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宇宙艦隊、異世界を征くっ!  作者: ジョージ
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第4話 対話・Ⅰ

楽しんで頂ければ幸いです。

 未知の惑星に漂着したFD艦隊。艦隊の幹部やフィルたちが今後のために会議をしていた一方、新兵のエリックは仲間と共にベースキャンプ周囲の地形データを得て地図を作るためにマッピングにいそしんでいた。 しかし、彼らはその道中に、未知の怪物、ゴブリンに襲われている人間の女性を発見。ゴブリンを退け女性を助けるも、彼女は気絶してしまった。 エリックらは、やむなく女性をベースキャンプに連れていく事に。 連絡を受けたフィルらも、女性を受け入れるための準備を始めるのだった。


 今、ゲイル以下エリックら数人は、周囲を警戒しながらも、女性保護の許可が下りた為ベースキャンプへと向かっていた。 先頭をゲイルが歩き、その後ろでエリックともう一人が気絶している女性に肩を貸している。残りの数名は、左右と、特に後ろを警戒していた。


 ベースキャンプは彼らにとっての唯一の拠点だ。万が一にも敵となりそうな存在に発見されるわけには行かないので、彼らは尾行されていないか警戒を強めていたのだ。


「どうだ?彼女はまだ起きそうにないか?」

「はい。今の所起きる気配はありません」

先頭を歩いていたゲイルが振り返り問いかけるとエリックがそれに答えた。

「そうか。……この分だと、ベースキャンプに戻る方が早いだろうな」


 ゲイルの言葉通り、彼らが歩く事、約15分後。彼らはベースキャンプまでたどり着いた。


 既にベースキャンプ周辺の作業は一通り終わりを迎えていた。ベースキャンプの周囲を囲うように掘られた溝には臨時で木製の槍があり、落ちたものを貫く。更に遠距離攻撃を警戒してか、木製のバリケードや土嚢があちこちに設置され、一部には機関銃らしき物も据え置かれている。


「うむ。ベースキャンプは殆ど完成してるようだな」

 設営をするにしても、艦が複数着陸している現状では、艦にある物資だけでベースキャンプの設営は不可能であった。だからこそ周辺にある木々や土を利用して、何とかベースキャンプを作り上げたのだ。 そしてベースキャンプの様子を見て、完成間近な事に安心した様子のゲイル。


「お~~いっ!こっちだこっち~っ!」

 と、その時、ベースキャンプへと通じる木製の橋から、ゲイル達の装備よりも、更に重装備な白いアーマー、肩に描かれたハザードマークが特徴的な兵士数人が現れた。


「あれって、確かNBC部隊?」

 その兵士たちの姿を見て、エリックは首をかしげながらポツリとつぶやいた。 NBCとは、ニュークリア、バイオ、ケミカルの頭文字を取った者で、核兵器や生物兵器、化学兵器への対処などを専門とする部隊だ。 エリックは『なぜNBC部隊が出てくるんだ?』と、彼らが現れた意味が分からず小首をかしげていた。 その間も、女性に肩を貸し歩いていく。


「ご苦労さん。その女性が例の?」

「あぁ」

 橋の前に辿り着き、NBC部隊の兵士と言葉を交わすゲイル。防護服を着た兵士の一人が彼と言葉を交わし、次いで女性へと目を向ける。

「よしっ。じゃあそのストレッチャーに乗せてくれ。簡易スキャナーで調べるからな」

「あぁ。おいっ」

「は、はいっ!」

ゲイルの言葉を聞き、エリックはもう一人と共に彼女をストレッチャーに乗せた。

「よしっ、すぐさまスキャン開始っ。それと念のため脈拍や体温チェックッ。場合によってはメディカルチームの出番だからなっ」

「「「了解っ」」」

 指示を受けた兵士たちは、すぐさま女性の状況やメディカルをチェックしていく。


「体温、脈拍、心音、呼吸。全て安定しています」

「今の所未知のウイルスなども検出できません」

「そうか」


 報告を聞き、リーダーの男は安堵したような声を漏らす。

「っと。そうだ。念のために聞いておくが、誰か彼女に素手で触った者はいるか?」

「あっ。そ、それなら自分が」

 振り返ったリーダーの男の問いかけに、エリックがおずおずと言った様子で小さく手を上げる。

「お前か。接触の理由は?」

「脈拍を測るために、彼女の手首に素手で触りました」

「成程。……念のために聞くが、その後素手で口や目を触ったりしたか?」

「いえ。すぐにグローブを戻したので、触ってはいないはずです」

「そうか。なら、念のためにお前は隔離だな」

「えっ!?ま、まさか俺、何かやらかしたって事、ですかっ!?」


 隔離、と言う不吉な単語にエリックは驚き慌てて問いかけた。自分が何か不味い事をしでかしたのでは、と言う不安と恐怖があったからだ。


「安心しろ。念のためだ念のため。幸い彼女にこれと言った病原菌や感染症は発見されていない。とはいえ、無いと勝手に判断して、お前が出歩いて艦隊のメンバーに感染させるわけには行かない。隔離とは言うが、実際には『問題ない』と判断できるまでの間だ。分かったか?」

 驚くエリックを宥めるように、彼はそう言って小さく肩をすくめる。

「は、はい」


「よし。じゃあお前は彼女と一緒に仮設の隔離室に行ってくれ。念のためそこでお前と彼女の精密検査を行う」

「分かりました」

エリックは、若干不安そうな声色ながらも、ストレッチャーを押すNBC部隊の兵士について行った。


「それじゃあゲイル達は俺と来てくれ。隔離室とは別に検疫所とシャワールームを作ってある。そこで検査と装備、体の洗浄だ」

「了解した」

 一方のゲイル達も、指示を受けてすぐさま動き出した。



~~場所は変わって円卓の間~~

「了解した。では彼女と兵たちの検査を頼む。では」

耳の通信機越しに話をしていたオックスは、通信を終えるとフィルらの方へと向き直った。


「件の女性を保護した偵察部隊が帰還しました。内、1名が素手で女性に接触したため、女性と共に隔離室へ。残りは検疫所での検疫と装備、身体の洗浄を受けているとの事です」

「そうか。……女性から何かウイルスや病原体などは確認されたのか?」

「いえ。NBC部隊の持つ簡易スキャナーにはこれと言った反応は無かったそうです。接触した隊員についても現在の所体調に変化はなし、との事でした。ただ、正確な情報は今後の精密検査の結果を待ってからでないと言えない、と」

「分かった。さて」


オックスから話を聞いたフィルは、改めて他のメンバーの方へと視線を向けた。

「諸君。これで、少なくともこの星に我々以外の人類が存在している事が確認された」

 フィルの言葉に神妙な面持ちだ。

「と言う事は、やはりこの惑星は人類によってテラフォーミングされた惑星、と言う事なのでしょうか?」

「そう考えるのが妥当じゃが、では艦隊のデータベースに惑星のデータが無かった事はどう説明するんじゃ?」

マイヤー艦長の言葉に、しかしティム艦長が疑問をぶつける。


「いつでも、どこでも戦えるようにと言う提督の意見で、各地の情報は逐次収集しておるんじゃ。なのに儂らの手元にこの星のデータは無い。妙じゃろ?」

「確かに、ティム艦長の言葉も最もです」

 彼の言葉にエドワードも難しい表情をしながらも頷く。


「惑星のテラフォーミングなんて、隠れて行える事ではありません。やはりこの惑星には、何か違和感を覚えます」

「人類が生存可能でありながら、存在しない惑星や宙域のデータ。確かに違和感を覚えるが、幸い我々は今後の目標を得られたと言えるだろう」

「と言うと?」

 エドワードの言葉に答えたフィルの言葉の意図が分からず、イージスが問いかける。


「幸い、現地民と思われる女性を保護する事が出来た。オックス」

「はっ、何でしょう?」

「偵察隊の報告に、例の女性が何か移動手段を持っていたかどうか、分かるか?」

「少々お待ちを」


 オックスは手にしていたタブレットを操作し、報告されたデータを確認する。

「偵察隊の報告を見る限り、そのような物はありませんね」

「ありがとうオックス。……さて、今の話が本当であるのなら、彼女が発見された地点から徒歩で移動可能な範囲に彼女が所属するコミュニティがあるはずだ」

「ではまさか、そこで情報収集を?」

「あぁ」

 イージスの言葉にフィルは頷いた。


「オックス、彼女は何か、道具やカバンのような物を持っていたか?」

「いえ。報告によれば丸腰だったと。ナイフや銃火器、護身用の武器などは発見出来ていないと」

「そうか。となると、襲撃された地点の周囲で落としたか、最初からそう言った物を持っていなかった可能性もある。食料などを持参していた場合を考えても、移動手段が徒歩と限られているのならば移動距離は大したことはないと考えられる。であれば、襲撃地点からそう遠くない場所に彼女の属している、もしくは属していたコミュニティがあるはずだ。オックス、偵察隊が作った地図を出してくれ。それと女性が発見された場所もだ」

「了解です提督」


 オックスが手にしていたタブレットを操作すると、中央に映し出された周辺地域の地図。

「あそこが、少女が保護された地点です」

 地図上にて艦隊のベースキャンプを意味する3つの青い光点と、保護された地点である赤い光点。オックスはその赤い光点を指さした。


「ふむ。一番近いのは、我々Cチームか。距離は、南に10キロは無いか」

 彼はそういうと、少し考え込むような表情を見せた後、周囲を見回す。

「皆、聞いてくれ。彼女がここに、この惑星にいるという事は当然人類が定住している、と言う事だろう。ならば当然、人の軍もどこかにいるかもしれん。なので各自、各艦、各チーム共に最大限警戒を怠らないように。警備ドローンや歩哨の人員は可能な限り投入。我々に被害を与えらえるほどの敵がまだいるか分からない以上、警戒を密にするように」


「「「「「了解っ!」」」」」」

 フィルの言葉に皆、特に若い世代が声を上げ頷く。


「よし。ではまずは、件の少女から話を聞いてからだ。可能であれば、彼女をコミュニティへ護送しつつコミュニティの責任者と接触を図る。……そのためにも今は彼女の回復待ちとなるだろう。誰か、質問は?」

 彼の問いかけに、皆何も言わず彼の言葉の次を待っていた。


「よし。では諸君は持ち場に戻ってくれ。それと、敵の存在が分からない以上、皆には長期の警戒と緊張を強いる事になるだろう。皆、体には気を付けるように。以上だ」

「では、これにて会議を終了するっ!」


 フィルの言葉と、それに続くオックスの言葉でもって会議は終了した。それに合わせて、ホログラムが消える者もいれば、自らの足で退室していく者もいる。フィルはそれを見送り、オックスと自分だけになると、深く息をついた。


「少しお疲れのようですね。部屋で休まれてはいかがですか?」

「良いのか?」

「えぇ。万が一の時があればすぐさま指示を仰ぎますが、それ以外は問題ありません」

「分かった。ならばオックスの好意に甘えさせてもらうとしよう」

 そう言って座っていた席を立つフィル。

「あぁそうだ。例の女性に関する報告書のデータなどを私のPCに送っておいてくれ。休みながらでも、書類に目を通す事くらいはできるからな」

「了解しました」

 笑みを浮かべるフィルの言葉に、やれやれと言わんばかりの表情で苦笑しながら頷くオックスだった。



 一方、女性と共に隔離室に入れられたエリック。今は洗浄のために装備も回収され、下着の上に検査着を着てベッドの上でゴロゴロするばかりとなっていた。

「あ~~~、暇だ~~~」


 装備はすべて回収されてしまったため、平時でもいつも手首に身に着けていた腕時計型の携帯端末も無い。端末の中には娯楽用に音楽のプレイリストが入っていたのだが、今は手元にないのだから当然聴けない。

『は~~、あれだけでもあれば、音楽くらい聴けるのにな~~』

 結果、手持無沙汰な彼はただただ、ベッドの上でゴロゴロするばかりだ。 そしてだからこそ、彼はただ『考える事』しか出来なかった。


『……俺達、これからどうなるんだろうなぁ』

 理解が及ばない、謎に満ちた現状。そこから来る不安や恐怖はそう簡単にはぬぐえない。まして今は、音楽を聴いたりして気を紛らわせる事も出来ない。だからこそ不安で、エリックはそちらの事ばかり気にしてしまう。


『艦隊は家だから、家に帰れないって事は無いけど、ここがどこかも分からないし、どんな敵が居るかも分からない。隣で寝てる女の子だって、見た目は西洋人なのに日本語で話すし。……ハーフ、なのかな?』

 考える事しか出来ず、ただただ天井をぼんやりと見上げながら、彼は頭の中で答えの出ない思考の空回りを続けていた。


『まぁ、何でも良いか。あの子と俺が接したりする訳でもないし』

 やがてエリックは内心そう考え、彼女の事をこれ以上考えないようにしようとしていた。


「んっ。んんっ」

「え?」

 カーテン越しに聞こえたそれは、女性の声だった。そしてこの隔離された部屋に女性と言えば、保護された彼女以外に他ならない。


『えっ!?ま、まさか、起きたっ!?いやいや、ただ唸ってるだけじゃ……っ』

 と、彼は咄嗟にそう自らに言い聞かせた。きっと気のせいだ、と。 しかし、そういう物は得てして『フラグ』となる。


「う、うぅ。ここ、は?」

『お、起きたのかっ!?起きたのかっ!?なんか言ってるけどっ!』


 カーテン一つ隔てた先から聞こえる声にエリックは戸惑い、困惑していた。なぜなら彼は日本語を話せないからだ。 元々彼らの世界では世界の標準言語として英語が使われている。エリックも、周りの皆が英語で会話する環境で育ったため、現在のような傭兵として仕事をしていても会話にはおいては困らなかった。更に言えば、技術が進んだ彼らの世界なら、端末が瞬時に相手や自分の言葉を翻訳することが出来たので、英語以外を覚える必要性がなかったのだ。 しかし、それ故に多言語を勉強していなかった『つけ』がここで出てしまった。


『ど、どうしようっ!俺、英語しか話せないしっ。端末に翻訳アプリは入れてたけど、今はそれも手元にないしっ!あぁもうっ!仕方ないっ!』

 慌てた様子でエリックはベッドから降りると、すぐさま部屋の壁に設置されていた通話機の元へと向かった。 


 受話器を外し、ボタンを操作して通信相手を呼び出す。数回のコールの後、相手が電話に出た。

『はい、こちら管理室。どうした?』

「あっ、中にいるエリックですっ!実は今っ、保護した女性が目覚めたみたいでっ!」

『ッ!?ホントかっ!』

「はいっ!そ、それで俺っ、日本語が話せなくてっ!」

『ッ、マジかっ!かといって、すまないがまだ検査が終わってないっ!お前らをそこから出す事も出来ないし、ここにも日本語を話せる奴が居ないんだっ!』

「えっ!?じ、じゃあせめて俺の端末を中に送ってくれませんかっ!?あれには翻訳アプリを入れてあるんでっ!」

『やむを得ないかっ!お前の装備は洗浄中だっ!あと少しっ、数分で終わるっ!それまで何とかしてくれっ!頼んだぞっ!』

「えっ!?ちょっ!」


 待って、と言いかけたエリックだったが、先に通話が切られてしまった。困惑した表情で受話器に視線を落とすエリック。と、その時。


「あ、あの」

「ッ!」

 不意に後ろから声を掛けられ、驚いて反射的に振り返るエリック。そこに居たのは、混乱した様子で彼を訝しむ少女だった。


「あっ、うっ、え、えぇっとっ!こ、こんにちはっ!」

「???」

 エリックは咄嗟に挨拶をした。が、当然英語だ。彼は、彼女が英語も話せる事を期待していたのだが、彼女が首を傾げ怪訝そうな表情をしている事から、その期待は一瞬で砕け散った。


『ど、どうすれば良いんだこの状況っ!?俺日本語話せないのにっ!』

 兵士とは言え新米。しかも相手に言葉が通じないという状況。更に頼りの端末が届くまでまだわずかに時間がある。

『あ~~え~っとえ~~っとっ!』

 困惑するエリック。一方で少女は困惑し、次第にその表情を不安の色に染めていった。


「あ、あの。あなたは、一体?それにここは?」

『う、うぅっ!言葉はわかんないけど、不安そうなのは分かるっ!かといって英語は通じないし、俺日本語はっ、仲間に借りた漫画版の、日本語のオリジナルをチラッと見たことがあるくらいだし、あやふやな単語を覚えてるくらいだしっ!』


 彼女を宥めようにも日本語が分からない彼にはどうしようもなかった。だが……。


「ここは、どこ?私は、これから、どうなる、の?」

「ッ!」


 少女は、目じりに涙をため始めた。理解できない状況が恐れを呼び覚まし、彼女は今、

不安に押しつぶされそうになっていたのだ。

『うぅっ!く、くそっ!こうなったら一か八か、意味なんて分からないけどっ!』


「だ、だい、じょうぶ」

「え?」

 少女は不意に聞こえた、たどたどしい日本語に俯きかけていた視線を上げた。

「お、俺、が、君を、まもる、から」

 エリックはまともに日本語を話せない中で、漫画で読み覚えていた言葉を口にした。独特の訛りがある上に、エリック自身細かい意味は分かっていない。ただ覚えていた文章を口にしただけだ。今、彼は少女の反応を待っているかのように若干身構えた姿勢で冷や汗を流していた。


「え?あ、あなた、が?私、を?」

 少女は戸惑っていた。なぜそんなことを?と言う疑問符が頭の中にあったからだ。実際、エリックの言葉は、今の会話を考えれば脈絡のない物だ。ただ、それでも。

「……そっか、ありがとう、ございます」


 ほとんど喋る事の出来ない日本語を、必死に話そうとしていた彼の誠意は、少女に伝わった。その誠意が彼女の不安や恐怖を和らげ、少女は微笑を浮かべた。

『ッ、つ、伝わった、のか?』

 一方のエリックも、彼女の微笑みから一応の成果を感じ、内心ほっとしていた。


 と、そこへ。

『おいエリックッ!待たせたなっ!端末の洗浄が終わったっ!』

「えっ!?ホントですかっ!」

『あぁっ!今受け渡し口から中に送るっ!』


 スピーカーから声が響いた直後、本来は接触を避けて食事などを提供するする受け渡し口が開き、中からエリックの端末が現れた。

『っしっ!これがあればっ!』

 エリックは嬉々とした様子で受け渡し口に近づき、出てきた端末を手首に装着する。


『あぁそれと、彼女と会話するにしても気をつけろよっ!仮にも部外者で民間人、どこの誰かも分からないんだっ!艦隊の機密情報に関わる事は絶対に話すなよっ!』

「りょ、了解っ!」

『それと彼女が目覚めた事はすぐに提督に報告が行くはずだっ!とりあえず今は彼女と話をして、少しでも彼女を安心させたりするんだぞっ!』

「分かりましたっ!」

 エリックの返事を聞くと、スピーカーからの通信が途絶えた。エリックはすぐさま端末を起動。画面を操作して翻訳アプリを呼び出すと、続いて言語欄から翻訳言語を日本語に設定した。


『よしっ、これでいけるはずだっ』

 彼は改めて少女と向き合い、端末を自分の口元へと近づけた。

『頼むから、上手く行ってくれよ』

 心の中で願い、緊張から冷や汗を流しながら、彼は震える口を開いた。


「こ、こんにちは。俺の言葉、分かります、か?」

 彼の小声で聞こえてくる英語。それを端末が即座に翻訳し、エリックの声に似せた機械音声が翻訳された文章を読み上げ、声となって少女に届く。


「ッ!?そ、それって、何ですかっ!?腕輪から、声がっ!?」

 少女は突然腕輪から声がしたことに驚き、怖いのか後ずさった。 

「あっ!待ってっ!これは危険なものじゃないからっ!」

 彼女の動きと、声を拾って翻訳しディスプレイに表示された文章から、相手を怯えさせてしまったか?と考えたエリックは何とか彼女を宥めようと努めた。


「こいつは、君と俺の言葉を翻訳して、円滑に会話出来るようにサポートしてくれてるんだ」

「そ、そうなの、ですか?」

「ほ、ほらっ、現に俺と君はこうしてちゃんと話せてるだろ?」

「あっ。た、確かに」


 しゃべる腕輪、とも取れる端末を前に驚いていた少女だが、言葉が通じるという事もあってかある程度恐怖や不安は緩和されているようだった。 さらにエリックは彼女と自分のベッドの間を仕切っていたカーテンを退けると、自分のベッドの上に腰を下ろした。


「とりあえず、座って話さない?君も聞きたいことがあるだろうし、俺も色々聞きたいんだ。ダメかな?」

「あ、え、えと。じゃあ、はい」


 エリックの言葉に少女は若干戸惑いながらも、彼と同じようにベッドに腰を下ろした。改めて向かい合う二人。


「じゃあ、まずは自己紹介から。俺はエリック・フューラー。所属は、良いか。とりあえずはじめまして」

 所属部隊について名乗りかけたが、今は良いか、と考え言葉を濁すエリック。

「君の名前は?」

「私は『シェリリン』と言います。えと、フューラーさん、って呼んで良いですか?」

「うん。いいよ。あっ、呼びにくかったらエリックとか、好きな方で呼んで良いから」

「分かりました。じゃあ、エリックさんで」

「うん。あっ、俺の方は、えっと、シェリリンさん、で良いかな?」

「はい、大丈夫ですよ。あっ、何なら呼び捨てでも構いませんから」

「あぁうん。分かった。けどまぁ、お互い初対面って事で、シェリリンさんって事で」


 エリックは彼女を呼び捨てで呼ぶ事が恥ずかしいのか、若干顔を赤らめ恥ずかしそうに頬を指でかいている。

「ふふっ、分かりました」

 そんな彼の姿に小さく笑みを浮かべるシェリリン。

「うっ。と、とりあえずっ!んんっ!お互いの事を話しましょうかっ!」

 笑われ、恥ずかしさを誤魔化す為に咳払いをしたエリックはそう前置きして、彼女といろいろ話を始めた。



~~~~

 一方。彼女が目覚めたと言う情報は、すぐさまフィルの元まで届けられた。フィルは、その情報をキングオブアーサーの艦橋にいるオックスからの通信で聞いていた。


「そうか。例の少女が目を覚ましたか」

『はい。それで提督、あの少女はどうされますか?』

「……オックス、彼女が病原体のキャリアーかどうかの検査状況はどうなっている?」

『隔離管理室からの最新の報告では、もう間もなく、と』

「分かった。ならばすまないが、念のために対NBC用の防護服を一着用意してくれ」

『ッ、それはまさか、提督自らが彼女とっ?』


 フィルの言っている事の意味、つまり部隊のトップである彼自身が少女と話し合いをする、ということだ。

「そうだ」

『危険ではありませんか?相手の素性もよくわからないのです。ならばせめて私か、あるいは護衛をつけるべきではありませんか?』

 オックスとしては、トップであるフィルにもしもが起こった場合を考えてしまう。そしてそれは最悪のシナリオだ。だからこそ、そんな提案をしたのだ。


「いや。大人数で押しかけては彼女も怯えるだろう。それに、この惑星に来て初めての人間だ。その姿をカメラ越しではなく、自分の目で見て、自分の口で話したいんだ」

『……分かりました。ですがどうか、お気を付けください。提督の御身に何かあれば、この艦隊はおしまいです』

「あぁ、分かっているさオックス。私の背中には、艦隊に属する数万人の人間の命がかかっている。こんなところでおいそれと死んでなど居られない」

 少し不安そうなオックスを安心させようと、フィルは優しい口調で声をかけた。


「とにかく、念のため防護服の用意を頼む。どっちにしても病原体検査の結果が出なければ話し合いも出来ないからな」

『分かりました。直ちに準備させ、お部屋にお届けします』

「あぁ、頼む」


 そのやり取りを最後に通信を終える二人。そして自室に残ったフィルは静かに息をついた。


「さて、彼女からどれほどの情報が得られるか」

 彼は静かに、鋭い視線で天井を見上げながら、誰に言うでもなくつぶやいた。


「……この星の情報を得られる事を願うばかり、だな」

 さらにもう一言、彼は呟くと防護服や報告が届くまで『何を聞くか?』、『どんな探りを入れるか?』など、そんなことを一人考えているのだった。


     第4話 END

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