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第二章 転生 彼?

R15。

グロ注意。


苦手な人は、各自対策取ってゆっくりと呼んでください。


よろしくお願いします。

 木々の切れ間から、満月が見える。

 蒼白いそれは灯りとするには、頼りない――にもかかわらず、まるで周囲が手に取るようにわかる。

 なんにせよ、好都合だった。

 しかし、今はどうでもいい事だ、暗闇で周囲がよく見える理由なんて。

 

 沼地の泥を救い上げ、赤い髪に塗り付けていく。

 顔をはじめ腕にも、身体にも、もちろん脚にも。


 俺私――いや、【俺】はこれから復讐を果たす。

 

 ……日本で、生まれ、育ってきた俺が。


 今の俺が普通じゃないのはわかってる。

 俺の中に、私がいる。

 私が、復讐を叫んでいる。

 同感だ。

 それは俺も同じ思いだ。

 復讐を、仇をとる事こそが、今、ここにある正義だ。


 俺私は、今から【人】を――殺す。

 

 だからこそ、俺

私は俺をより深い、狂気へ。

 これは、そのための儀式でもある。

 

 纏ったぼろ布に草を指し、偽装の完成だ。


 まるで草原の魔物――ソヨルカのようだ。

 俺の中の私が、そう感心しているように思えた。


 風が出てきた。

 木々がざわめいている。

 それすらも、狂気へ導く囁きのように響いていた。


 怒りの熱で火照った体に、高揚感が満ちていく。

 

 野盗どものねぐらは、すぐそこだ。


 感覚が研ぎ澄まされていく。


 ああ……そうか、そういうことか。

 集中とかゾーンとかそんなんじゃない。

 その先にある――覚醒。 

 これが俺のギフトか。

 まだ先がありそうだが……それはともかく。


 ラノベでよくあるチート。

 転生者に与えられる、アレか。

 【暗視】とは違う。

 もっと感覚的で、全方位だ。

 視覚に頼っていない分、後ろが見えても混乱することがない。

 

 さぁ、手持ちの駒もわかったところで、いざ本番だ。


 

 静かな森の中を、音もたてずに駆け抜ける。

 植物の魔法で、道を開いている分、走りやすい。


 ねぐらが近づくたびに、高揚感が高まっていく。

 


 茂みと木の向こう、焚火の光が見える。

 お酒とおかしなハーブでも決めているのだろうか、様子がおかしい笑い声が聞こえる。

 

 身を潜めて機会をうかがう。

 まずは数を減らすことが重要だ。


 ギフトのおかげで、どこに居るのかが、見るよりもはっきりとわかる。

 

 さあ、狩りの時間だ。


 

 ゴミ捨て場の沼から、さほど遠くないところに、男たちはいた。

 大きな岩が露出し、それはまるで、玉座のようだった。

 座り心地も悪くない。

 まるで王にでもなった気分だった。

 

 その偽りの玉座から見下ろすのは、筋骨隆々、髭もじゃの男。

 眼下には薪を囲んで騒ぐ、三十ばかりの野盗たちがいる。

 肉を焼き、酒を回し、下卑た笑いが飛び交っている。

 

 沼地から、終りを振りまく獣が近づいている事に気が付かないまま……。


 ――男は上機嫌だった。

 久しぶりに美味い獲物を、手に入れたからだ。

 どこぞの地方領主への献上品だったらしく、美味い酒。食い物。――甘く香り立つ女達。

 

 王都で流行っている、気分の良くなるハーブも手に入った。

 部下のうち何人かはそれをそれを使ってか、ずっと笑い声をあげている。


 数年前までは飢える寸前だった男は、今ではこうして贅沢ができている。

 彼を追い出した村を、恨む気持ちが無いでもないが、苦労する親を見て育った彼には、村に復讐することまでは考えていなかった。

 村を出されて、流れ流れて気が付けば、野盗の一味になっていた。

 やがて当時のボスを始末し、彼がボスに就任してからは、仲間も増えて今や貴族の荷駄隊すら襲えるようになった。

 そして、数日前の事だ。

 奴隷を10人も連れた連中を襲って、成功させた。

 しかも、仲間の被害は0ときた。

 機嫌が悪いはずがない。

 戦利品の食料と酒を分配し、女はまずは全員、俺のものにした。

 飽きてから最後には全員、部下に与えた――が、扱いを知らない馬鹿どもはすぐに壊してしまった。

 

 そう言えば最後の女も、夕方前には動かなくなっていた。

 未だ青く、女と呼ぶには早かったが――赤毛が印象に残る極上の【獲物】だった。

 あまりにも反抗するから、数人がかりで押さえ込んだものだ。

 最後の最後、動かなくなるその時まで、反抗を続けていたが……。

 死なすには惜しい器量だったが、どのみち処分する予定でもあったし、部下のやりたいようにやらせた結果だった。


 酒も減ってきたところで、お気に入りの部下に持って来させて、何か面白いことでもさせようと考えた。


 しかし、いくら呼んでもその男は来なかった。

 部下の一人が、小便だろうと言っていたが関係ない。

 そいつに「すぐ連れて来い!」と怒鳴りつけた。

 杯に残った酒をいらだち紛れに飲み干した。


「遅い!いつまで待たせるんだ!」

 

 せっかくのいい気分が、台無しだった。

 空になった杯を、部下の一人に投げつけて「連れてこい!」


 酒はないし、女もいない。

 まともに使える部下もいない。


 目を瞑って怒りに耐える。

 すると次第に眠気が――その鎌首をもたげて、からみつき、ついには男を飲み込んだ。


 男は夢を見た。

 幸せな夢だった。

 美味い飯。美味い酒。いい女。

 女はあの赤毛だった。

 最後の最後まで反抗し、こちらを殺意を宿した目で睨んでいた。

 しかし今は、男の腕の中で媚びるような目を向けてくる。

 ――都合のいい夢だ。

 彼女が出て来たのは、最近では1番楽しめた相手だからだろう。

 

 まさに、この男にとっては幸せの絶頂であった。


 いつまでも続くかに思えたその夢は、だが――。


 気が付けば媚びていたはずの瞳は、吊り上がっていた。

 喉元へ届かんばかりの、剝き出しの殺意。

 女の細い腕が、するりと伸びる。

 縄のように、いや――蛇のように首に絡みつき、締め上げてくる。

 赤毛は今や炎のごとく逆巻いていた。

 その姿はまるで、地獄から這い出た悪鬼そのものだった。


 ――小さな悲鳴を漏らす。

 夢から飛び起き、荒く息をつく。

 締められていたはずの首を撫で、無事を確かめる。

 夢だ。

 夢だとわかっている……わかっているのに……。

 締められた首の感触が、息苦しさが、あの眼差しが――

 現実と、区別がつかない。

 

 ごくりと生唾を飲み込んで、喉が渇いていることに気が付いた……。

「酒だ!酒を持ってこい!」

 そういえば、眠てしまう前にも酒を持って来いといっていたはずだ。

 なのに、手元の杯は空のまま。

 それどころか、酒壺さえも見当たらない。

 もう一度、酒を要求する。

 いつもなら、だれかが慌てて持ってくる……それなのに……。


 部下どもの、話し声も、笑い声も……虫の声さえも、聞こえない。


 ただ風が、葉を揺らす音だけがかすかに耳に届く。

 

 男は苛立ちを覚える。

 【静寂】……【違和感】……それは静かに、心の臓を締め付ける【圧力】となっていた。

 

 ふと、子供の頃の話を思い出す。

 「森には人を食らう魔物が住んでいる」――そう教わっていた。

 「どうせゴブリンとかオオカミのことだろ」――そう高を括っていたのだ。

 今、この瞬間までは。

 

 小さくなった焚火の向こうに、異質な影が揺らめいた。

 炎の揺らめきとは違う、重く、ゆっくりとした動きだった。


「おい!だれか!……誰か!いねぇのか!」

 助けを呼んだつもりはない。

 ただすこし、声に不安が滲んだだけだ。

 

 よくよく見れば、焚火から離れたところに、部下らしき影が横たわって見えた。

 偽りの玉座から、怒鳴りつけるも反応はない。

 あれは、本当に……部下なのだろうか。

 あるいは……部下だった……ものか。


 焚火を超えて、何かが足元へ転がってきた。――いや、投げこまれたのか?

 それは人頭大の……毛の生えた……目玉のない、人の首だった。

 焼け焦げたような臭いが、遅れて鼻を突いた。

 

 恐怖にひきつったその首が、存在しない眼で男を見ている。

 その眼窩に、己の未来を垣間見た。


 森にすむ人食いの魔物――まさか、という思いが否定しきれず、幾重にも胸を締め付ける。

 

 そっと剣に手を伸ばす。

 わからない。わからないが、あの焚火の向こうの異質な影が不安の正体だ。

 男は部下が戻ってくれば、何とかなると思っていた。

 少なくとも、部下を犠牲にすれば自分だけでも逃げ切れると。

 

 木々がざわつき、満月は頭上に輝いている。


 ぽつりぽつりと雨が落ちてきた。雲もないのに。

 それはまるで、世界が壊れる前兆のように。

 その雨はぬるりと、肌を伝い、鉄の臭いを纏っていた。

 ――ずっと、気付かないふりをしていた血の臭いだ。


 本能が告げる。

 (これ)は――血だ。

 きっと……部下たちの――。

 息が荒くなる。

 焚火の向こう――その異質な影から意識を離さぬまま、ゆっくりと視線を上へ。


 そこには部下たちがいた。

 いや――部下だったモノが、そこにはあった。

 圧し折られ、捻じられ、粉砕された。

 かつて部下たちだった――肉の塊。


 動けない。

 それでもまだ、部下が来ると信じている。

 部下さえくれば、何とか逃げられる。

 

 ――まだ、そう思っていた。


 『殺したぞ』

 

 耳元で、誰かが囁いた。


 悲鳴が聞こえた。

 誰のものか――最初はわからなかった。

 気づいた時には、すでに恐怖が喉元まで這い上がっていた。

 剣を抜きざま、声のしたあたりをむやみに斬りつける。



 そのまま足を滑らせ、偽りの玉座から転げ落ちた。


 泥と血にまみれる。


 逃げようとする。何度も、何度も……足元のぬかるみがそれを許さない。


 小さな悲鳴を漏らしながら、あたりを見渡す。


 焚火の向こう――影はまだ、そこにいる。


 ……だが、それだけじゃない。

 あれ以外の【何か】が、いる。


『お前が殺した』

 また、耳元でささやかれた。

 

 「うそだ!俺がやったのは獲物だけだ!仲間を……やった事はねぇ!」


 当然、事実に反することだった。

 だが今は、事実かどうかなんてどうでもよかった。

 生きて逃げられれば、それでよかった。


 『お前が殺した』『お前が殺した』『お前が殺した』『お前が殺した!』


 声が、増える。

 距離が、迫る。

 空気が、震える。


 四方八方から聞こえてくる。

 耳に、肌に、骨に、臓腑に――それは、喰らいつくように響いた。

 男は悲鳴を上げながら転げまわり、その手に持った剣を手あたりしだい振り回した。


 何かにぶつかり振り向けば、女が立っていた。


 赤毛のガキだ。泥と血に塗れてはいるが、人の熱を持っている。


 ――そうだ!このガキを使って足止めすれば逃げられる!


 髪を掴もうと手を伸ばす。

 しかしその手は、何かの衝撃を受けはじかれる。

 ――激痛だった。

 その掌を見ると、白く怪しく光るなにかが貫通していた。

 骨?――だが、誰の? いったい何のために?

 考える間もなく、掌が痙攣し、血がしたたる。

 

 口に出していたのか、そのガキが――餓鬼とは思えない低い声で言葉を吐いた。

 

「骨だよ。お前が殺した、恨みのこもった骨だ」

 

 掌を貫いたその骨は、満月に優しく照らされて、輝いていた。



 何度目かの悲鳴。

「痛てぇ!あああ!手が!てがぁ!」

 鼓動の度に激痛が走る。

 その手を押さえて、縋るような、睨むような、媚びるような目で赤毛の少女を見あげる。


 ――いや、こいつは……本当にあのガキなのか?


 死んだはずだ。殺したはずだ。

 だからこそ、捨てたんだ。


 なのになぜ、ここにいる!?


「お前……ナンだ?」――誰だ?でもなく。ガキか?でもなく。「ナンなんだよお前!」

 震える怒鳴り声。

 それは涙交じりの、哀願のような叫びだった。

 

 少女は何も答えない。

 だが次の瞬間、男の耳には、空気を裂くように、ざらついた笑い声が響いた。

 それは少女のものではない。

 ――そうこれは、いまや顔や名も思い出せない……犠牲者たちの、声。

 怒り、恨み、絶望。

 それらが幾重にも重なり、地獄からの招待状のように、男を包み込む。

 

 男はようやく悟った。

 ――これは、罰なのだと。

 だからと言って、恐怖が薄れるわけではない。

 痛みも、絶望も、終わらない。

 ただ――この先に待つのは、救いなき結末だけだと知ったのだ。


 にもかかわらず、喉の奥から、笑いにも似た嗚咽が漏れた。

 己の末路に、脳が、心が、少しずつ壊れていく。

 

 赤毛の少女から逃げようと、後ずさる。

 だが腰が抜けてしまい、思うように動けない。


 少女は一歩――また一歩と、男に向かって近づいてくる。

 それはまるで、死神の歩みのようだ。

 そしてそれは、男の寿命を現すかのようだった。


 男の股間に温かいものが漏れる。

 

 それでもなお、男は逃げようともがき、這いずり、足掻く。

 それでも、死神は歩みを止めない。

 静かに、確実に、男の下へ向かってくる。


 復讐者は、1つ目の審判を下すように、男の右脚を指さした。

 少しの間を開けて、何かが砕ける音とともに、右脚が爆ぜた。断面から血と肉が舞った。


 男は、声にならない悲鳴をあげた。

 喉が震えても、もう音すら出せなかった。



 少女は左足を指さす。

 先ほどと同じように、間を空けて、今度は燃え上がった。


 痛みと恐怖で、失神する男。

 しかし、復讐者はそれを許さない。


 少女はフィンガースナップ――指をパチンと鳴らす。

 その音は増幅され男の耳内で爆音となって響いた。


 男は懺悔と命乞いを繰り返す。

 しかし、復讐者はそれを、許さない。


 男は学習した。

 ――あの指が向けられた箇所に、災厄が降りかかる。

 だから、次に指が伸びた瞬間、必死に体をねじって狙いを外そうとする。

 失神寸前の痛みの中でも、生存本能だけはまだ燃えていた。


 だが――無駄だった。

 その動きさえ、復讐者には、まるで子供の悪あがきのようにしか映っていなかった。

 そして、次は間を開けることはなかった。

 一瞬のうちに、その両腕は焼き切れて、地面に落ちた。

 

 命乞いは続く。


 復讐者は、死神としてちと泥にまみれた男の上に腰を下ろす。


 かつて偽りの玉座にふんぞり返った男を、己の断罪の座と変えたのだ。


 それにどんな意味であろうと、男には理解できるはずもない。

 ただその姿は恐怖でしかなく、まさに死を司る神のようだった。

 もがいても、もがいてもその縛から逃れることはできなかった。

 それはもはや、運命なのだと。


 少女がとりだしたのは、錆びた短剣。


 誰の物かはわからない。


 錆びたナイフを、男に見えるように掲げる。

 無音の調べが空間を満たす時、赤褐色|の塵が宙へ舞まった。

 刀身が、鈍く輝き始める。

 見えざる能力(ちから)に鉄が軋み、やがて冷たい光を放つ。


 少女の逆巻く赤い髪が、月の光を帯びて幻想的ですらある。

 彼女の瞳は夜空のような闇色で、その中に炎のように揺らめく十字の星が浮かぶ。


 それを見た男は、かすれた声で言葉を紡ぐ。

「その瞳……そうか、おまえ……化け物め……」

 

 その声は、少女の耳には届かなかったが、それでも少女は満足げに、凄惨な笑みを浮かべて、その刃を振り下ろした

 それは沈黙の審判。全てを終わらせる、最後の一撃だった。


 なお月は高く、そして優しく、地上を照らしていた。

 

R15って難しいですね。

自然とR18を超える内容になってしまって書き直すのに時間がかかりました。


もし気分が悪くなった方がいらっしゃいましたら、ゆっくり休んでくださいね。


お読みくださり、ありがとうございました。

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