第二章 転生・彼編 再起
生き生きしてるキャラがいると、話が勝手に進みますなぁ。
予定? そんなものは最初からありませんよ HAHAHAHA
第11回 です。
よろしくお願いします。
満天の星。
メルニアには見慣れた星々も、転生者には感動すること請け合いだった。
月も前世よりも大きく感じる。
星が流れた。
だが、彼には今、それらを楽しむ余裕がなかった。
正しくは、彼らだったが。
ギャル天女に『天女候補』として、一緒に行かないかと言われたメルニアは、その代償について考えていた。
彼女は、故郷を愛している。
どこまでも広がる大草原も、仲間との暮らしも、そこに息づくすべてが、心の支えだった。
馬の嘶きも、土の匂いも、風の音も――すべてが、自分を育んだものだった。
天秤にかけるまでもない。
メルニアが天女候補として、天上へ昇り、これらが滅ぶくらいなら――。
「残ります……おにーさんの一部になります」
悲壮な覚悟――ではない。
不安がないといえば嘘になる、しかし、喜ばしいとすら思えた。
自身が原因――とは言え、こうすることで世界を滅亡から救えるのだ。
そして、消えてしまうのでもない。
彼の一部として生きていける。
彼は、個人的な復讐すら、瞬時に肯定してくれる相手なのだ。
転生直後、まだ何もわからなかった彼に、血を流させてしまった自分を、受け入れてくれた。
メルニアは、そのことに深く感謝している。
彼が苦悩していることを知っている。
人を殺めたこと。それ自体を後悔はしていないようだった。
けれど――その現実を、自分自身の中にすんなりと受け入れられずにいる。
一部とはいえ、魂を共有している。
だからこそ、彼の思考も感情も――メルニアにはわかっているのだ。
そして彼が、メルニアを……私のことを、どれほど案じているのかも。
こんなにも優しい彼と、ひとつになれるのなら。
それが、すでに終わった人生の『再起』だというのなら――。
比べるまでもなく、喜んで受け入れよう――彼との融合を。
まただ……またあの感覚。
ギャル天女と魂の目が合う――あの感覚だ。
心の奥の奥を覗いてくる。
嘘も、虚飾も通用しない。
上級転生審議官の肩書は伊達じゃない。
いろんな思いが、考えが、錯綜するなかで――彼女は、何を見ているのか。何を測っているのか。
今後の不安が無いといえば、嘘になる。
それに……目の前の、ギャル天女がめちゃくちゃ好みだということも、きっともうバレている。
メルにゃんとの融合には、申し訳なさも感じている。
あんな健気な子が、家族のためとはいえ、こんなおっさんと融合するなんて――嫌に決まってる。
でも、だれかと交代するという選択肢が示されないということは、たぶんこれが最善の道なのだろう。
天女様はこう見えて、俺たちのことを考えてくださっているに違いない。
――根拠なんてどこにもない。
でも、そう感じているんだ。魂の奥底で。
突然の衝撃に、ハッとする。
――叩かれた⁉
ギャル天女が頬を赤く染めて、睨むともつかない視線をこちらに向けている。
ばしん!ばしん!
痛くはないが、何度も何度も叩いてくる。
――あれ?これ照れてる?
真っ赤な顔して、涙なんか浮かべながら、振り上げた手を下ろせずにいる。
なんて――かわいいんだ。
ギャル天女の腕が振り下ろされた。
そこで、少女の中の、彼の意識は闇に落ちた。
その傍らで、メルニアは呆れてものも言えなかった。
メルニアとギャル天女の視線が、ふと交わる。
それは魂ではなく、ただの『目が合う』だった。
「……だって、あーしのこと……カワイイなんて言うから!」
そのセリフは、いかにも言い訳がましく、とても感情的だった。
メルニアは、故郷の姉たちが恋の詩をもらった、なんて話をしているのを、思い出していた。
――こんな顔も、出来るんだ。
あの『天女様』が、まるで初心な乙女のような顔をするものだから。
転生者の影響もあるのか、この『天女様』をかわいいと、思えてきたのだった。
「なんだ、かわいいじゃないか」
真っ赤な、照れたお顔で睨まれた。
その直後、メルニアの意識は――転生者と同じく、飛んできた拳によって闇に落ちたのだった。
頬の痛みと眩しさで目が覚める。
あの河原だ。
昨日は夜だったから……朝の河原を見て、単純に綺麗な所だと思った。
昨日は色々ありすぎて、疲れていたんだろう、いつの間にか寝てしまったようだ。
ご飯の炊ける、いい匂いがする。
辺りを見れば焚き火のそばで、ギャル天女が割烹着を着て鍋を混ぜているではないか。
ギャル天女をみて、何かを忘れてる気がするが、思い出せないということは大したことじゃないんだろう。
腹の虫が鳴った。
漂ってくる美味しそうな匂いに堪らなくなった少女は、痛む頬を押さえながらギャル天女の隣に座った。
「美味しそう……割烹着、似合いますね。かわいいです」
少女は鍋の中身、そしてギャル天女の順で感想を口にしたのだった。
「な!? おま!今でもあーしの事そんな目でみてんの!?昨日、記憶を消したはずなのに!?」
「え!?そりゃかわいいと思ってますけど!今、『記憶を消したって』言いました!?」
「うるさい!消させろっ!」
「やめて下さい!かわいいもんはかわいいんです!」
少女の頭を鷲掴みにしようと襲いかかるギャル天女。
それを両手で必死で防ぐ少女。
「ぐぎぎぎ……私の心を乱すお前が悪いんだし!大人しく消させろし!」
「あ“あ”っ!やめて!やめて下さい!ああ!いい匂いがする!」
気がつけば、密着状態だった。
匂いだけじゃない。肌に伝わる温もり、吐息、心臓の鼓動――
あらゆる感覚が少女の理性を溶かしていく。
少女は、だらしなく緩みきった顔をしていた。
「ばっ、ばか! 変態!」
真っ赤な顔で胸元を押さえ、ギャル天女はしゅんと飛び退いた。
それは、仲の良い姉妹のじゃれ合いにも見えたし――
少女がギャルを口説いているようにも見えた。
肩で息をするギャル天女と赤毛の少女。
「これだから……理の外にいる者は厄介なのよ!」
そう言って鍋の傍へ戻ると、鍋を混ぜ始めた。
「前世では……言っておけばよかったと、後悔が多すぎたので、今生は言うことにしたんです」
鍋の傍、それでもギャル天女に気を遣ってか、少し距離を空けて座る。
鍋をよそった椀を突き出して「……もっと近くへ来なさいよ。渡しにくいでしょ!」
近くへ寄って椀を受け取り「いただきます」と言って口をつけた。
「美味しいっ!え!?めちゃくちゃ美味しい!」
それはひと口すするたびに、心も体も、じんわりと温まっていく。
七味がピリリと効いた、滋味あふれる豚汁だった。
「はいはい――いっぱいあるからたくさん食べなさいよね」
溢れんばかりの笑みでそう言って、豚汁がたっぷり入った椀を差し出した。
少女の中でメラニアはボソッと一言つぶやいた。
「……やっぱり可愛いんだよなぁ」
昨日の事が、まるで嘘のように……平和な朝だった。
いかがでしたでしょうか。
お楽しみいただけたなら幸いです。




