表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/71

第四章 今生 同僚編 見えざる手

登場人物紹介

いつも出てる人たち。

リア:二人の主人公のうちの一人。同僚。

ルー:リアの近衛で筆頭侍女。お姉さんみたいな人。

カタリナ:リアのお母さんの親友。若い。

 それは訓練場のはるか上空、誰にも気付かれることなく、そこにいた。


 背中まである波打つ銀髪は強風にあおられ、たなびいている。

 猛獣のように力強いその双眸――右目は眼帯のようなもので隠されているが――は黄金色の光を宿していた。

 その口元は生意気そうな性格が見て取れた。

 白を基調としたゴスロリ衣装に同じ色のつば広三角帽子。


 そして、どこからどう見ても子供であった。

 しかし、その存在感は只者ではない。


 かつて、別世界にて【女神の愛娘】と謳われ、信仰の対象ですらあった彼女。

 その名は『ウル・アスタルテ』。

 【転生者】とは違う事情で、この世界へ迷い込んだ【転移者】であった。



 周囲に結界でもあるのか、はたまた、雨そのものが彼女に遠慮しているのか、雨粒は彼女を避けて落ちていく。

 彼女はそれが当たり前であるかのように、その現象を歯牙にもかけなかった。


 高みから見下ろすのは、リア達のいる訓練場。

 親指と人差し指で輪を作り、覗き込んだ先にはリアが騎士を讃えている姿があった。


「カッカッカッ 可愛い顔をしておるではないか」

 その見た目にそぐわない笑い声をあげて彼女は笑う。


「あれがイナンナの言っておったオルラ・アウレリア……るく……なんじゃったかのぅ……長い!もう良いわ。……面倒じゃから、シルヴァンとやらを消して終り、という事でよかろう」


 そう彼女はイナンナの寄こしたリアのための援軍である。

 だが、その言動から分かる通り、彼女には慎重というものがいささかかけているのだった。


 新たな魔法を織ろうとした瞬間である。

 耳障りな金切音があたりに響く。

 空間に亀裂が入り、光が漏れ、その中から現れたのは燕尾服にシルクハット姿の紳士。


「【転移者】……ウル・アスタルテだな」

 静かな、だが良く通る低い声だった。

「む?貴様は何者じゃ?」

「理の代行者」

 男はシルクハットのつばを、右手で軽く触れる礼を取った。

「ことわり?」

 訝し気な視線を向けて小首をかしげる。


「【黄金の王女にして玉座の娼婦】――理を穢さんとする外道(ウイルス)を確認」


「な!?【金色の王女にして玉座(それ)の娼婦】を知っておるとは元の世界――」


「排除プロトコル、実行」

 突然現れた魔法文字の浮かぶ首輪が、彼女の首を絞めあげる。

「ぐっ!?……なんじゃ……これは!?」

 さらには、その手に、その足に、食い込むように光の枷が現れた。


 彼女が意識を向けると、その光の枷は音を立てて砕け散っていく。

「こんなもの!」


 複数の気配が――学生服の少年や、アロハシャツのおじさん、ぴっちりスーツの女、バニースーツの男など、統一感のない服装の集団が周囲に現れ、光の枷は加速度的に増えていく。


「次から次と!うっとしい!!」


 彼女は回避のために雨雲の中へと、飛び込んでいく。

 彼女の雷は辺り一面を迸り、空を焼いていく。


 雲を突き抜け、青の世界へ。


「ちっ!待ち伏せか!」


 そこには、幾千に及ぶ代行者たち。


 それらが一斉に「排除」を口にする。

「――排除・排除」制服姿の少年。

「――排除・排除」アロハシャツのおじさん。

「――……」ぴっちりスーツの女。

「――排除・排除」バニースーツの男。


 彼女が発した雷は、代行者の半数を消し飛ばしたが、しかし多勢に無勢。

 攻勢に転じている間にも、光の枷は増え続け……ついには、蜘蛛に囚われた獲物のように、光の枷によって幾重にもその動きを封じられていく。

 さらに幾重にも結界を張られ、球のような封印は完成した。


 それは、既に抵抗できなくなったウルに対して、過剰なものだった。


 幾千とあった代行者たちの気配は、徐々に消えていく。


 燕尾服の男の耳を、微かなノイズがかすめた。

 しかし、振り返ってもそこには何もなかった。


「事象外。代行者の任務中に自由意志を発生させることは、規定上あり得ない」


 燕尾服の男は封印球へ向き直り、手順通りの宣言を行った。


「……排除、完了」


 最後の気配は、結界球と共に姿を消した。




 上空での戦闘が激化しているころ、地上では……


「きゃぁ!」

 空を焼くかのような稲妻が走り、その轟音に宮女たちが悲鳴をあげた。

 雨雲だと思っていたものは、今や稲妻が迸り、観るものに底知れぬ畏怖を抱かせた。


「これはいかん!リア!」

「はい!小母様!」

「一時ちゅ……」

 中止と言いかけた瞬間、空気を震わす衝撃波と共に、いくつも雷が落ちた。

 そのうちのひとつは城の尖塔のひとつに落ちたようで、火のてが上がるのが見えた。

 そして、グラウンドにある旗柱にも落ちて周囲にいた兵士や、騎士が巻き込まれていた。


「殿下!ここは危険です!ひとまず城の中へ!」


 演習の中止を宣言し、騎士団長の2人は被害に遭った兵士たちのもとへ――控え室へと向かった。



 もし、この二人がリア達と行動を共にしていれば、あるいはこの後の悲劇をなかったかもしれない。



 逃げ惑う観客たち。

 彼らは城勤の者が殆どなので、その施設の構造を知っているはずであったが……。



 落雷の影響か、人込みによるものかは不明だが、この場にいる皆が、眩暈を覚えたと後に証言されている。



 ルーをはじめ数人の近衛と侍従達はリア、カタリナを守りながら出口へと向かう。



 何故か乱れた動きをする観客達は、このタイミングで、ただ1箇所を目指して、殺到する。



「退がれ!殿下から離れろ!」


 近衛の誰かが叫んだ。


 群衆によって、護衛の者達がリアから引き剥がされていく。


「まさか!?」

 ルーはこの余りにも大胆な攻撃ともつかない攻撃に、虚をつかれた。

 リアは11歳。

 大人達よりも背が低く、この群衆に紛れてしまっては、探し出すのは困難だった。


 背筋に冷たいものが走った。

「殿下!殿下ぁ!!」

 悲鳴のような呼び声が響く。


「殿下!どちらにおわします!殿下!」


 リアからの返答は遂にないまま群衆は姿を消した。





 この日、訓練場を襲った混乱は、ただの事故や天災ではなかった。

 それは王国の歴史に深く刻まれる、重大な分岐点の始まりであった。


 戦争とは、剣によるものだけではない。


 人の善意のみを信じ、悪意の存在を忘れた王国が犯した、最大の油断であった。

 その油断を突いた、影の侵略者はひそかに王国の内奥へと忍び入り、王女を攫った。

 この事件を契機として、王国は初めて【影なる侵略】を知ることとなる。


 ――史に曰く、これを「影蔵事件」と記す。



登場人物も増えてきましたが、お気に入りのキャラクターは居ますか?

お気に入りのシーンなどありますか?


教えていただければ、もしかすると、登場機会が増えるかもしれません。

確率はわかりませんが、私の心に残っていれば、ありうると思います。


コメントに書いてくだされば!


そのほか感想もお待ちしております。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ