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第四章 今生 彼編 知識と絆と信頼と

解説:種族


大槌族(ドワーフ)身長は120cm~大きくても150cm。

男女ともに豊かな髭を蓄えている。

筋骨隆々で天然のマッチョたちである。

大酒のみであり、豪放磊落なものが多い。


冶金・鍛冶などに代表される金属加工や、土木や建築などの職人が多く、彼らの国は高山の奥深くに存在する。

最も大きなものは、天蓋山脈の地下にあり、アイジア王国との友好関係を築いている。

彼等は人間族の町にも多く住み、生活に溶け込んでいる。

冒険者になることも多く、その多くは大槌や戦斧を使うことで知られる。

寿命は人間族の数倍といわれている。



 食堂での騒ぎを終えて、鍋ぶた旅団の男組の三人は物資補給と挨拶回りへと出ていった。

 リィンとディッダはメルニアと武具店や魔法雑貨店を見に行くとして別行動だ。


「今日は装備系のお店を見て、それから魔法系のお店へ行きましょう」

 リィンが楽しげに今日の予定を口にした。

「とは言え、私たちはこの町を拠点にしてる訳じゃないから、詳しいことはわからないんだけどね!あはは」

「メルは一人旅。必要な知識を伝える」

 ディッダがそう言ってメルニアの手を握った。


 そう、メルニアは故郷へ戻らねばならない。

 この町で時間をとっているのは、この先の旅に必要な準備のためだ。

 冒険者登録、武具の目利き、道具の目利きもそうだ。

 いま、彼女達はメルニアにその知識を伝えようとしているのだ。


 ただ甘やかすだけが姉ではない。

 メルニアのこれからを考えて、力になろうとしてくれている。

 それが伝わってくる。


 《いい人たちだね》

 《いつかまた戻ってきたいね》

 《……うん》


 メルニアは心の中で、彼女たちが本当に良い人たちだと感じていた。

 いつかまたこの場所に戻ってきたいという思いが湧き、静かにうなずいた。


 武具屋へ向かう道々、屋台で買ったジャイアントトード肉の串焼きに舌鼓を打ち、バネのように捻じれたフルーツのジュースを買って飲んだりと、三人は今を楽しんだ。

 それは、別れの時までのわずかな時間を、胸に焼き付けるためだった。



「ここが、評判の武具屋だよ」

 それは古びた一軒家だった。

 見た目からはとても人が住んでいるようには見えないが、たしかに煙突からは煙が上がっている。

 壁はところどころひびが入り、塗装は剥がれ落ちている。

 けれどそこにはしっかりと武具屋の看板が出ていた。


「腕のいい大槌族(ドワーフ)がやってるらしいんだよ。知り合いの鍛冶師から紹介されてね」

「腕のいい……?」


 店の外観からは、とてもそうは見えなかった。


「変わり者でもあるんだって。まぁ入ってみようよ」


 《大槌族(ドワーフ)だってメルにゃん!》

 《ああ、そっか、お兄さんの世界にはいないんだったね。背が低くて毛むくじゃらで力が強くて頑固で、まぁ面倒な連中だよ。でも、一度仲良くなれば、楽しい連中だよ》

 《ほほぅ……まさに、イメージ通りの大槌族(ドワーフ)


 中へ入ると、店内は明るく、所狭しと武器が展示されている。

 ナイフ、短剣などの小物から、巨人用のロングソードだろうか、二メートルを超える鉄の塊までも陳列されていた。

 刃物以外にも、棍棒や槌などの鈍器や、弓などの飛び道具などもおいてあり、品ぞろえから繁盛していることがうかがえた。


 そしてそのどれもが、ある種の美しさを備えており、職人が丹精込めて作ったことが伺えた。

 奥へ進むと話し声が聞こえてきた。

 それは次第に熱がこもり、ついには言い争いへと発展した。


「めんどくさい客は、どこにでもいるんですね」

「命を預ける道具だからね、こだわりが強いんだよ」

 と一定の理解を示しつつも、

「でも、職人とか店員には敬意を持って接しなきゃね」とためになることを言うリィン。


「ごもっともです」

 サラリーマン時代を思い出して苦笑する少女。


「見たことある」

 ディッダのその一言に二人はあたりを見渡すと、言い争ってる片方が、昨日メルニアを触ろうとして返り討ちにあった一人。

 ショージーだった。


「何やってんでしょうね」

「事情がわからないから、判断できないね」

「あれは禿げる」


「「!?」」

「ど、どういうことですか?」

 メルニアの中にいるお兄さんは、その男にかつての自分を重ねた。

 前世ではおじさんだったが、まだふさふさだったあの頃を思い出し、複雑な気持ちになった。


「あれは禿げる」

「ディ!?」

「ディの予感は当たるのよね」


 見ればまだ彼は30代のようだ。


「き……きっと、苦労が絶えないんだよ」

 今度は逆にメルニアが擁護した。


「セクハラして怒られるのが苦労なら自業自得よ」


 リィンが少女の目を見て語る。


「メル、甘い顔してはダメ。悪い奴は魔物と一緒。必要なら対処するしか無いのよ」


「冒険者は舐められたら終わり」

「ディの言うとおり。遠征先で、ダンジョンで、敵は魔物だけじゃない。場合によっては人間だって敵になる。気をつけなさい」


「わかりました」



 《……そうね。信じた結果裏切られたものね。『報復は無い』と舐められたからだわ》


 少女の中で復讐の炎が勢いを増していく。

 それは、魂を一部融合しているお兄さんにも影響を及ぼした。

 しかし、今はそれを表に出すときでは無い。

 お兄さんはメルニアの怒りを己のものとしながらも、状況を把握し判断できるだけの冷静さを持っていた。

 彼女をなだめるために、優しく声をかけるお兄さん。


 《メルにゃん、あの時の裏切り者は俺がこの手で地獄に送ってあげるから、心配すんな》

 《心配なんてしてないし……ありがとう》


 二人の心が通じ合い、ふっと和むのを感じた。




「だからぁ!アイツらの支払いは俺が持つって言ってんだろう!」


 ショージーの怒鳴り声が店内に響いた。


「アイツらが怪我をして支払いができなくなるから俺が払うって言ってんのに、何がダメだってんだ!」


 三人の予想とは違うようだった。

 顔を見合わせた三人は、興味が湧いて近くの棚の影に隠れて盗み聞きするのだった。


「仲間は支え合うもんだがな、片っぽだけが支えてちゃ、そりゃもう仲間じゃねぇ。お前はいい加減、そこに気づけ」




「……怪我」

 ディッダをついみてしまう。

「関係ない」

 メルニアのその視線に気がついて、解説が必要と感じたのかディッダは解説にもなってない事を口にした。

「ディはそんなヘマはしない。どうやら、あの男は仲間だと思ってる連中に、カモられてるようね」

 リィンがディッダの言葉を補足して、メルニアの誤解を解いた。


 しかし、意味はわかっても信じられなかった。

「命を預ける相手なのに、そんな事あるんですか?」

「ええ。残念なことにね。そして最悪のタイミングでわかったりするのよ」

「最悪のタイミング?」

「撤退時」


 撤退――即ち敵と戦う者にとって最も難しいとされる瞬間。

 その瞬間での裏切り行為。


 わが身可愛さに仲間をチームから切り離し、むりやり(おとり)に使うなど、ギルド酒場で聞き込みをすれば新旧合わせて無数に出てくるだろう。


「仲間選びは重要」

「昔から、『信頼できる仲間は龍にも勝る価値がある』って言うからね」



「おい!そこでこそこそしてる奴!用があるなら出てこい!」

 ショージーと言い争っていた親父に見つかって、大声で呼びつけられた。


「おやっさん!俺との話がまだ終っちゃいねぇ!」

「うるさい!この馬鹿たれが!お前は昔っから変わっとらん!図体ばかりデカくなりおって!いい加減腕っぷし以外も成長したらどうじゃ!」


 三人がバツの悪そうな顔をして棚の影からくると、その姿を見て昨日の事を思い出したショージーは顔をひきつらせた。


「こいつらだよ!こいつらが、俺の仲間を!!あだぁ!??」

 親父による鉄拳がショージーの太ももに炸裂したのだ。

「いい加減にせんか!!ともかく奴らに自分で払わせろ!さもなくば商業ギルドの取り立て屋に回すぞ!」


「怖っ」

「『商業ギルドの取り立て屋』というのはね、どんな相手からでも借金を取り立てることができるっていうそれはそれは恐ろしいものだよ。かかわりのないようにしようね」


「どんな相手でも?」

 意地悪な質問をしたくなったメルニアはその質問を口にしてみた。

「たとえば、王様や高ランクの冒険者でも?」

「ええそうよ。むしろ商業ギルドのトップにそれらがいたりするからね。怖い者なしよ」

「……こっわ」


「くっそ……お前らも覚えてやがれ!」

 三下のような捨て台詞を残して、店を乱暴に出ていくショージーだった。


「で、お前さんらはなんじゃ?」


 その鋭い眼光に、思わず腰が引けてしまう少女達であった。





種族開設はその都度やっていきますね。


この世界では、全ての知性ある者が手を取り合った過去があるため、比較的有効な種族は人間の町に住んでいることもある。

たとえば、獣頭族(ハウラー)の犬頭族や、港町には多肢族(アスラー)と呼ばれる種族も多くみられる。

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