ステータス画面見れるのって、プレイヤーだけの特権ですか?
とはいえ今私にできることはと言えば、ワサワサと体を揺らすことだけ。
レベルが上がれば徘徊でも出来るようになるのかもしれない。
この草の体にレベルの概念があればの話ですが⋯。
その確認も含めて検証しつつ、探索者やこの世界で暮らす他のNPCがここに来る前までに何とか動けるようにはしておきたい。
でなければただの草として此度の生もすぐに終わってしまう。
第1生である人間としては28年しか生きられなかったので、第2の生はそれよりは生きたいと思う私です。
それと並行して考えなければならない事。
そう、心の有り様ですね。
何故か自分が死んだことをすんなりと受け入れてしまっている不思議と、未練だとか後悔だとかが湧いてこない不思議。これは何?
未練たらしくおいおいと泣くような性格ではなかったにせよ、死んだのではい次とスッパリ割り切れるそんな薄情な人間性はしていなかったはず。
せめて家族や友人に一言言いたかったなくらいのことは思いそうなものなのに。
「⋯⋯」
何でしょう。心は凪のまま。まるで空っぽのよう。
創り物の体だから?
疑問に思って体を再度ワサワサ。
うん、揺れる感じに土の温度湿度感触、人間の頃とあまり変わりないように思います。
心のセーフティー的なブロック機能か何か?
はぁ、この問題もいずれちゃんと知りたいものです。
この世界で生きる限り、そういった疑問も分かる日が来るのでしょう。何せこの体を持つ私が今の私なのですから。
現状ではいくら考えた所でこの凪いだ心は変わらなさそうですし、とりあえず何か目標を立てて前へ進んでみることにしましょうか。
「⋯⋯」
なんて言っておきながら、まだゲーム開始まで時間があることは知っているので、数秒無い胸でもそらしておきます。
なんと言ってもこの場所は、第8エリアと第9エリアの間に存在する隠しエリア、妖精の森。
思い出したあの雀もどきはそこでしか存在しないレイドモンスターなので、今いる場所を知ることが出来た。
それを知ることが出来たのは幸先いい。
という事で最初の目標は、あの雀に穴だらけにされないよう、周りにいくつも生えているどれかの木の近くに行くこと。これにしよう。
はいではズボッと根を持ち上げまして⋯。
あ、そうなりますよね⋯可哀想に。土の上にまた1本野ざらしの状態になってしまいました。
塵の積もっていきそうなこの行動でもレベルは上がるんでしょうかAIさん。
何かしていれば、あの頃使っていたアバターではない今の私でも進化なりはするのでしょうかAIさん。
「⋯⋯」
返答なし。ゲームをしていた時も返答はありませんでしたし、あまり期待はしていませんでしたけど。薄っすら今の私からの問いかけならばとも思いましたが。
一応設定上、神様としてキャラが存在していたはずですからね。
まあ、返答がないのなら仕方がない。レベル進化があると信じてトライ&エラーあるのみ。同じトライでエラーを出しましたが。
「⋯⋯」
おっと恥ずかしい。見られてしまいましたね。ああ、一応の確認だったんです。
レベルをあげるためにトライする前に、つい何か反応があるかと思って呟いてしまいました。
え?何かって、あれですよ。
こう言う時定番の「ステータスゥッ!」です。
はいでも残念、ステータスウィンドウ的なものは出ませんでした。
やはり口がないとダメなんですかね。
私多分根が口じゃないですか。あはは、物理的に話せなくね?
〘祈りの探索人〙
VR機器が一般家庭に普及し始めた初期頃に作られた幻のゲーム。
王道の王様から勇者認定されて旅に出るRPG系だが、レベルがなかなか上がらないバグと、敵の避け率の高さで心が折れる人が多かった。
なお開発した会社はこの重大なバグを放置。なぜなのかは不明。
タイトルからして興味を引かれる人が少なく、同時に購入する人も少なかった。
主人公は中学生の時にワゴンの中にあったセール品のこれを見つけて購入。
プレイした後に買ったことを後悔した。
「死んだらキャラデータ消滅って酷くない⋯?」