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狂い昔話

【狂い昔話】この桃太郎、なんか変だぞ!

作者: 七宝

【警告】なかなか不道徳なお話です。ご注意下さい。

 むかしむかしあるところに、桃太郎がいました。それはそれは強く、国内に敵は居ないほどでした。


 ある日桃太郎が川で洗濯をしていると、川上からおじいさんだった物とおばあさんが流れてきました。桃太郎はおばあさんを家来にしようと思い、川から拾い上げ家に持ち帰りました。おじいさんだった物は臭かったのでそのまま流しました。臭いものを流すのは人間の(さが)ですからね。


 桃太郎はさっそくおばあさんを包丁で割ってみました。すると、中からかわいい男の子が出てきました。桃太郎はこの子を『おじいさん』と名付けました。


「国内の敵はつまんないし、鬼ヶ島にでも行ってみっか」


 そう言って桃太郎はおじいさんを連れて家を出ました。2人はしりとりをしながら林の中を歩いています。微笑ましい親子ですね。


「アゼルバイジャン」

「ンジャメナ!」

「ナン」

「ンチャイ村!」

「雷雲」

「桃太郎さん、『ン』攻めパネェっす! んー、どうしよっかなぁ」

「しりとり以外の発言は許可してねぇだろうが。2度と喋んな」


 なんでもないようなことが幸せだったと思う、とはこのことですね。普段何気なくしているしりとりも、大人になると大事な思い出になるのです。


 しばらくして、桃太郎は琵琶法師に出会いました。桃太郎は驚いたと同時に、ニヤリと笑いました。この国の人間は桃太郎がすでに全員殺してあるので、桃太郎は琵琶法師がこの国の人間ではないことに気がついたのです。


 たった1人でこの国に住んでいる桃太郎はもはや国王同然で、この国のルールを1人で決めています。そのうちの1つに、『この国に外国人が侵入した場合、その者をメモ帳代わりに使ってもよい』というものがあります。


 桃太郎はメモと下ネタでメモ帳を埋めつくしました。ただ、耳だけ書きにくかったようで、ここだけ白紙です。まあ非常用にでも残しておくとよいでしょう。桃太郎が腕力にものを言わせたおかげで、メモ帳とおじいさんは驚くほどに忠実です。


「桃太郎さんパネェっす!」

「桃太郎さんマジかっけぇっス!」


 夜になると、メモ帳は「呼ばれたんで!」と言って茂みの方へ向かいました。


「お前、目が見えないのにどこに行こうっていうんだ」


 桃太郎はメモ帳に聞きました。


「いつもこの人達が案内してくれるんですよ! じゃあ、行ってきまーす!」


 しかし、メモ帳の近くには誰もいません。桃太郎は不審に思いましたが、家来の事情にあまり踏み込むものではないと思い、そのまま鬼ヶ島へ向かいました。


『ちんちん、ちんちん』


 どこからか琵琶の音が聞こえてきます。メモ帳がどこかで演奏しているようです。気になった桃太郎は、音のする方へ向かいました。


 メモ帳を見つけた桃太郎は自分の目を疑いました。そこには耳がちぎれ、大量の血を流しながら琵琶を演奏するメモ帳がいました。しかも、周りをよく見るとここはお墓ではありませんか。


「ちょうどいい」


 お墓には金目のものがあります。桃太郎はおじいさんに墓を掘り返させました。霊園のすべての墓を荒らした桃太郎はいくつかの金品を手に入れ、メモ帳を連れ戻し、旅に戻りました。


 しばらく3人で歩いていると、前からかんぴょう巻が歩いてきました。桃太郎は激怒しました。


「お前、ハズレじゃねぇか!」


 桃太郎はかんぴょう巻が嫌いというわけではありませんが、好きかといわれるとそうでもない、なんとも微妙な立ち位置の食べ物なのです。


「失礼だなお前、オイラ高級品だぜ?」


 桃太郎は高級品とのことなので仲間入りを許可しましたが、かんぴょう巻に「お前」と言われたことがずっと引っかかっているようです。


 最後尾を歩いているおじいさんはヨダレをだらだら垂らしながらかんぴょう巻をじっと見ています。


「ハァハァハァハァ」


 だんだんとおじいさんの息が荒くなっていきます。まるでターゲットの家に干してある下着を見つけたストーカーのようです。


「もう我慢出来ねぇ!」


 そう言うとおじいさんはかんぴょう巻の首を両手で掴み、ぐっと力を込めました。かんぴょう巻の顔はみるみるうちに青くなり、やがて死んでしまいました。桃太郎はまだ気付いていません。


「ムシャムシャ、たまんねぇ! これ()めらんねぇよ!」


 一心不乱にかんぴょう巻を頬張るおじいさん。1時間ほど食べ進めた頃、彼に異変が起きました。


「うぐっ! ⋯⋯うっ!」


 おじいさんは苦しそうに自分の胸のあたりを叩いています。どうやらかんぴょう巻を喉に詰まらせてしまったようですね。

 

「すんません桃太郎さん、早退します」


 そう言っておじいさんは帰ってしまいました。かんぴょう巻も食べられてしまったので、鬼ヶ島へ向かっているのは桃太郎とメモ帳の2人だけです。


「あいつら使えねぇな」

「ホントっすね! 桃太郎さんパネェっす!」

「あ?」


 話の通じないメモ帳に桃太郎はイライラを隠せない様子です。しかし、メモ帳まで失ったら1人で鬼ヶ島へ行かなければなりません。1人だと道中暇なので、出来るだけ2人以上で行動したいのです。


 奇襲に備えてメモ帳を盾にしながら歩いていた桃太郎は、メモ帳の後頭部にあるメモ書きを見てハッとしました。


『DVD返すこと』


 返却期限が今日までのDVDがあったのです。このまま鬼ヶ島へ行くと延滞料金が発生する可能性が高いので、桃太郎は離脱することにしました。


「じゃあ頼むぞ」


 桃太郎はメモ帳の肩をポンと叩き、彼に後を託しました。メモ帳は焦りました。自分1人で鬼ヶ島の鬼たちに勝てるはずがありません。良くて惨殺、悪くて消滅といったところでしょう。


「桃太郎さん、さすがにそれは⋯⋯」

「口ごたえするのか」

「でも、殺されちゃいます⋯⋯」

「俺と鬼、どっちが怖いんだ?」

「行ってきます」


 こうしてメモ帳は1人で鬼ヶ島へ向かうこととなりました。やはり1人では寂しいので、琵琶を演奏しながら歩いて行きます。目が見えないのでゆっくりと、ゆっくりと歩きます。耳がちぎれたところの血が固まってきました。目も耳ももう使い物になりません。


 ついに鬼ヶ島の前までやってきたメモ帳は、お経を唱えて心を落ち着かせました。メモ帳は僧侶でもあるので、こういう時はいつもこうしているのです。


「頼もう!」


 覚悟を決めたメモ帳は正々堂々と鬼ヶ島へ上陸しました。メモ帳の声を聞いた鬼たちが皆こちらを見ています。おや、なにか食べています。食事中のようですね、人間でも食べているのでしょうか。


「お前たちの悪行もここまでだ! 覚悟!」


 威勢よく琵琶を構えるメモ帳。鬼たちは変わらず彼を見ています。


「あの、今日安息日なんでやめてもらえますか」


 鬼の1人が言いました。そう、キリスト教徒である鬼たちにとって今日は安息日。戦うわけにはいかないのです。


 鬼たちと一緒にご飯を食べたメモ帳は、その後鬼に連れられ教会へ行き、キリスト教に染まりましたとさ。めでたしめでたし。

途中で出てきた「ちんちん」は琵琶のオノマトペです。あ、ご存知でしたか! そうですよね、私が下ネタなんて書くはずがありませんもんね!

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