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群青と焔(あおとあか)  作者: 旭ゆうひ


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焔翼の戦姫編 災難、再び

「ほぅ、音信不通の従弟殿を探して、ここまで来たと」

「左様。我が従弟アルミリオはヴァリオティーニ宗家の跡継ぎなのだ。しかし、わが国では戦乱もなく、長い歴史を持つ武門の家とはいえ、新たな実績もなければ、お家の危機。そこでアルミリオはわざわざアイジア王国(ここ)まで来たらしいのだ」

「なるほど、つまりダンジョンの遺物を持ち帰りその実績にしようと考えた。と?」

「左様!アルミリオは剣の腕が立つだけでなく、炎と風の魔法も使える。一族皆、彼ならば大丈夫だろうと送り出したのだが……」

「音沙汰がないと?」

「そうなのだ……それで心配された大人たちが、私をここへ遣わしたというわけだ」


 すっかり、仲良くなったショージーとキオリス。

 まるで、昔馴染みであったかのように会話が弾んでいた。

 ショージーが「うんうん、それで?」と先を促せば聞いてもいないことまでべらべらとしゃべり倒す。

 このキオリスという青年貴族は生来のお喋り好きなのだろうと思われた。


「アルミリオ殿は、ダンジョンに潜ったままなのだろう……大将!話を聞いてたか!何か知ってっか?」

 ショージーの言葉である。

 貴族相手と酒場の主人相手にころころと表情と言葉遣いを代えていく。

 何度も不祥事を起こしながらも、今までやってこれたのは剣の腕もさることながら、その人当たりの良さ――男性に対してだけだが――があればこそだろう。


「私……先に戻るわ」

 赤毛の少女は赤い顔をして、弱弱しい声でそう言って、立ちあがった。

 ところが、身体に力が入らないのか、よろめいてしまう。


 その先に居たのはキオリス。


「あっ ご、ごめんなさい!」

 耳まで真っ赤になった顔を上げると、そこにはキオリスの顔が、驚くほどにすぐ近くにあり、元から赤かった顔はさらに赤くなっていた。


「いえ、お嬢さんがよろめいた先がわたしで良かった。こんなに美しい女性を大地の代わりに抱擁できたのだから。――お嬢さん、お名前をお伺いしても?」

「あ、いえ、あの、え、あ、名前、名前は」

 しどろもどろな赤毛の少女は、それでも素直に名前を口にしようとするも、邪魔が入る。

「キオリス殿、その方は、私の連れでね、体調が悪いようだから、ひとまずはこれで失礼させてもらうよ」

 それはショージーだった。

 赤毛の少女をさっと抱き上げると、青年貴族に微笑み、礼をとって足早に立ち去った。


「ふむ。どうやら、私はまたやらかしてしまったらしいな」


 その言葉の意味を、聞いてみたい衝動を抑えつつ、酒場の大将は、

「あれは毎日ここへきてます。あしたもきっと来るでしょう」

 そういって、シシトウのような野菜の串焼きを彼の前に置いた。



 ※※※※



 赤毛の少女と、ショージーはテントまで無言だった。

 少女をテントで寝かせ、ショージーはそのまま去ろうとする。


「ごめん。ありがと」


 彼の背中へ弱く、それでいて熱のこもった言葉だった。


「……おう」



 ショージーが去った後のテントの中では、赤毛の少女は身もだえしていた。

 《なんだこれぇ……体が熱いよ……お兄さん》

 《ああ、頭がぼーっとするな……考えが、まとまらない……》

 《お兄さん、お兄さん……我慢できない》

 《ああ、これはあれだ……ホルモン?クレヨン?……リモコンか?》

 《ねぇ……お兄さん》


 体が徐々に熱くなり、敏感になっていく。

 二人の意思とは関係なく、共有している身体が火照っていく。


 《あいつ、危険だ。できるだけ近寄らないようにしないと》

 《お兄ぃさん……》

 《壁、てか壁ですらないここでは周りに……》

 《だめ……お願い……》


 二心同体。

 体から伝わる感覚は、二人で共有されている。

 たとえば何かがぶつかった時、片方だけが痛いということではなく、二人とも痛いのだ。

 つまり、一部とはいえお兄さんと魂の融合を果たしているメルニアが感じるものは、お兄さんも感じているのだ。

 体のつくりの違いから多少の差はあれども。


 少女の手が、その衣の中への差し込まれたとき――。


「失礼する!」

 突然テントの中へ行ってきた者がいた。

 キオリスであった。



 流石に赤毛の少女も、これには心臓が飛び出るほど驚いた。

 当然である。

 タイミングがタイミングである。


「なな!ななん!!?な?!」


 言葉にならないとはこのことである。


「うむ、私と言葉を交わした女性の多くは君と同じようになってしまうのだ。ようやくここへたどり着いた喜びからすっかり配慮を忘れていた。申し訳ない」


 赤毛の少女にとって今はそんなことはどうでもよかった。

 とにかく出ていってほしい。

 この一心だった。


「苦しいんだね?大丈夫。私はこの症状に対しての対処法をちゃんとわかっている」

「いい!いいから!でてって!」

「ははは!皆同じことを言う。やはり君はほかの女性と同じだ」


 そういって抵抗する少女を押さえつけ、圧し掛かる。


 《お兄さん!助けて!》

 《くそ!こぉんのぉおお!》


「どうした!」

 ショージーがテントに入ってきたのと同時だった。


 それはひと筋の焔色(あかいろ)の光。


 少女の――いや、転生者であるお兄さんの【ギフト】が――【波の支配】が発動したのだ。

 少女の肩の辺りに光の粒子が圧縮されていく。

 そしてそれは弾ける様にして光線を放ったのだった。

 それは天高く伸び、細く、鋭く、光跡を残して夜空に消えていく。


 その光は、後の歴史家により『黎明龍霊の吐息レイメイリュカ・ブレス』と呼ばれ、【黎明龍(れいめいりゅう)】なる存在が伝承されていくことになるのだが、それはまた別のお話し。


 光はその進路上のモノすべてを貫き、無を残した。


 キオリスの左耳には大穴が空き、ショージーの髪の一部も無に帰した。これではまるで逆モヒカンだ。


 二人の悲痛な叫びが山々にこだました。


 

なぜか続くことありますよね?

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