006 『平原にて笑う魔花の名は』
初手王都探索とかせずボスエリアに直行する小説があるらしい。練習中だから仕方ない(くそみたいな言い訳
――《隔ての地のバイザール》
かつて、私たちが今現在いる国。フィーディア王国で、王都の次に栄えていたと言われる『東都』と言われる場所に出没する、所謂ゲーム的な表現をすれば守護者と言われる存在である。
――曰く。その怪物は一夜にして『東都』を氷淵の獄牢へと貶めたと。
――曰く、その容貌は誰も見れず、実在するかも知れぬ不可知の存在だと。
『東都』へは近づくな。あれは、人智が御せるような存在ではないのだ―――
――というのが、《勇者》ジョブや《魔法使い》ジョブが王族や宮廷魔法師団から聞いた情報と、その他大勢のNPCの皆さんから聞いた『東都』及び《隔ての地のバイザール》に関する情報の数々である。
そしてここからは、先程まで書き連ねてきた情報をしっかりと読み込んでなお、『東都』へと向かい死んでいたバカ・アホ・マヌケの、体験談こと遺言である。
――曰く、『氷淵の獄牢』というだけあって耐寒装備なしでは余裕で死ねると。
――曰く、《隔てのバイザール》の見た目は如何にもな「龍」だということ。あと見惚れてたら氷柱でグサー!されて死んだと。
『東都』へは近づくな。あれは人智が御せるような存在ではないのだ―――
以上が、《隔ての地のバイザール》被害者の会の反応である。
「で、アンタ達も挑んできたんでしょ?感想聞かせてよ」
「私より再生力高いのはズルだと思う」
「爆破が耐性があってぇ……吹雪の中だと火力も足りなくてぇ……」
「蓄魔力のエネルギーまでパクられたら私には無理かなー!」
三者三様の回答が返され、やっぱり各々単独突貫かましてやがったと予想通りの行動に、もはや呆れを通り越し笑いが込み上げてくる。
「……教訓の、意味は、どこ行ったんだ……ッ」
「天国」
「トマト菜園」
「宇宙」
笑いを堪えながら感想を問いただせば、返ってきたのは散々な評価ばかり。
「ぶばッ」
ダメだ笑い死ぬッ!
私の全く可愛くないゲラ笑いが馬車内に響き渡り、それが更には壁を通り越し、のどかな平原へと漏れ出ていく。
現在、私達は『東都』へと繋がる道……というか平原。『フィーディア大草原・東』というバカみたいに安直で分かりやすい場所を横断していた。
その経緯はこうである。
ヴェリィが目的地とその情報について語った後。最後に移動手段に対して言及した際。
『移動?もちろん徒歩でしょ!』
と言った瞬間。先ほどまで殺し合いをしてたとは思えない連携力でアルとトメィトゥが私を馬車へとぶち込み、今へと至る。
割と私の扱いが雑な気がするのは秘密である。
「ひひひ……はぁ……で、私をそんな物騒な《隔ての地のバイザール》の初討伐チャレンジに誘ったのは、一体どういうことなの?」
「そこは今から説明するところだよ」
「全くせっかちなんだからさ」とヴェリィは呆れたように肩を竦める。
「カンナちゃんを誘った理由は……「常にヘイトを稼いで、適度に味方のカバーもできる回避盾」が欲しかったからだよ」
「え?まじで言ってる?」
おいおい。こちとらレベル0だそ。そんな初見ボス狩りなんて、いくは何でもこんな初期装備でできる訳ないだろう。
「いやまあカンナちゃんなら行けるかなって」
「私、今回別に回避性能ガン振りって訳でもないんだが?」
「《身代わりの術》なんていう超操作難なスキルを使いこなせてるんだから大丈夫でしょ」
「代償割と重いんだって」
消費する丸太が特殊なせいで高額な上に、確率で四肢のどれかが一定時間機能不全になるという呪いもあるんだ。できれば気軽に切りたくない札である。
「カンナちゃんなら何とかなるって」
「その無尽蔵の信頼は何なの??」
「日頃の行い」
「改めるべきだなこりゃ……はいはいちゃんとやりますって!」
「危ない危ない。断れられなくてほんとよかった」
「流石に誘われてわざわざ来たのに逃げないって」
安心したように笑うヴェリィに、どんだけ不義理だと思ってるんだと文句を垂れる。そこ、連絡よこさなかったのは不義理じゃねとか言うな。
だけど厄介だぞ。
割とこのゲームは死んでパターンを覚えるタイプのゲームなのだ。それを初見で捌いてくれっては中々に骨が折れるものだ。
「しかもレベル0のこの状態だしなぁ」
できれば初心者エリア……今ならこの平原にいるであろう敵mobを討伐しておきたいなぁと、思考が回る。
流石に階層守護者相手に回避盾を演じるだけの技量はまだ搾り取れば残っているが、いかんせんステータスの性能差には勝てん。
予定を崩して先にボスこの平原のボス倒しに行きたいって提案しようかな――
そうボンヤリと思考する。
「よし!ならいまからレベル上げしよっか!」
してしまったからこそ。トメィトゥの突然の行動に反応が遅れてしまった。
トメィトゥが言葉を口にすると同時に、彼女の身体から垂れた蔓が―――奇怪な花へと変貌を遂げる。
その花は彼女のような淡い赤ではなく、真紅により似通った濃い赤だった。
「ん?まてトメト。それ絶対やばいやつ―――」
明らかなに異常な花。だが時は既に遅く。
異質な匂いが馬車から溢れ出した。
「……ッ!?おまっ―――それッ!」
その匂いで気づく。トメトが何を作り出し、何をしようとしているのかを。
この花の名前は《魔香に黄昏る真花》。名の通り、魔香を放つ本来は黄昏時にしか現れない貴重な花だ。
たが今はそれは重要ではない。この花が持つ特性、特に問題は二つ目の効果だ。
一つ目の効果は『モンスターの興奮化』。
そして二つ目は―――『モンスターの強制誘引』である。
つまり、この花があるだけて、周囲のモンスターは凶暴になり、そのモンスターがフィールド中から集まってくるわけだが。
それが今、ここに咲いている。
「全員戦闘準備ィ!馬車は捨てて!!」
「貴方はまた……ッ!」
「いまはそんなこと言ってる場合じゃなぁい!!」
「――さぁ、モンスタートレインの時間だよぉ!!」
悦楽を好むもう一つの魔花は、笑っていた。
寝ないと効率がおちるってマジなんですね(当たり前かのような遅刻)