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どうも、木⋯⋯の妖精です。  作者: 夏巻き
蜂蜜片手に笑うは骸
87/92

生クリーム有り無しで変わるスイーツ。

「それ凍らせるやつじゃなかったんだ」


サキドリ緑さんが私の手元を(のぞ)き込む。

冷凍庫から出した牛乳プリンの一部がシャーベット状に。レシピには冷凍庫で一時間と書いてあったのに、なぜか凍ってしまっていた。


「プリンなんで、凍っちゃうのはちょっと⋯。冷凍庫でも大丈夫って書いてあったんですけどね」


「冷凍庫に入れてたからアイス作ってるのかと思ってた。卵使わないプリンってあるんだね」


一時間も経たずに凍ってしまったことを不思議に思いレシピを頭から読み直す。

するとどうだろう。米印()で冷凍庫で冷やし固める場合三十分経過後、5分おきくらいにこまめに状態を確認すること。との記載があるじゃないですか。

調理手順の文字よりは幾分(いくぶん)か小さいが、読めないほど小さいわけじゃない。単純な見落としだ。


「どうした?」


少し肩を落としたのを見逃さない彼女は口を開く。


「反省です。一文を見逃したことによってちょっと凍ってしまったので。自分が食べるものならまだしもお礼で渡すものなので、失敗したくなかったなと」


「失敗?凍ってるの一部でしょ?全然失敗じゃないよ。逆に他の部分と食感違って、シャーベットみたいで美味しいんじゃない?」


「そうですかね」


「そうだと思うよ。ちなみにだけど、それって何プリンって言うの?プリンって名前じゃないよね?」


「ええ、牛乳プリンという名前です。ミルクプリンとも呼ばれますね」


牛乳プリンはプリンと言いつつプリンじゃないプリンに似たスイーツ。普通のプリンとほぼ同じ材料を使用して作っているからなのか、それともプルプルしている見た目が近かったからそう呼ばれているのか。なぜプリンと同じ(くく)りなのか疑問()き。


「牛乳使ってるし、白いからその名前なのかな」


「命名理由は分かりませんけど、牛乳は普通のプリンにも使われていますよね。卵不使用の代わりに牛乳を多く使用しているから牛乳プリン。そういうことなのでは?」


「プリンって卵と牛乳を使って作るイメージがあると思うんだけど、実はその二つ使わなくてもプリンはできるらしいんだよ。それを踏まえると」


「踏まえると」


「ヴェステルの言う通り、卵不使用牛乳多めのプリンだから牛乳プリンと名付けたっていうのが正解なんじゃないかなと思う。逆だと卵プリンってことになるね。まあ結局のところ、最初の名付け親にしか理由は分からないんだけど」


「それは確かに」


冷凍庫から取り出した牛乳プリンの上に、熱の取れたみかんのソースをかける。

最後の工程が全て終わり、牛乳を使用したデザートが完成。薄い(だいだい)色と白色の二色の層が、白い陶器(とうき)の器の中でできあがっている。


「ちょっと凍っちゃいましたが、味は保証します。ナイフを貸してくれたお礼です。受け取っていただけますか⋯?」


自分用に作ったもう一個の牛乳プリンを味見してから、念力で浮かせ差し出す。


「ああ、ありがたくいただくよ。大事に食べる」


彼女はそれを受け取ると自身の魔法の袋(マジックサック)に仕舞う。

容器はそこの商店で購入したもの。料理ギルドの併設店らしく、ちょっとした器や調理道具も売っているのでそれを使用。なのでギルド所有のものを持ち出したなんてことにはなりません。


予定よりも少し早く完成したが、もう10時半過ぎ。確か昨日の別れ際、予定があるとか何とかってサキドリ緑さん言ってましたよね。時間は大丈夫なんでしょうか。


「そう言えば今日この後予定あるんですよね?時間は大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ。時間的に今から向かえばちょうどいい感じ」


サキドリ緑さんはそう言い魔法の袋(マジックサック)を肩に掛け直す。


「本当は一緒に食べたりしたいんだけど⋯」


「お気になさらず」


「悪いね。また今度ゆっくり話そうな。牛乳プリンありがとね」


「あ、そうだ。行く前にこれどうぞ。お裾分(すそわ)けです」


魔法の鞄(マジックバッグ)から袋に入ったそれを取り出して彼女に渡す。


「ん?魚?⋯あれ、もしかしてこれ」


「はい、パシフィックソーリーの切り身です。美味しいですよ。まだ足しか食べてませんけど」


「あ、ありがとう。後で食べるわ」


それから二言三言言葉を交わし、サキドリ緑さんは片手を上げそれじゃあまたと去っていった。





料理ギルドにポツンと一人。周りにギルドスタッフやプレイヤー、NPCはいるが知り合いはおらず、私は寂しくふわふわ浮かぶ。

サキドリ緑さんがいなくなったからか、話しかけたいオーラを(まと)った数人の視線を感じる。

⋯デザート食べて移動しよ。


キッチンの隣、飲食(イートイン)スペースにある空いている一つのテーブルへ。

自分用の食べかけ牛乳プリンを置いたら、小さいスプーンですくって一口パクリ。


「この甘さと苦味のバランス⋯とても良い」


プリンのような舌触りと(なめ)らかさ。濃厚な牛乳(ミルク)味を感じる素朴(そぼく)な甘さと、少し苦味のあるみかんのソースがベストマッチ。

これはいい評価が期待できるのでは?と、牛乳プリンに鑑定をかけてみる。



=====================

〘消費アイテム:みかんのソースがかかったパンナコッタ〙

★★★☆☆

パンナコッタの上にみかんのソースをかけたスイーツ。

甘みと苦味が絶妙なみかんのソースは、素朴な味わいのパンナコッタにピッタリ。

凍った部分があるのは初めて作った証。多少のミスはご愛嬌(あいきょう)

HP(体力)上限+1

VIT(耐久力)上限+7

・斬撃耐性(20秒)


作製者:腐血樹の妖精ヴェステル

=====================



「パンナコッタ⋯?」


目を(こす)り、もう一度鑑定をかけるが回答は変わらない。


「牛乳プリンのはずだけど⋯」


レシピには牛乳プリンの文字。しかしウィンドウに表示されるのはパンナコッタ。

何これ、バグ?


「いや、レシピの方が間違ってるのか」


AI(神様)が関わっているウィンドウに間違いなどあるはずがない。普通に考えれば、人が作ったレシピの方が間違っているはずだ。

そうだとすると、パンナコッタのレシピには牛乳プリンと記載され、名前の取り違いが発生している可能性がある。

後でレシピ売ってる人に知らせよう。


「食後のデザートは美味しいな」


今度作る時は冷蔵庫でやろう。そう心で思いながら口へと運ぶ。


「また会ったな妖精。隣いいか?」


パクリパクリと食べ進め残りわずかとなった時、右斜め後ろから声をかけられる。


「どうぞ⋯?」


他の席空いてるし、わざわざ隣に座らなくてもと思いつつ返事。また会ったなという言葉に横を見ると、椅子(いす)を引く男性プレイヤーの姿が目に映った。


「おや、いつぞやのスクランブルエッグの方」


「オムレツだ。どんな覚え方してんだよ」


彼とはハルーラ王国の首都、ネモルの街の料理ギルドで一度会っている。名前はゴンザレル・ゴンザレス。頭から角が二本生えてるし、多分種族は魔族。


「失礼しました。今日はイカ(すみ)パスタをお作りになったんですね」


「これ焦げただけ」


「⋯おゥ」

〘消費アイテム:みかんのソース〙

★★☆☆☆

妖精の森産みかんを砂糖と一緒に煮詰めて液体状にしたもの。

ドロッとしたジャムではなく、トロッとしたフルーツソース。

少し苦味が増し一際香るみかんの匂いと味は、甘味や他の料理のいいアクセントに。

HP(体力)上限+5

作製者:腐血樹の妖精ヴェステル


〘消費アイテム:パンナコッタ〙

★★☆☆☆

牛乳と砂糖と生クリームを混ぜ、ゼラチンを入れて冷やし固めたもの。

生クリームを加えたことで濃厚なコクと旨味(うまみ)がプラス。あっさりし過ぎず飽きのこない一品。

固める時間が長すぎ、少し凍ってシャーベット状になってしまった箇所がある。

牛乳プリン(ミルクプリン)に生クリームは入らないぞ妖精よ。(基本的には)

・斬撃耐性(30秒)

作製者:腐血樹の妖精ヴェステル


〘消費アイテム:パシフィックソーリーの切り身〙

★☆☆☆☆

パシフィックソーリーの胴体の半身。三枚おろしにした片方の身。頭と骨はなし。

ドロップアイテムだが親切にも、汚れないように丈夫なポリエステル製の袋の中に入っている。

袋には、デフォルメされたパシフィックソーリーがウィンクしている大きいシールが貼られている。可愛いでしょう?

見た目、味ともに普通の秋刀魚(さんま)である。

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