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第四章 今生 彼編 いざ、まいらむ!

第47回。

ついにここまできました。


よろしくお願いします。

 暗闇。

 黒。

 何も見えない。


 まるで視覚が奪われたかのようだ。


 ただそこに在るのは、不自由という名の恐怖。


「……またこの夢か」


 夢。

 そう。夢のはずだ。

 彼はそう分かっている。


 ふと、足元に何か――気配がした。

 見えはしない。

 だが、確かにある気がする。


 以前に見た夢を思い出す。


「――!?」

 親友の名を呼ぶ。

 何度も――何度も。


 反応はない。

 けれど、なぜか確信できた。


 親友を助けたい。

 なのに体が動かない。

 夢の中の不条理だと頭のどこかでは分かっている。

 けれど、たとえ夢でも、目の前で倒れている親友を放っておくなどできるはずがなかった。


 親友の名を呼びながら、全身の力を振り絞り、手を差し伸べようとする。


 けれど、彼のその思いは叶うことはなく、夢から覚めたのだった。


 ※※※※ 


 《お兄さん……うなされてたよ?大丈夫?》

 《……夢? なんか……嫌な夢を見た……思い出せないけど》


 彼の心臓は激しく鼓動し、じっとりといやな汗をかいていた。


 《そう……昨日も言ってたね。本当に何かあるのかもね。見逃さないようにしないと》


 《ああ……そうだね》


 お兄さんの胸に落ちていた暗い影も、メルニアとの会話で晴れていく。


 ふと、申し訳ない という感情がよぎったが、その理由へは思い至らない。


 少女は窓の外へ視線を移す。

 そこにはまだ夜の闇が広がっており、なぜだかじわりと、胸に広がる恐怖を感じた。


 《お兄さん、大丈夫?》

 《うん。大丈夫……大丈夫》

 《……怖い夢だった?》

 《覚えてないんだ……それに、俺にはメルにゃんがいるからね。大丈夫だよ》


 メルニアから言葉は無かったが、融合された魂を伝って、喜んでいるのは伝わっていた。


 起きるにはまだ早い時間のようだ。

 二度寝することに決めた少女は、楽しい夢を望みながら、再び目を閉じた。



 空が白み始めた頃、宿のロビーに鍋ぶた旅団の面子は揃っていた。

 そのまま冒険者ギルドへ行き、初心者向けのクエストを探す。


 依頼張出用の掲示板には、薬草採取や、町周辺のモンスター駆除もあった。

 しかし、目を留めたのは夕方には終わるという用心棒の仕事だった。

 これを少女は一人で受けて現場へ。


 現場である港へ到着。

 商人の商談の護衛ということだったが案の定、荒事に発展。


 鍋ぶた旅団は物陰から、義姉妹の初仕事を見守る過保護っぷり。


 少女はそれに気づいていたが、気付かないふりをした。


 少女一人を相手にして相手方は油断していたのもあったかもしれない。

 少女の雇い主が「なんでもいいから、何とかしてくれ」という言葉を口にしたとたんだった。

 相手は二十人ほどもいたが、あっという間に打ち伏せてしまう。


 それはまるで、優雅なダンスを踊っているかのようだった。

 ひらりくるりと舞えば、まるで彼女を飾り立てる紙吹雪のように宙を舞う荒くれ者たち。

 吹き飛んだ後の彼らは、どこかしらがあらぬ方向を向いており、前衛的な彫像のようになっていた。

 歓声の代わりに聞こえるのは、彼らの汚いうめき声ばかりだった。


 それを見た少女の雇い主は、喜び専属契約を望んだほどだった。



 仕事を片付け終えた少女は、夕方にはギルドへ戻ってきた。

 思いのほか早い帰還に、受付嬢――ホスは怪訝な顔をしたが、依頼主のサインの入った書類を出されては納得するしか無かった。


(依頼の失敗でもしてれば可愛げもあるのに、いやな女!)


 先日の事を根に持ったままの彼女ではあったが、仕事はきっちりとこなすのだった。



 少女――特にお兄さんは、冒険者として初の報酬に、興奮せずにはいられなかった。

 そしてついに、冒険者人生初の報酬を受け取った。


 これで、鍋ぶた旅団による一人旅のための講義は終了だった。


 報酬を手に取り振り返ると、彼らが待っていた。


 みんな笑っている。


 ハシモには明日出発前に会いをしに行く。

 そこで、みんなとはお別れだ。


 《寂しいね》

 《メルにゃんいてくれるから平気だよ》

 《……うん》


 (嘘が下手だなぁ)


 お兄さんの嘘に気がついても、それに気がつかないふりをしてあげるメルニア。

 お兄さんの扱いが上手くなってきていた。



「さぁ!ご飯にしよう!旅の無事を祈って!」

 ムードメーカーのエドモンドがこぶしを突き上げてそういって、皆で調子を合わせた。

「「「「おー!」」」」


 六つの笑顔が出口と向かう。


「ちょっといいとこ行こう!」


 《ああ……楽しいね》

 《ええ、本当に》



 バァーン!


 出口に手をかけようとしたその時、振り子ドアが荒々しく弾け飛ぶように開かれた。

 女騎士が転がり込むように中へ現れたのだ。

 額には汗が滲み、眼の下には濃い隈が浮き出ていた。

 今にも倒れそうなほどの疲労を、見て取れる。

 だが、その瞳だけは炎のように燃え、広間を射抜く。

 彼女は深く息を吸い込み、言い放った。


「緊急の依頼だ!腕に自信のある者を全員集めてくれ!」


 その声は疲れを感じさせないほどに凛として、広間の空気を一瞬で張り詰めさせた。


「報酬は通常の倍だ!いや3倍出す!急いでくれ!」

 言い終わると、女騎士は膝から崩れるように倒れ込んだ。


 ホスが慌てて駆け寄り騎士を支えながら、近くにいた鍋ぶた旅団へ指示を出す。

「この方を奥へ!食事と飲み物を用意して!」

 さらに周囲へ指示を出す。

「そこのあなた!表の馬を裏の厩舎へ!馬も休ませてあげて!」

 あたりを見渡した彼女は舌打ちをひとつ。

「ショージーのチームを呼んできて!どうせ隣で飯食ってんでしょうから!」


 キーンが女騎士を抱き上げ、ギルドの奥へと進む。

鍋ぶた旅団(あなたたち)も、残ってください。これはギルドからの正式な強制依頼です」


「あー、俺たちはこれから飯を食いに行くんだが……」

「何のために、ギルド内に食堂があると思っているんですか、あとでパパっと済ませなさい!」


 レイヴンが一応の抗議をしてみるが、取りつく島もなかった。


 奥へと進む鍋ぶた旅団の背後の広間からは、期待と緊張の歓声が上がっていた。


 《お兄さん……これ、私たちも受けよう?》

 《え?初心者だよ?》

 《夢の事、なんとなくだけど、関係ある気がするんだよ》

 《ええ?》


 怪訝な顔をするお兄さん。


 《きっと何かあるんだよ。お兄さんは信用してないけど、炎と縁を結ぶ巫女の勘だよ》

 《何それカッコいい》

 《ふざけないで》


 メルニアの其の真剣な声色に、思わず喉を鳴らすお兄さん。


 《わかったよ。参加できるかどうかわからないけど、頼んでみようか》


 彼等と一緒に、奥へと進む少女だったが、サブリーダーのリィンに声をかける。


「ねぇ。私もいっしょに行っていいかな?」


 リィンは一瞬、ぽかんとした表情を浮かべ、笑いながらこう言った。


「当たりでしょ?姉妹なんだから」

「はい!お姉様」


 少女は初めてリィンとディッダを「お姉様」と呼んだのだ。

 かなり恥ずかしかったけれども。


 しかし、心の中で『本当に俺なんかが妹として扱ってもらっていいんだろうか』という後ろめたさは、これにより消えうせた。

 開き直ったともいえるが、これで心置きなく彼女達と行動できるというものだ。


 ギルドの救護室のドアが開いた。

 それは転生者にとって、何かの啓示のように思えたのだった。





次回、『第四章 今生 彼編 ときはいま』


たぶんこれ。


よろしくお願いします。

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