第5話 対話・Ⅱ
楽しんで頂ければ幸いです。
謎の怪物の群れに襲われていた少女を保護したエリック達。彼らは気を失っていた少女をベースキャンプへと移送。彼女に素手で触ってしまっていたため、念のためにエリックは彼女と共に隔離されてしまう。一方フィルは、分からない事だらけの現状に対し、彼女から情報を少しでも得ようと考えていた。しばらくして少女、シェリリンが目を覚まし、エリックが彼女との初めての接触を担うのだった。
少女、シェリリンが目覚めた後、日本語が話せないエリックと、英語が分からないシェリリンだったが、エリックの持っている翻訳アプリ搭載の端末もあって、会話は成立していた。
まずはエリックから、簡単に彼女に起きた出来事、彼女が気絶してからの事を説明していた。
「えっと、つまりエリックさんたちが私をゴブリンから助けて、気絶していた私をその、べーすきゃんぷ?という所に運んだ、という事ですね」
「あ、あぁ。大体そんな感じだ」
『ご、ゴブリンってなんだ?あの緑色の化け物たちの事、か?』
ゴブリンの事など微塵も知らないエリックは、若干引きつった笑みを浮かべながらも頷く。
「それで、ここは皆さんのお家、なのですか?なんだか、何もかもが見たことないような物ばかりで。もしかして、エリックさんたちは貴族の方たちなのですか?」
「貴族?」
『それって、確か大昔の地球の、支配階級を指す単語か何かだったよな?』
何とか昔聞いた話を思い出し、意味を理解するエリック。
「いやいや。俺も仲間も貴族じゃないよ?」
「え?そうなのですか?こんなにも摩訶不思議なお部屋なんて、平民の私には見たこともありませんでしたから、てっきり」
違う、と言って苦笑を浮かべるエリック。一方のシェリリンは、思っていた事と違ったために驚き、目を丸くしていた。
「平民?」
『えぇっと、確かそれって、貴族とは逆に、一般市民の事を指す言葉、だっけか?って待てよ?』
聞こえた単語を小さくつぶやき、再び記憶の引き出しの中から何とか情報を引き出すエリック。そして彼は、同時にとある仮説に行きついた。
『この子が貴族や平民って言葉を知ってるって事は?『そういう存在』がこの星にいるって事か?』
それが彼の思いついた仮説だった。しかし、どうやら彼のつぶやきはシェリリンにも聞こえていたようだ。
「あの、エリックさん?」
「はっ、な、何ですか?」
声をかけられ、ハッとなった彼はすぐに表情を取り繕う。
「その、もしかしてエリックさんは平民、ではないのですか?」
「え?」
なんでそんなことを聞かれるのだろう?と、質問の意図が分からず彼は首を傾げた。
「いえ。今エリックさんは、平民という言葉に首をかしげていたようでしたので」
「あ、あ~~」
質問された意味は分かった。が……。
『あ~~、え~~っと。これ、どうやって答えよう。一応、言葉の意味からして俺は平民、なのか?いやでも、新人とは言え俺も兵士だし、一般市民、じゃないよなぁ。まぁ、傭兵って身分くらいなら話しても問題ない、よな?』
「え~っと、なんて言ったら良いかな?シェリリンさんは、傭兵って分かります?」
「ようへい?って何ですか?」
おっかなびっくり、と言うような少し慎重な様子で問いかけるエリック。しかし肝心のシェリリンは傭兵という言葉の意味を知らなかった。
『えっ!?傭兵を知らない?』
「え~っと、傭兵っていうのは。依頼主からお金をもらって、その代わりとして大事なものを守りながら運んだり、人を護衛したり。時には敵と戦ったりする職業、って言えば分かりますか?」
エリック達の世界においてはもはや知らない者など居ない程にメジャーな職業でもある傭兵。それをシェリリンが知らない事に戸惑いながらも、彼は傭兵という仕事を出来るだけ噛み砕いて説明した。
「はい、なんとなくですが」
「それはよかった」
何とか伝わったか、と安堵の息を漏らすエリック。
「でも、聞いている限りだと冒険者にそっくりですね」
「ん?」
『冒険者?ってなんだ?』
そこに聞こえてきた、聞きなれない単語に彼は首を傾げた。
「あ、あの~。その、冒険者って何ですか?」
「え?冒険者を知らないんですかっ?」
首を傾げるエリックに、シェリリンはそこそこ驚いた様子だった。
「は、はい。ちょっと分からなくて。教えていただけると良いんですが……」
『この反応からして、冒険者って単語の意味はおおよその人間が知ってる感じか?名前からして、トレジャーハンター、なのか?』
エリックはシェリリンに問いかけながらも、内心では冒険者についての推察を行っていた。
「分かりました。え~っと、簡単に言いますと、冒険者の人たちは冒険者ギルド、という場所に登録して、ギルドから仕事をまわしてもらう人たちの事です」
シェリリンはエリックの言葉に頷くとギルドについての説明を始めた。
「ギルド、っていうのは?」
「え~っと、冒険者の人たちと依頼主さんを、繋ぐ所、ですかね?」
「成程」
『仲介業者、といった所か』と彼は内心納得しながら話を聞いていた。
「冒険者の人たちは、あちこちにある冒険者ギルドで張り出されてる依頼を受けて、これをこなすとギルドから報酬としてお金を貰うんです。これが冒険者ですけど、分かります?」
「あぁうん。分かるよ」
『依頼を受けて仕事して、成功したら金を貰う、か。傭兵と殆ど変わらないな』
彼は頭の中で、冒険者=傭兵と似たような者、と判断しながらシェリリンと会話を続けていた。
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一方、そのころ。フィルは自室で待機していた。すでに部下が持ってきた対NBC用の防護服も部屋の隅で吊り下げられている。彼は椅子に座り、目を閉じたままシェリリンとの対話内容を頭の中でシミュレートしていた。 と、その時。
『提督、お待たせしました』
通信機からオックスの声が聞こえてきた。
『ようやく彼女の検査結果が挙がってきました』
「そうか。それで?」
『彼女にはこれといった病原体や未知のウィルスは確認できませんでした。そのため、生身での接触も問題ないだろう、というのが検査を担当した兵たちの見解です』
「分かった。ならば防護服は必要ないな」
彼はそう言って静かに席を立ち、近くにあった姿見の前で服装を整える。
「あぁそれとオックス。一緒に収容されている兵の方はどうだ?」
『彼の方にもこれといった問題はありません。こちらも問題ない、との事でした。それと報告が遅れてしまいましたが、現在彼は覚醒した例の少女と、翻訳アプリを介して会話しています』
「そうか。それで?」
『念のため、こちらの機密に関わる事は話さないよう厳命してあるそうですが、如何されますか?』
「ふむ。ならばまず、彼から話を聞こう。そうすれば情報を聞き出す2度手間も省ける」
『分かりました。では、隔離室にそのことを伝えておきます。提督は……』
「無論、すぐに向かう。その旨を隔離室の管理室に伝えてくれ。10分とせずに着く、とな」
『かしこまりました』
その言葉を最後に通信が終了する。身だしなみを整えたフィルは、そのまま部屋を出て艦内を歩き、シェリリンがいる隔離室を目指して歩き出した。
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再び戻って隔離室内部。そこでエリックはシェリリンから色々と話――主に彼女の周囲の事――を聞き出していた。が……。
『エリック、エリック・フューラー』
「っと。なんだ?」
話をしていた最中だったが、スピーカーから名を呼ばれ彼は視線をそちらに向けた。
『今しがたお前とそこに居る女性の検査結果が出た。結果は両名とも問題なし。それと他の装備も洗浄済みだ。また、そこの彼女と話をしていたお前に、提督自ら話をしたいそうだ』
「えっ!?」
提督、つまりフィル直々に話がしたい、という言葉に彼は驚いていた。何しろ、フィルはこのFD艦隊、すなわち数万の兵士たちの頂点に立つ存在だ。まだまだ新兵であるエリックにとって、未だフィルは雲の上の存在に等しかった。そんなフィルから『会って話しあがる』、と聞けば驚き、戸惑うのも無理はなかった。
ちなみにだが、彼の傍にいたシェリリンは、アプリの翻訳がされていないため、スピーカーの声が何を言っているか分からず、ずっと首をかしげていた。
『扉を開けるから、一度出て着替えろ。その姿じゃ恰好もつかないだろ?もうすぐ提督が来る』
「わ、分かりましたっ!」
エリックはすぐさま座っていたベッドから立ち上がりドアの方へ向かおうとしたのだが……。
「あっ」
「っと」
そこで咄嗟にシェリリンが声を上げた事で、彼も足を止め一度シェリリンの傍まで戻る。
「すみません。俺たちのリーダーが呼んでいるようなので。少し席を外します。ここで待ってて下さい」
「そう、ですか。分かりました」
シェリリンは頷きながらも、どこか怯えた様子だった。
「す、すみませんっ!」
そんな彼女の姿を目にして、罪悪感を覚えたエリックは一度頭を下げると、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出て行った。
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旗艦、キングオブアーサーを出たフィルは真っすぐ隔離施設となっている仮説の建物へとやってきた。入口の扉を開け、中に入るフィル。
「っ!提督っ!お待ちしておりましたっ!」
彼が入ってくると、扉の近くで作業をしていた兵が気づいてすぐさま直立不動の敬礼を取った。更に彼に続く形でフィルに気づいた兵たちも同じように敬礼の姿勢を取る。その中には、ちょうどコンバットアーマーに着替え終わったエリックの姿もあった。
「皆ご苦労。私の事は気にしなくて構わないので、作業を続けてくれ」
「「「はっ!」」」
エリックの指示を受け、皆持ち場へと戻っていく。
「さて」
それを後目にフィルはエリックの元へと歩み寄る。肝心のエリックは、緊張した様子でヘルメットを小脇に抱えたまま敬礼の姿勢を取っていた。
「こうして面と向かって話すのは、私の記憶が正しければ初めてだったかな?」
「は、はいっ!」
「そうか。では、改めて名乗らせてもらうとしよう。フィルバート・マキシムだ」
「自分はっ、第1アサルトトルーパー隊所属っ、エリック・フューラーでありますっ!」
ガチガチに緊張したままの様子の彼に、フィルは優しく微笑みかけた。
「そう緊張する必要はないぞ、エリック。私は何も君を尋問するために来たのではない」
「は、はいっ」
フィルの優しい微笑みに、エリックも幾ばくかの緊張が和らいだ様子だ。ホッとするように少し息をつくエリック。
「さて、まずは腰を落ち着けて話すとしよう」
そう言ってフィルは部屋の隅にあった、折り畳み式の椅子を持ってくると周囲の邪魔にならない所に置き、エリックに片方へ座るよう促す。
「し、失礼しますっ!」
エリックが座るのを確認すると、フィルも椅子に腰を下ろした。
「それではさっそくだが本題に入ろう。エリック、君が隔離室の中で件の少女と翻訳アプリを介して会話していたのは聞いている。そこで、彼女とどんな会話をしたのかを教えてほしい。それも可能な限り、全て」
「わ、分かりましたっ」
それから、エリックはフィルにすべてを話した。
彼女の名前がシェリリンである事。翻訳アプリが翻訳した日本語でちゃんと会話が成立している事。彼女を襲っていた生物をゴブリンと呼んだ事。更に会話の中で、彼女が貴族や平民という単語を口にした事。シェリリンは傭兵という言葉の意味を知らず、代わりに似たような存在である冒険者を知っていた事。他には、彼女の住む『村』の様子などもエリックはフィルに伝えた。
「ふむ、成程」
すべてを聞き終えたフィルは静かに顎に手を当て真剣な様子で思案を始めた。
『傭兵という職を知らず、貴族に平民という太古の地球に存在した階級の示唆、か。それに……』
「エリック、確認なのだが。彼女は村について『みんなで農耕や狩りをしながら暮らしている』と話したのだな?」
「はい。彼女の話が本当なら、彼女くらいの歳の女性や大人たちは農業や狩りに従事し、それで日々の食糧を得ていると」
「そうか。では、金銭の獲得はどうしている?そのやり方では出来るのは自給自足程度だ。金を調達することは出来ないだろう?」
「それについては俺も気になったので話を聞くことが出来ました。なんでも、時折村に比較的近い町へと馬車で野菜や狩りで入手した動物の皮などを運んで、市場などに卸している、との事でした」
「馬車。馬という動物で引く貨物車両のような物だが、前時代的過ぎるな」
馬車という単語にフィルですら眉をひそめた。だが無理もない。宇宙航海が当たり前となった彼らの時代において、人の移動は電気式の車などが一般的だ。経験を積んできたフィルですら、本物の馬など目にしたことはない。せいぜい写真や動画で目にしたことがある程度だ。
「……考えれば考えるほど、妙だな」
「妙、ですか?」
「そうだ。車などの移動手段がない事を始め、農耕や狩猟をメインとした生活様式。我々の時代では考えられない生活様式だ。……これは、ますます彼女から話を聞くと共に、この星についての情報収集を続けなければならないだろう」
そういうとフィルは席を立った。
「彼女と話したい。エリック、君も同席してくれ」
「じ、自分もっ、でありますかっ!?」
彼にとって完全に予想外だった発言。それに戸惑い声を上げるエリック。
「そうだ。ここにいる人間のほぼ全員が彼女とは初対面だ。君を除いてね。そんな状況で緊張するなというのも無理だろう。そこで、エリックには彼女の傍にいてやってほしい。その方が彼女も安心するだろうからね」
「わ、分かりました。お供させていただきます」
少なからず緊張した様子で頷くエリック。
「よし、ではさっそく彼女と話をしに行くとしよう」
「はっ!」
エリックを連れ、フィルは隔離室の中へと足を踏み入れた。
「ッ!」
そして、二人が部屋に入ってくるなりシェリリンはフィルに気づいて驚いた様子だった。
「あ、あなた、は?」
怯えた様子で小さく震える彼女。それを前にしたフィルはエリックへと目くばせする。エリックはそれに気づいて小さく頷くと、端末の翻訳アプリを起動し彼女に歩み寄った。
「大丈夫。この人は俺たちの部隊のリーダー。一番偉い人なんだ」
「偉い、人?」
シェリリンは小首をかしげながらエリックを見つめ、次いで視線をフィルへと向ける。するとフィルは彼女と向かい合うように、エリックが使っていたベッドに腰を下ろした。
「まずは、自己紹介をさせてほしい。私は傭兵組織、フリーダムディビジョン艦隊総司令官。フィルバート・マキシムという者だ」
数多の人種が揃う艦隊を束ねる立場にあるだけあって、フィルは多少の訛りこそあるものの、問題なく日本語を話すことが出来た。しかし……。
「かんたい?そうしれいかん?」
肝心の彼女は聞きなれない単語に、大量の?を浮かべていた。
「えぇ。まぁ、ここにいるエリックや外に居る他の兵たちをまとめる、一番偉い人間と覚えて頂ければそれで構いません」
『艦隊や総司令官という単語に聞き覚えは無し、か。あるいはそういう風に演技をしているのか』
会話の端々からも、相手の情報を探るために考えながらもフィルは穏やかな表情で彼女と会話を続ける。
「は、はぁ。それで、その一番偉い人が、私に何かご用、ですか?」
「はい。実を申しますと、我々は今、自分たちがどこにいるのか全く分からない状況なのです」
「まったく、ですか?」
「えぇ。お恥ずかしい話ですが、訳あってこの辺りに流れ着いたばかりなもので。ですので、我々からあなたにお聞きしたい事が多々あるのですが、よろしいですか?」
「は、はい。えと、私に答えられる事なら」
その後、フィルはシェリリンから可能な限りの情報を聞き出した。
「では、質問はこれまでとなります。ありがとうございました、ミス・シェリリン」
「い、いえ。殆ど分からない事だらけで、お役に立てずすみません」
「そんなことはありません。大変有意義な情報を得る事が出来ました。ありがとうございます」
そう言ってにこやかな表情を浮かべながらフィルは小さく会釈をした。
「さて、ではお次はあなたに関してです。ミス・シェリリン」
「私、ですか?」
会話の流れが変わった事と自分に関する事、と聞いて彼女は小首をかしげた。
「はい。現時点であなたは我々の保護下にあります。必要とあれば私の部下数人を護衛に着けてあなたを、あなたの家族や友人の元に送り届ける事が可能です。が、現在の時間は午後6時を回ります」
「ごご、ろく、じ?」
フィルは一度手元の端末に目を向け、時間を確認してから話すが、肝心のシェリリンは首をかしげるばかりだ。
『明確な時間の概念も無いのか?どうなっているんだ?』
「すでに日が落ちつつある、という事ですよ」
内心、彼女について訝しみながらもフィルは平静を装う。
「今からですと、夜間の森林地帯を抜ける事になりますが。先ほどもお話しした通り我々はこの辺りの土地勘が全くありません。ですので、夜間の移動は危険を伴います。無論、少しでも早くご自宅に戻りたいというのであれば我々にも手が無い訳ではありませんが、可能であれば日のある時間帯、明日の朝一番であなたをご家族の元に送ろうかと我々は考えているのですが、如何でしょうか?」
「送って頂けるのであれば心強いです。帰り道でもゴブリンや狼と遭遇しないとは限りませんし、助けていただいた身です。これ以上のわがままは言いません。むしろ、今夜はこの部屋に泊めていただく、という事でよろしいのでしょう、か?」
「えぇ、もちろん」
少し不安そうな彼女に対してフィルは静かに頷く。
「でしたら、送っていただくのはそちらの都合が良い時で構いません」
「では明日の朝、という事でよろしいですか?」
「はい」
「分かりました」
そう言うとフィルは腰かけていたベッドから立ち上がった。
「色々と情報が聞けてこちらも助かりました。あぁ、それと食事や飲み物なども用意させましょう。慣れないでしょうが、今日はこの部屋でお休みください。明日の朝、護衛の準備が出来次第、人をよこしますので」
「何から何まで、ありがとうございます」
シェリリンはそう言って静かに頭を下げた。
「お気になさらずに。では、私たちはこれで。エリック」
「はっ!」
フィルが声をかけると、エリックは彼に続いて部屋を後にしようとした。
「あっ」
『ん?』
しかし、直後に聞こえたシェリリンの声にフィルは足を止めて肩越しに振り返った。彼の目に映ったのは、不安そうにエリックの背中へ小さく手を伸ばすシェリリンの姿だった。
『ふむ』
その姿を見て、数秒思案したフィルは……。
「エリック、急でも申し訳ないが、君はこの部屋にとどまってくれ」
「え?この部屋に、でありますか?」
「あぁ」
フィルは疑問符を浮かべる彼の方へと振り返る。
「ミス・シェリリンも慣れない部屋で一人では不安だろうから、少なからず会話をしていた君がそばにいてあげれば少しは落ち着くだろう。頼めるか?」
「はっ!ご命令とあらばっ!」
エリックはそう言って敬礼の姿勢を取る。
「よし。ならばエリック・フューラー。貴官には明日の朝までシェリリン嬢の傍に付く彼女の護衛並びに諸々の世話を指示する」
「はっ!任務、拝命しますっ!」
「よろしい。では、彼女を頼むぞ」
「はいっ!」
フィルは敬礼をするエリックに答礼をすると、その場を後にした。隔離室を出て、更に管理室も出るフィル。
「お疲れ様です、提督」
すると、外でオックスが待っていた。
「如何でしたか?例の女性との会話は?」
「正直な所を言うと、有意義だったかと聞かれれば微妙な所だ」
そう言ってフィルは小さく、落胆を示すように息を付いた。
「そうでしたか。では、有益な情報は得られなかったと?」
「決して情報が得られなかった、という訳ではないが。現在の我々の状況全てを解明する程の物ではなかったよ」
「成程。それは残念でしたね」
「あぁ。だが、彼女曰く『村の長老ならもう少し何か知っているかもしれない』、との事だ」
「そうでしたか。それで、今後の予定は?」
「明日の朝、彼女をその村まで送っていく事になった。道中の危険を考えて部隊を同行させるが、その部隊には我々の代表としてその村の人間と接触してもらう予定だ。相も変わらず、分からない事が多すぎるからな。次の目標は、その長老からの情報収集、無いしはより情報を持つ者への仲介などを依頼する事だろう」
「分かりました。他に何か要件はありますか?」
オックスは静かに頷き、問いかける。
「そうだな。各艦の艦長や各部隊長用に、私の方で彼女への質問の内容と答えを簡潔に纏めたレポートを作っておこう。皆忙しいだろうし、また円卓の間に集まるのも大変だろう。なので彼らにはあとでレポートを送るとだけ伝えておいてくれ」
「分かりました」
「あぁ、それと。明日の彼女の護衛には第1アサルトトルーパー隊を付けようと思う」
「第1部隊となると、ゲイルの部隊ですね」
「あぁ。彼女を見つけたのもゲイル達だからな。それに、我々の中で彼女と一番接しているのも彼の部下のエリック・フューラーだ。確かゲイルの部下に日本語が堪能な者がいるはずだ。彼らを護衛兼代表として村に派遣しようと思う。そのことについてゲイルと話がしたい。あとで私の部屋に来るように伝えてくれ」
「承知しました。失礼します」
オックスは敬礼をすると、足早に去って行った。それを見送るフィル。そして彼はふと空を見上げる。
既にオレンジ色に染まりつつあった空も、薄暗くなりつつある。
「夜、か。ようやく私たちの、この星での最初の1日が終わろうというのか」
彼は夜空に浮かぶ星々を見上げながらポツリとつぶやくと、踵を返して歩き出した。
第5話 END
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