第四章 今生 彼編 小、則ちこれ大なり
ギルドランク解説
九階位:銅、青銅、鉄、銀、金、霊銀、霊鋼、金剛鋼、緋色金。
上ふたつは伝説として長い間就いたものはおらず、もはや書類上のものに過ぎなかった。
つまり実質七階位。
荒くれ者のひとりがメルニアに近づいて、いやらしい笑みを浮かべながら、値踏みするように視線を這わす。
「嬢ちゃん、そんな薄いひらひらの服着て、俺たちの事誘ってるんだろぅ?」
にやにやしながらメルニアの顔をのぞき込む。
しかし、少女の中身は絶賛、論争中であり、周囲から見ればただの放心状態なのだ。
「兄貴、やっちまえ!」
「次は俺だな!」
「俺はそっちの胸のでかい方がいいな!」
「俺もだ!」
「小さい方は誰かやれよ!」
「でかい方がいいに決まってるだろ!」
下卑た笑いが広がる。
男が少女の胸を触ろうと手を伸ばす。
その瞬間―― 一陣の風と共にリィンの杖が素早く振られ、男の手を弾き飛ばした。
「いっ!? なにしやがる!」
「助けたのよ?あなたのお仲間をね」
「ああん?」
「あ、兄貴ぃ」「うぅ……う」「どこが……新人だよ」
振り返ると、悶絶して床に転がる仲間たち。
さっきまで「小さい方はいらねえ」と騒いでいた男達は、その『小さい方』に一蹴されていた。
その中で立っているのは、『小さい方』――ディッダだった。
「よかったわね……触る前で。もし触っていたら、あいつらはもっと酷いことになっていたわ」
「お、俺たちはシルバーランクだぞ!お前らみたいな新人が逆らって、タダで済むと思うなよ!」
その声に、ようやく少女が現実に戻る。
《……シルバーランク?》
《お兄さんがバカなこと言ってる間に、何だか、面白い事があったみたいよ》
《俺は女の子とイチャイチャしたいって言っただけなのに……おお?ディがやったのか?あれを》
放心から戻った少女は隣に立つリィンへ説明を求めた。
「ねぇリィン、シルバーってどれくらいのランクなんです?」
「あら、ふふふ、メルにゃんおはよう」
「メル、寝るの良くない、怪我をする」これはディッダ。
彼女なりの冗談だった。
周囲は内心で突っ込んだ。
『五人も怪我させたお前が言うな!』
そこへギルド職員が数名現れて、動けない荒くれ者を端へ引きずっていった。
メガネの女性職員が口を開く。
「ショージーさん、何度目ですか?いい加減、資格停止だけじゃなく除名もあり得ますよ?」
「いや、俺は冒険者の厳しさを教えてやろうと思って!」
「ええ、そうですね。優しい先輩ですね。ですから……そちらの方々もこれで終わりにしてくださいね。これ以上はギルドとして、規律維持のために介入しないといけなくなりますから」
要は『これ以上の騒ぎはギルドがっ黙ってないぞ』という事だった。
もちろんリィンもディッダもわかっている。
そうなる事を見越しての行動だった。
そして、二人がいいなら異論はない少女だった。
荒くれ者の男達は職員に引きずられ、反省室へ行く事になるらしい。
周囲の野次馬たちは、ことが終われば、まるでなにもなかったかの様に各々の用事へ戻っていった。
あの程度の騒ぎなど、日常茶飯事なのだった。
その場に残ったメガネの女性職員が、鍋ぶた旅団の三人へ向き直って自己紹介をした。
「ようこそ。冒険者ギルド・サクリカ支部へ。私はホスと言います。皆さんは新規登録ですよね?どうぞこちらへ」
三人をはホスに先導されて、中二階の個室席へ。
改めてホスからギルドの不始末として謝罪があったが、三人は不問としたのだった。
「え?登録されるのはこちらのお嬢様だけですか?」
「お嬢様だなんてそんな」
否定したのはメルニアだけで、リィンもディッダもなにも言わなかった。
彼女たちとしては今更身分とかどうでもいいが、それをわざわざ口にすることもない。
相手の勘違いの仕方が、彼女たちにとって都合が良ければそのままにしておく。
ただそれだけだった。
「えっと……そうですね、冒険者は身分とか関係ないですし」
もし、高い身分の者がお忍びで登録に来ていたのだとしたら、今後の対応も慎重に行わなけれならないが……。
ホスはこの両脇に座っている二人の顔色を伺った。
……どうやら間違った発言ではなかったらしい。
「では、メルニアさんの登録ですが、鉄級をご希望という事で間違いないですか?」
ギルドランクは下から、銅、青銅、鉄、銀、金、霊銀、霊鋼、金剛鋼、緋色金。
上ふたつは伝説として長い間就いたものはおらず、もはや書類上のものに過ぎなかった。
つまり実質七階位であった。
「メルは強い」ドヤ顔のディッダ。
「そうね、この子がその気になればさっきもひとりでヤってたわね」
「でも、さっきはなにもできていなかった様な……」
「私たちは……『銀級』です。うちの戦士から五本中二本取れる実力者です。実力は保証します」
「メルは強い」
「ギルド規定でも二人以上の推薦があれば、推薦者のひとつ下のランクで登録できるでしょう?」
「それはそうなんですが、実力を示した場合という事になってまして……先ほどの様子では……」
「では、テストをしましょう。訓練官がいますよね?それをこの子に挑戦させてください。きっとわかってもらえます」
リィンの発言は挑発だった。
ホスは若いが長くこの職につき、役職と誇りを持っている。
それを逆撫でする物言いだったのだ。
「へぇ……随分と自信がおありの様ですね」
「メルは強い。戦士としての腕は確か」
勝手に上がっていくハードルに、少女の中の転生者は不安げにそのやり取りを見ていた。
《知らない相手にそんな……相手が強い人だったらどうするんだよ……》
《自信をもって?お兄さんは十分強いし、私も強い。私に勝てる者がいるとしたら、草原にいる父上と兄上くらいのもの》
《記憶を見て知ってるけど……実感がわかないんだよ》
《お兄さんの記憶にある技術体系は、異常なほど人を殺すことに特化してる。対人戦なら、父上や兄上にも勝てると思うよ》
《……複雑な気分だよ》
そんな少女を置いて、訓練場や訓練官の準備が進んでいく。
やりたくないわけではなかったが、せめて意見を聞いて欲しいと思うお兄さんであった。
前書きのシリーズ、やっていこうかな・・・。
好きなシーン、好きなキャラ、ありましたら教えてくださいね。
お読みいただきありがとうございます。




