性――誇り高き戦士の姿を確かに見た。



「では確認するが、メルニアとキオは『同行者』でメンバーではない。だが、中では全員が戦闘をこなす事になる。なので今回は全員で等分する。異議はないか?」


「私は頭数に入れなくていい。その代わり手に入れた遺物を優先的にまわしてもらいたい」

 キオリスの望みは故郷に錦を飾る事だ。

 もっともな要望だった。


「私は、向こう側へ行くのが目的だから、それの妨げにならないなら何でもいいよ」

 赤毛の少女は、冒険者になりたてだった。

 知らないことが多いからこそ、第一条件を提示の上で守りに入ったのだ。


 《草原へ帰る事。これが俺たちの最優先だものね?》

 《有難う、お兄さん》


 少女の中で、メルニアの魂は、お兄さんの魂に寄り添い、互いのぬくもりを共有していた。



 そうして、互いの自己紹介をしていく。

 ダンジョンでは、メンバー同士の連携が命にかかわることがある。

 もちろんダンジョンの外でもそうだが、限られた空間であるダンジョンなら尚のことだ。

 ハフネはベテラン冒険者として、いくつものチームを経験してきた。

 いいチームもあれば、そうでないチームもあった。

 彼女が今ここにこうしていられるのは、少なくとも彼女にはチーム内での動きを見る目があったからだ。


『六鍵』は長く冒険をしてきた実績がある。

 しかし、赤毛の少女――どう見ても新人と、優男風の青年貴族。

 連携がとれるのか未知数だった。

 しかも話を聞く限りでは、赤毛の少女は護衛の対象でもあり、青年貴族は、冒険者ですらない。


 だから彼女が口にした言葉は、どんな冒険者でも納得の一言だった。


「ちょっとふたりとも、お手合わせ願おうか」

 そのしなやかで、艶に溢れるしぐさは、何の『手合わせ』なのかと、男どもをざわつかせたのだった。



キャラ紹介

名前:ハフネ。

職業:盗賊。

一般的な女盗賊のイメージに反して、露出の少ない恰好をしている。


魔術紹介

名前:紋章魔術

特徴:あらかじめ力のある紋章を体に宿すことで、その恩恵を受ける魔法。

特に身体強化系が多く、紋様を見ればどの魔法がどのレベルで宿っているのかがわかるため、隠す傾向にある。

予め用意しているので、即効性は高いが、他の魔法に比べると範囲は個人に限定され、アレンジの余地は少ない。


儀式魔法:

大規模な魔法を織りなす際に用いられ、広範囲、高威力のものが多い。

また、求める結果に対して支払うべき対価が足りないときに、外部から支払いを行う(生贄をささげるなどして)ことも出来る。

時間と人手が必要。


詠唱魔法:

比較的小さな魔法を織りなす際に用いられ、儀式魔法に比べ即効性が高いのが利点とされる。

基本的に個人で用いられ、その対価の支払いも個人で行われるもの。

外部からの支払い(生贄)などは基本的に用いることはない。

個人で使用可能。


無詠唱魔法:

最小単位で魔法を織りなす際に用いられ、日常生活の中で使われるレベルの魔法。

基本は自身の中に有する魔力のみで行われるもの。

個人で使用可能。




世界観的魔術解説

本世界では、すでに過去の話の中で触れたように、魔法そのものに白も黒もない。

その力をどのようにして使うか、何に使うのかによって呼び名が変わる。


ただし、理の外にある『転生者』『転移者』などは当てはまらないこともある。

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