第二十一話 真夏の星条旗
私を処罰してくれても構わない。歴史は私に無罪を宣告するだろう。ーフィデル・カストロ
太陽の光と雲ひとつない空があって、それを眺めていられれば、幸せになれるの。どうして悲しくなれるというの?ーアンネ・フランク
私はこの国と皇室の未来に対し、それほどの悲観はしておりません。我が国は復興し、皇室はきっと護持されます。陛下は常に神をお祭りしていますからね。日本はかならず再建に成功します。ー鈴木貫太郎
さて、これまであまり述べることができなかったアメリカ情勢について述べたいと思う。現在のアメリカ大統領は、アルバン・W・バークリーである。昨年の秋にトルーマン大統領がフロリダにて暗殺されたため、副大統領であったバークリーが大統領に昇任した。ちなみに、2期連続で副大統領が大統領に昇格した事例は今回のみである。そして今は1952年の7月。11月には大統領選挙を控えているため、まもなく両党で大統領選挙に出馬する候補者を選出する全国大会が行われる予定となっている。
中国への弱腰外交や、朝鮮戦争での大敗はトルーマン大統領の支持率に大きな影響を及ぼしたが、大統領がバークリーに変わっても支持率の回復はほとんど見られなかった。共産主義への恐怖や、汚職の発覚などによりほとんど常に支持率は3割以下であった。またバークリーが74歳という老齢であることもあり、国民は強いリーダーシップを発揮する大統領を求めていた。
そして、ニューハンプシャー州予備選挙でバークリーはキーフォーヴァーに敗北を喫したことで、バークリーは大統領選挙に出馬することを諦めた。しかし、キーフォーヴァーが行った調査によって、マフィアと大都市の民主党政治組織の繋がりが暴露されており、北部や中西部の州知事、都市の市長などはキーフォーヴァーに好印象を抱いておらず、民主党候補に選出されるかは微妙であった。
間も無く、バークリーはイリノイ州知事であったアドレー・スティーブンソンを民主党の候補者として推薦した。演説が上手な雄弁家であり、知性に優れ、政治主張は中道と大統領になるには申し分なかった。
そして民主党全国大会にて3回の投票を経て、民主党からの大統領候補に選ばれたのはスティーブンソンであった。
一方、共和党では元軍人の二人が大きな支持を集めていた。連合国軍最高司令官であったマッカーサーとNATO軍の最高司令官であったアイゼンハワーである。両者共に大統領選挙に出馬するために、職を辞して臨んでいた。両者はトルーマン政権での外交と軍事の大きな失敗を指摘し、民主党の政権内には共産主義者のスパイが紛れ込んでいると激しく非難した。多くのアメリカ人は、原爆を開発したソ連や、国共内戦で勝利した中国、朝鮮戦争で瞬く間に韓国の軍隊を蹴散らした北朝鮮。これら東側諸国の脅威は、確実に大きくなっていると感じていた。となれば祖国のアメリカ、ひいては西側諸国を守ることができるのは、元軍人のマッカーサーとアイゼンハワーであると考えるのは至極当然であった。
しかし、マッカーサーを不運が襲う。7月1日、マッカーサーの喉にレンサ球菌が感染してしまったが判明した。しかし医者嫌いのマッカーサーは中々病院へ行かず、病状は悪化した。7月7日から始まった共和党全国大会までには熱は下がっていたものの、声が出にくくなっており、全国大会での演説は演説上手で知られるマッカーサーとは思えないほどだった。
最終的に、決選投票にてアイゼンハワーがマッカーサーに勝利し、大統領選挙に臨むことになった。
スティーブンソンとアイゼンハワーが争うことになった大統領選挙の本番は、4ヶ月後の11月である。どちらが勝利し、新たなアメリカの歴史を築き上げるのか。それはまだ誰にもわからない。




