第一章 現世・同僚編 同僚
今度こそ、予約投稿でシリーズ化されているはず・・・3度目の正直 3度目? もう何回目か忘れたよ・・・ 頼む、いってくれぇ!
時間を少し遡る。
同僚は、うとうとしていた。
彼と同様に疲れていた。
特に今回はひどかった。
嫉妬からなのか細かな、嫌がらせが増えていた。
彼も、同僚も、学生時代はスポーツマンだった。
別の大学に通っていたが、古武道サークルの交流で知りあい、意気投合した仲だ。
二人とも、引き締まった体に程よく肉が付きタイプは違えど、性別を問わず人目を引く容姿をしていた。
そんな彼らの親しさから、社内では「付き合っているのでは」と噂されるほどだった。
――そして、その噂への嫉妬が、職場での嫌がらせに繋がっているのかもしれない。
どうせ嫉妬されるなら、いっそ、彼が女であればよかったのに。
そうすればあの噂を、現実にしてやったのに。
……なん度か、そう思ったことがある。
でも、きっとそれは、今のような関係にはならなかったはずだ。
いちいち言葉を選んで、冗談だって加減が必要で、とにかく気を使って疲れてしまったに違いない。
そうすれば、今みたいに「隣にいることの方が自然」だなんて思えなかったろう。
お互い、今は恋人なんていない。
学生時代には付き合ってる人がいた……けれど、ひどい別れ方をした。
それ以来、恋愛は面倒くさいと感じるようになった。
ウトウトと微睡む中、彼が「つまみを買いに行く」と言う背中をぼんやりと見送った同僚は、ふと、自分が食べたいおつまみを思い出した。
これならきっと彼も喜ぶだろう――そう思って疲れた体に鞭打ち、おぼつかない足でキッチンへ向かう。
食材を沢山保存できるようにと新調した冷蔵庫を開け、目当ての食材を取り出した。
彼が作ろうとしてるのは、厚揚げと鶏肉の煮込み。
ついでに彼の好物の煮玉子も。
鍋に食材を入れ、醤油、味醂、酒を注ぐ。
さらにチューブのニンニクやショウガを捻り出し、鷹の爪を少し。
隣の鍋で煮玉子ように、卵を茹で始めた。
そこまで用意すると、気が抜けたのか、疲れに逆らえなくなっていた。
壁に寄りかかると、ズルズルと力なく座り込む――その時にはもう、同僚の意識は漣のような眠気に、足を囚われていた。
もう休んでいいんだと、疲れは優しく春の日差しのように眠気を誘う。
彼の帰宅を待ちわびながら、深い眠りへと落ちていった。
其れは、深い深い、眠りだった。
警報機が鳴ろうと、隣人が部屋のドアをたたこうとも――それは、決して目覚めることのない、優しく、全てを包み込むような眠りだった。
……世界は暗転し、次の幕が上がる。
そして、次に目が覚めた時――そこは眩しいほどの真っ白な空間だった。
何もない。
ただ、白。
あまりにも白くて、壁も天井も区別がつかない。
いつの間に着替えたのか、あるいは着替えさせられたのか、真っ白の服を着ていた。
最初は、何かの冗談かと思った。
(あいつ……)
思わず、笑みが溢れた。
それほどまでに、この空間は徹底して白だ。
気が付けば、歩いていた。
自分だけではなく、知らない人たちも同様に――
決まった方向へ、ただ黙々と歩いていた。
どれほど歩いただろうか。
気が付けば――
白い空間には、数えきれない本数の列が、遥か遠くまで続いていた。
列に並ぶ。
なぜだか、それが正解だと――当然のように、わかっていた。
ただ、子供の頃から身に沁みついた「ルール」に従っただけのことだった。
あたりを見渡せば、黒い靄に包まれている者たちが、ちらほらと混ざっていた。
列を守らず、割り込むものや、落ち着きなく動き回る者たちもいる。
同僚はそのまま静かに、順番を待った。
どれほど歩いただろうか。
列の終わりがぼんやりと見えてきた。
そこには、明らかに列に並ぶものとは違う、何かがあった。
列はゆっくり進み、終わりの様子が見えてきた。
さっき列を守らず割り込んだ者は、その足元が裂け、落ちていった。
黒い靄に包まれた者も、同じく落ちていった。
そして、ついに、次は同僚の番が回ってきた。
目の前にはぴっちりスーツ姿の天女が、まるで面接官のように待ち構えていた。
就活の際の圧迫面接を思い出して心臓がキュッって……なった気が……した?
手の込んだ冗談だと思う反面、もしかしたらリアルなのかも?とも思う。
なにせこんな手の込んだことをする予算なんてないはずだし、何より時間がなかったはずだから。
そしてもう1つ、こんな美人があいつの知り合いなわけがない!絶対に!
目の前に座っている天女面接官はこちらをちろりと一瞥すると、書類をパラパラとめくりながら何やら書き込んでいく。
「……よいでしょう。そなたの願い、そしてそなたが大切に想う者の切なる祈り――確かに受け取りました。憂うなかれ。すべては、然るべきときに、然るべきかたちで」
面接官かと思ったら、意外と優しい天女だった。
しかし、何のことを言っているのか、同僚にはわからなかったし、それより何より――
(恋愛は面倒だと思っていたのに、こんな美人で優しくて、スタイルもいい人なら好きになりそうだ、はは)
同僚はそう思った。
思っただけだ。
口には出してはいないはずだ。
それなのに……。
「まぁ!お上手ね。やっぱり【善き人】に言われると、素直に嬉しくなっちゃうわぁ」
(ああ……これはあれか、夢か……でなきゃ、マジで転生でもするのか?)
「あらぁ!よく分かったわね!最近は経典――ラノベを読む人が増えて助かるわぁ」
(仕事終わって帰宅したら、見るものなんてそんなにありませんしね)
「大変ねぇ」
天女は頬に手を当ててしみじみと言った。ふと書類に目を落とし――
「あなたの経歴じゃぁちょっと足りないけど……いいわ、オマケしてあげる!向こうで確認してみてね!」
(オマケ?オマケはありがたいけど、向こう?)
「そうよ?さっき言ってたでしょ?あなた、転生するの」
にっこりと笑って、天女は言った。
まるで、「お茶でも飲む?」くらいの軽さで。
美人なお姉さんが、可愛らしくそんなことを言うものだから――
(かわいい……好き!)
天女に優しくされたのなんて初めてだった。
その優しさに触れた男の、悲しいサガのようなものだった。
同僚には相手が何者かなんてわかっていなかった。
けれど――
短い間ではあっても、天女の人柄?……いや神柄?にふれて同僚はふと思った。
これこそが【理想】というやつだと。
天女に向けて抱いた思いは、それは【恋】ではなく、たぶん【敬愛】と呼ぶものだった。
そして天女は、その朝に浮かぶ満月のような笑顔で――
最後に、小さく手を振りながら、やわらかく、こう言った。
「いってらっしゃい」
投稿できていましたか?
もう・・・疲れたよ。
次は、いつ投稿できるかわからいませんが、1週間以内には何とか・・・




