賢い魔法の鏡
「鏡よ、鏡。この世で最も美しいのは誰?」
女王様のいつもの日課の質問に鏡は少し間を空けてから呟いた。
「それは、私です。今貴方さまが見ている魔法の鏡です」
「何ですって?鏡の分際でそんな事許せないわ。今すぐ砕いて捨ててやるわ」
「お待ちください、女王様。何故、私が鏡である私自身が一番美しいと言ったと思いますか?それは私に映る自分の姿を見ている女王様が一番綺麗だからです」
「まあ、ごめんなさい。私ったら早とちりをしてしまったわ。じゃあ私は出かけてくるわ」
今日も機嫌良く出かける女王を鏡は見送る。
魔法の鏡は賢かった。鏡はわかっている、いつも真実が最善の選択ではないことに。もし、ここで白雪姫なんて言ったらあのヒステリックな婆さんが何をするかわからない。そのためちょっとした心理学的なテクニックを使いつつ女王の機嫌良くさせた。
しばらくすると髪のボサボサの小汚い掃除のおじさんがやってきた。
「魔法の鏡さん。あっしは以前、女王様のでっかいダイヤモンドを盗んで売ってしまいました。どうすればいいでしょうか」
見た目だけでなく心も汚いおじさんの質問に少し間を開け鏡は答える。
「何もしないでください。女王様はたくさんの宝石を持っていますので気付く可能性は少ないでしょう。それに気づかれたとしても貴方が疑われる可能性は低い。宝石好きのメイドたちが疑われるでしょう」
「そりゃ、良かった。失礼しました」
テンポの悪いスキップをしながらおじさんは出て行った。
魔法の鏡は賢かった。鏡はわかっている、いつも真実が最善の選択ではないことに。無くしたならこの城の中にあるが売ってしまったものはどうしようもない。それにあのおじさんは解決策が知りたかったのではなく、安心したかっただけだった。
しばらくすると見習いメイドがやって来る。
「あら魔法の鏡さま。また、指紋が残ってるわ。ここの掃除の方は何をしてるのかしら」
見習いメイドは熱心に鏡を拭き始める。あのおじさんは掃除が雑でありたまに見習いメイドが来た時に掃除してくれる。見習いメイドは丁寧な掃除を心掛けてくれてとても助かる。
「あら、ここも。きゃっ」
部屋の掃除に夢中になっていると見習いメイドは近くの足を奪われ中に舞う。見習いメイドの体が地に着くと同時に近くのテーブルも倒れる。ガラスの割れる音とともに悲惨な室内へと生まれ変わる。
これはまずい。テーブルの上にあった花瓶は女王の最も大切にしていたものだ。目立った傷はなさそうだが見習いメイドは気絶してるし、どうしたものか・・・。
「何事?きゃ、どういうことなの。鏡」
帰ってきた女王が悲惨な現状について鏡に問いかける。
少し間を開け鏡が答える。
「犯人は掃除のおじさんです。奴は女王様の宝石を盗んでいたのです。それをみつけた見習いメイドは取り押さえようとしてテーブルへ叩きつけられたのです。早く看病させましょう。見習いメイドの勇気をたたえ、メイドに昇格させこの部屋の掃除をしてもらうのはどうでしょうか。それと見習いメイドは頭をうち起きても混乱しているかもしれませんので起きたら変なことを言うかもしれませんからそれは無視してください。」
魔法の鏡は賢かった。鏡はわかっている、いつも真実が最善の選択ではないことに。その結果、先送りにした問題の解決と日ごろのお礼、日ごろの掃除の不満の解消。これからの清潔な生活のすべてを可能にした。
メイドがいるのにおじさんがいる矛盾は気にしないでください。
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