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エゴイスティック・シンドローム  作者: 菖蒲
第1章 最初の夜
3/5

第2話 『強大な揺れ』

遅れました

「だぁー! 生きてる! 走馬灯見えたぞ一瞬!!」


僕、マンションの7階から落ちたのにピンピンしてる件について。


「状況をラノベのタイトル風に説明するなよ、不動君。 ほら、さっさと起き上がりたまえ」


平然としている上方の手を取って立ち上がる。 当たり前だが、高所からの落下なんて初めて経験したもんだから、未だに足の震えが止まらない。


「...なんで助かったんだ?」


「それは後だ、今は目の前の事態に対処するべきだよ不動君」


そうだった、目下の問題はさっきのとてつもない地震だ。


案の定と言うべきか、地上は大惨事で、倒れている人も何人か見受けられた。


「だ、大丈夫ですか!?」


慌てて駆け寄るが、そこで再び揺れが僕を襲う。


「また!?」


「落ち着け不動君、幸い周りに障害物はない。 倒れている奴らはそのままの方が安全だ」


「だからなんでお前はそんなに冷静なんだよ!」


しゃがみ込み、頭を手で守りながら叫ぶ。 というか揺れが強すぎる、日本が地震大国だとは知っていたけど、こんなのが何回も来るとか溜まったもんじゃない!


「何とかしないと...!」


遠くから悲鳴が聞こえる。 ここに倒れていない人たちは全員避難したのだろうか。


「赤田さんも心配なんだよな、大丈夫かあの人」


「人の心配をしている場合か不動君。 ()()()


「あ? 来るって何が...」


反射的に聞き返した僕だったが、目の前で動いた影を見て息を呑む。


「こ、この揺れの中で動いてるやつがいるんだが...!?」


「私だって動いてるけどな」


「怪物どもが!!」


影は次第にこちらに近づいてくる。 気のせいか、段々と揺れが大きくなっているような気もする。


「気をつけろ、不動君」


気をつけろって言っても、揺れのせいで動けないこの状況で何をどうすれば!?


と、その時だった。


「驚いた、この揺れで動ける奴いたのか」


「!?」


突如として聞こえてきた第三者の声。 その声の主は、やはりこちらへと歩みを進める影だ。


「だ、誰だ!?」


「不動君落ち着け、深呼吸だ」


この状況で落ち着けるわけもない(それはそれとして深呼吸はしたけれど)。 動けないせいで手持ち無沙汰な僕は、影を注視する。


当たり前だが、人だ。 シルエット的に体型は中肉中背、男か?


それにしても、やっぱりだんだん揺れが大きくなっている気がする。 目の前の影と僕らとの距離に反比例するように揺れは大きく___________。


「なんだ、女かよ」


影は、ついに僕たちと対峙した。


「そこで蓑虫みたいに這いつくばってんのは男か、普通逆だろ」


僕を誹る言葉とともに姿を現したのは、大学生くらいの男だった。 髪を金に染め、ピアス、ネックレスと、チャラ男ですと言わんばかりの出立ちだ。 それでも軽々しい雰囲気がないのは、男の纏う重苦しいプレッシャー故か。


「おっとジェンダー差別かい? このくらい情けない男がいても、私はいいと思うがな」


「フォローありがとう上方、だが僕の心は傷ついた」


なぜ一度に2回罵倒されたんだ、僕は。


しかし僕が情けないのは周知(羞恥?)の事実なので、何も反論はできない。


僕が今できることと言えば、それは...。


「上方さん、そんな奴やっちゃってください!」


情けなく上方を応援することくらいだ。


が、そんな僕の応援すら上方 敷紙は打ち砕く。


「何を言ってるんだい、私はやらないよ」


「え? でもバトル展開だろ? それくらいは僕にだってわかるぞ」


「闘うのは君だよ」


「???」


なんて言った、こいつ?


思わず首を傾げる僕に、上方は追い討ちをかけるように、


「地震、起こしてるの彼だから、さっさとやらないと」


...それはもう何となく想像がついていたけれど。


そう考えればこいつが近づいてくるたびに揺れが増したのも説明つくしな。


「認めてやるよ、上方。 ここは、現実じゃない」


「今更だな。 説明はいるかい?」


「後でいい。 とにかく、こいつを何とかしないと地震が止まないんだろ?」


「分かったならさっさと立ったらどうだい? いつまで私のスカートを覗こうと頑張っているつもりだ」


「覗いてねぇわ!!」


なんだこいつ! 誰がお前のローアングルなんて狙うか! 僕だ!!


いつのまにか揺れはおさまっていたので、僕は完全防御状態をやめて立ち上がった。


「おい、茶番は終わったか?」


男は僕が状況を飲み込むのを待っていたのだろうか、ついに口を開いた。


「正直、俺はこの揺れの中で動けてる奴がいたから来ただけで、お前と戦う気は無いんだが」


「僕だって戦いたくない、マジで」


「ほんとに嫌そうな顔するじゃん」


「でも、地震は止めないと」


男は一瞬惚けた顔をした。 が、それも一瞬で、


「じゃ、止めてみろ」


「やっぱやめたいなぁ、上方さん! ほんとに手伝ってくれないんですか!」


「調子狂うからやめろそれ」


喧嘩したことないんだよな、僕。 手加減してくれないかなぁ。


とか半ば現実逃避的なことを考えていた僕だったが、男はそんなことはお構いなしに右足を踏み出した。


「ッ!?」


突如として襲い来る激しい揺れ。


(治ったと思ったらまたか! こいつが近くに来ることが地震のトリガーだと思ってたけど、もしかしてこれは...)


「まさか歩くたびに地震が起きるってんじゃないだろうな...!!」


「安心しろ、トリガーは右足だけだ」


揺れに必死で耐え、かろうじて座り込むことは回避する。


男が言ったことを信じるとするなら、チャンスは左足を踏み出した時、ということになるのかもしれないけど、この揺れの中で動くのは無理だ...!


「チッ、この揺れの中で立っていられるだけお前も普通じゃねぇな」


男はあっという間に距離を詰めてきた。 僕の目の前に立つと、足を上げ____。


(って蹴りのモーション!? 洒落になんねぇぞ!!)


そもそも、なんで上方はこの勝負を僕にやらせたんだ? 地震を起こすとかいうえげつない異能力の使い手に、僕が勝てるはずが...。


「寝てろ、蓑虫」


うだうだと考えているうちに蹴りの準備は完全に整えられていた。


足が、尖った靴の先端が真っ直ぐに僕の腹へと吸い込まれ___。


(あっ死んだ)


鈍い音が辺りに響き渡った。


「...あ? どうなってやがる」


困惑を見せたのは、攻撃を仕掛けていた筈のチャラ男だった。


「がっ...はぁ、はぁ...。 死ぬ...これはマジで死ぬ...」


一方僕は、腹を蹴られた痛みと吐き気でのたうち回ることもできずに苦しんでいた。 父さんにも蹴られたことないのに...!


(それにしてもキツいとは言え、至って普通の蹴り...? 何発も貰ったら流石に死ぬけど、これならまだいける...)


「俺の蹴り、ビル倒壊させたんだけどなぁ」


「なんてものを人に放ってんだ!」


「はっ、なにいい子ぶってんだよ。 テメェだってどうせ()()()だろうが」


能力者、という言葉に一瞬体が強張る。


当たり前だけど、この男は自分の能力のことを理解しているらしい。


(『テメェだってどうせ能力者』、か...。 そうか、考えてもみなかったけど、僕にも何らかの能力を使える可能性があるのか)


となると、上方が僕に戦闘を行わせている理由はそれ絡みだろう。


ヒントを求めてちらっと上方を見るが、彼女は早く終わらせろ、と言わんばかりに大きな欠伸をしていた。


(呑気すぎるだろ...)


しくしくと痛む腹を抱え、僕は体勢を整える。 上方も力を貸す気はないようだし、ここは僕一人でどうにかするしかない。


「まだやる気か?」


(揺れは治った...。 あとはこいつが右足を踏み出す前に勝負をかける...!!)


僕は右の拳を握り、男に飛びかかった。


「無駄」


「がぁッ!!」


だが突き出した拳は虚しく宙を切り、男の靴の先端が再び僕の腹を貫いた。


たまらず地面に転がる。


「チッ、やっぱ蹴りがイマイチだな」


男は追撃の手を緩めようとしない。 吹っ飛ばされた僕の方へと再び歩みを進めてくる。


(また揺れ...! 不味い、倒れた状態からだと立ち上がれない!!)


男が右足を前に出すたびに、僕の脳が揺さぶられる。 体勢を立て直そうとしても、揺れが強すぎて立ち上がることすらままならない。


「今度こそ終わりだ」


男が足を構える。 3回目の、蹴りのモーション。


「待っ」


静止の言葉も虚しく、靴の先端は僕の腹へと吸い込まれ_____。


パァン、と小気味の良い音が辺りに響き渡った。


「なに...?」


「...あっぶねぇ...」


靴が僕の腹を抉ることはなかった。 男の蹴りを、寸前のところでガードできたのだ。


「性格の悪い奴で逆に助かったぜ、腹ばっか狙いやがって...」


ガードが成功したのは、能力が土壇場で発動したからとか、そういうご都合主義的な理由ではない。


ただ単に、さっき2回とも腹を狙ってきたから腕でガードしただけ。 ぶっちゃけ偶然だ。


「そういう問題じゃないだろうが...。 なぜてめぇは俺の蹴りを3回受けてもくたばんねぇんだよ!!」


「僕だって知るかよ!」


怒鳴りに怒鳴りで返し、僕は男の右足を掴む。


「ようやく、捕まえたぞ」


「しまっ」


男が焦燥の表情を見せるが、もう遅い。


「吹き飛べ!!!」


フルスイング。 僕は男を思いっきり投げ飛ばした。














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