005 『集合完了』
はいアウト٩( ᐛ )و
自分の誕生日で、忙しくなるの、忘れてたよ(辞世の句
銀髪の天使が、より一層近づいてくる。
「カンナちゃん寂しかったよぉぉぉぉぉぉおおおおお!!」
「分かった分かったからァ!暑苦しいから離れてホントに頼みますからってマジでぇ!?」
叫びと共に抱き着く力が徐々に、いや一瞬にして強まり私の身体を潰さんと襲い掛かって来た。
できれば今すぐにも振りほどきたいが、生憎とあちらは既に廃人化してるであろうプレイヤー。圧倒的にステータスが足りない。
それに。
「半年も音信不通とかホントに心配したんだよぉぉぉぉおお!!!」
「そ、それに関しては申し訳なくぅ……」
精神的にも、暫くは抱かれていいかなと思う心持であるからにして。
音信不通といっても、入試に気合をいれて挑もうとし半年ほどスマホや諸々のコンソールの類を、親の実家のほうに配送して貰っただけなのだが。
それを知らせずに、送り付けてしまえば後の祭り。
連絡を忘れていたと気づいたのは入試本番二週間前と言った、ある程度の復習を終え、後は不安な部分を潰していく直前といった時期であった。
流石に不義理と考え、速達便で爆速で届けて貰ったのが一週間前。
つまり、今から一週間前と同義ということ。
割と深い間柄―――といっても現実の連絡先を交換し合ってる程度の仲だが―――だった廃人達こといつものメンバーには、心配してくれた面々も居たわけで。
その筆頭こそが、今抱き着いているアルというわけである。
「うぅぅぅううぅぅぅ……」
「………ごめんてぇ」
これも心労料か……と諦め、いや最低限の抵抗へと現在は収めているのだ。
そして、この内情を相変わらずの謎センサーで察し、ヴェリィが傍観してるのも当然なのである。
でも目線も向けないで自分の愛銃の手入れに入るのは違うと思うだぁ!!
突如工房を召喚したかと思えば、本格的に改造をし始めたヴェリィの心の中で文句を垂れる。
と、その時。
「こんにちは……いやこんばんはかな?久しぶりだね、カンナっ!」
気配も音もなく、それどころか姿形すら見えなかった人影が、突如して現れた。
だが現れた人影……いや、《寄生植物》の影には、酷く見覚えがあった。
「……!トメト、いつからいたの!?」
「うーんアルがカンナに抱きついた頃からかなぁ」
彼女のPNは"トメィトゥ"。
名前からも分かる通り、トマトが大好きなプレイヤーであり、前作では一時期本気で世界をトマトで埋め尽くそうとした、はっきりいうとヤベェお方である。
ん
だけど、一番おかしいのは。
「ほらアルぅ。こんなに強く締めたらカンナちゃんそろそろHP尽きて死んじゃうから離れなさーい」
「うぇぇぇええええ」
「全く。珍しく売った喧嘩を買ったと思ったらこれだから……カンナ、迷惑かけてごめんねぇ」
普段は割とマトモ側の人間であるため、廃人達の中では私を含め信頼を置かれているのが、非常に調子が狂うのがこの人の悪いところだであるということ。
一度はゲーム内で敵対したこともあるというのに、ホントに不思議なものだ。
淡い赤髪にインナーカラーのライトグリーンが見え、身体中から植物を生やし、その蔓や花を存分に振るわせ、私に無遠慮に抱きついていたアルに対し、ガミガミと説教を述べる彼女を見つめながら、そう考えたのだった。
と、私が謎に昔に想いを馳せていると。
――パァン!
強く手を鳴らす音が一つ。視線を向ければ、工房を仕舞いこの場を仕切るリーダーとなったヴェリィが佇んでいた。
「はいはーい。そろそろいいかなぁ?時間も押してるし、今日の目的について話したいんだけど」
「おいす!」
「うぅ……分かった」
「いいよぉ」
場の空気を変えたヴェリィに、私たちはすぐさま気持ちを切り替え、真面目モードへと入る。
私たちの顔つきを見たヴェリィは満足そうに頷くと、おもむろに口を開いた。
「今日ここに集まって貰ったのは、何もカンナちゃん復活記念っていう訳でもないのは流石に分かると思う」
「まあ私含めて四人しかいない時点でお察しではあった」
「そもそも皆が集まれるような時間じゃないからなぁ」
ヴェリィの言葉に私が薄々感じていた事実を口にし、トメトがそれに足りない言葉を付け足す。アルはまだ落ち着いてないらしく大人しく傍観していた。
「じゃあ今日の目的を発表するよ~」
そんな私たちにヴェリィは不敵にニヤリと笑うと、さも当たり前かのように、こう言ったのだった。
「今日はこの階層の東に位置する『東都』の守護者―――《隔ての地のバイザール》。ヤツの討伐に向かうよ」
安心してくれ一日遅れたからってやらねえわけがね!
今日も更新する。
(しれっと目的地とその方向を変えたアホゥ)