第3話 邂逅遭遇
楽しんで頂ければ幸いです。
ワームホールに飲み込まれ、謎の惑星上空に転移してしまったFD艦隊。目を覚ましたフィルたちは、すぐさま気絶していた兵士やスタッフたちの状況確認を開始。その後、彼らは情報収集のために地表へと降下しベースキャンプを設営する事になった。
キングオブアーサー、艦橋にて。
「高度確認。スラスター出力調整。降下します」
操縦席に座るメインの操縦士の声が響き渡る中、キングオブアーサーは底部のスラスターからピンク色の炎を吐き出しつつ、ゆっくりと地面へと降下していく。
更にその周囲でも、他の艦が1隻ずつ、指定された降下地点へと順番に降下していた。その様子を、フィルは操縦席のシートの後ろから見守っていた。
「良いか、降下中は恰好の的だっ。周辺警戒を怠るなよっ!」
「了解っ!」
そこに聞こえるのはオックスの指示。彼の指示を受けレーダーを見るオペレーター達は緊張した面持ちだ。
その間にも、艦はゆっくりと降下していく。
「地表まで残り100メートル。ランディングギア、展開用意」
「了解っ、ランディングギア、展開用意」
メインの操縦士の指示を受け、隣のシートに座っていた副操縦士が周囲にあるスイッチを操作していく。
「用意完了。いつでも出せます」
「よしっ、ランディングギア展開っ!」
「はいっ!ギア展開しますっ!」
副操縦士がスイッチを押すと、小さなモニター内部でギアが展開されている様子が確認出来る。
「ギア展開完了。OKですっ」
「よしっ、降下するっ」
徐々に降下していくキングオブアーサー。そしてついに、その巨大な鉄の足が大地を踏みしめた。
「着陸完了です。提督、オックス艦長」
「よし。では偵察用ドローンを周囲に配置してくれ。艦の降下中に人を配置していては危ないからな。全艦が降下し終わるまでの臨時の目とする。他のチームにも今の指示を伝えてくれっ」
「了解ですっ!」
すぐさまオペレーターが指示を飛ばし、周囲へと円盤のような形をしたドローンが無数に配されていく。
「続けてガルーダ、予定ポイントに降下開始しましたっ」
「対空、対地警戒を怠るなよっ!レーダー、ドローンッ!何か少しでもおかしな影や姿を見たのならすぐに報告だっ!良いなっ!」
「「「「了解っ!」」」」
オックスの指示を受け、オペレーター達が少し緊張した面持ちで返事を返す。
その後も、3つのポイントで順次各艦が降下し、幸いなことに何事もなく着地に成功した。
「オックス艦長っ、提督っ。たった今最後の一隻が着陸に成功。これで全艦、着陸完了です」
「よしっ。すぐに各艦に連絡っ。直ちにベースキャンプの設営を開始っ。それとここは未知の惑星だっ。何が起こるか予想も出来ないっ。作業中は各員最大限の警戒と注意を払うように厳命してくれっ」
「了解しましたっ!」
ウィルからの指示を受け、すぐにオペレーター達が各艦へと指示を伝達していく。その様子を確認したウィルは、次いで艦橋のシールドガラス越しに外の景色へと目を向けた。
「……この森の先には、何が居るんだ?」
シールドガラスを隔てた先に広がる森。それはウィルらにとっては未知の樹海だった。その未知への危機感と警戒心を表すように、彼は鋭い視線で森を睨みつけるのだった。
一方、着陸したガルーダでは。
「よぉしお前らっ!艦が無事に着地したし、次は俺らの仕事だっ!良いなっ!」
「「「「はいっ!!」」」」
ガルーダの後部ランプに集まったアサルトトルーパー隊やそれ以外の兵士たち。その中にはエリックやゲイルの姿もあった。そして今、ゲイルは部下たちに向かって指示を出していた所だ。当然、それを聞く者たちの中にエリックの姿もある。
「さっきも話したが、俺たち第1アサルトトルーパー隊は隊を二つに分けるっ。一つは他の連中と協力してベースキャンプの設営を行う作業部隊。もう一つは仲間が作業している間に周辺警戒と偵察に当たる警備部隊だっ。なお、提督からの指示だが、知っての通りこの星は俺たちにとって右も左も分からない未開の土地だ。当然森に何が居るか分からない。なので警備と偵察にあたる奴らは最大限の警戒心でもって仕事に当たれとの事だっ。良いなっ!?」
「「「「「サーイエッサーッ!」」」」」
「よぉしそれじゃあもうすぐ仕事開始だぞお前らっ!」
そう、ゲイルが指示を出していると……。
『後部ランプがまもなく解放されます。近くにいる方は安全のためお下がりください。繰り返します』
聞こえてくるスピーカーからの指示。指示を聞いた兵士たちが慌ただしく動き回っていると、『ガコォンッ』と音を立てて後部ランプが動き出した。
外に向かって開いたランプは、そのまま長さを調節して後部ランプから大地へと降り立つ緩やかな坂となった。
「よぉしお前らっ!仕事にかかるぞっ!」
「「「「「サーイエッサーッ!!!」」」」」
ゲイルの言葉を受け、武装した兵士たちや、銃の代わりにスコップなど土木作業用の道具を手にした兵士たち。更にゲイルが率いる以外の部隊の兵士たちも同じような道具や銃を手に続々と後部ランプから降りていく。
その後、各艦から降りた兵士たちによって仮設ベースキャンプの設営が始まった。ある者はスコップ片手に塹壕を掘り進み。ある者は倉庫から引っ張り出してきた防弾仕様の壁をあちこちに設置し、万が一戦闘が始まった時のための遮蔽物にするための用意をしていた。更に臨時の施設として簡易レーダーを乗せたコンテナタイプの仮説住居や通信設備を内包した仮説住居など、そういった類の物も兵士たちが組み立てていた。
そして、その様子をキングオブアーサーの艦橋からフィルが見下ろしていた。
「提督」
「ん?」
そこに近づいてくるオックス。
「どうしたオックス?」
「ストアから報告が上がりました。倉庫内部の品について、念のため確認をしていたそうです。貯蓄していた物資の大半は無事。被害があるとすれば、酒瓶の一部が転移時の衝撃で落下、割れてしまった程度だそうで。食料、武器・弾薬に嗜好品、その他物資に重大な被害は無いとの事です」
「そうか。……現状、補給もままならない我々にとってはストアの物資が生命線だからな」
「そうですね」
そう話をしていた二人だが。
「そうだ。オックス、ストアに以前私が行って取り付けさせたものがあっただろう?あれはどうなった?」
「あぁ。確か電力エネルギーを変換して銃弾などを生産するという、あの?」
「そうだ。ナノマシンを利用してそういった物資を生産する製造機をストア内部に設置していただろう?あれが無事なら、最悪の場合銃弾の製造も出来るが、どうだ?」
「少しお待ちを」
そう言ってオックスは手元のタブレットを確認していく。
「……少なくとも、あれが壊れたという報告は受けていませんね」
「そうか。ではストアのティム艦長に、可能であれば時間がある時に動作確認をするよう伝えておいてくれ」
「了解です」
「提督っ」
指示を聞いて一度離れていくオックス。しかし彼と言われ変わるように一人の女性オペレーターが駆け寄ってくる。
「どうした?」
「ヘッジホッグ1のエドワード艦長よりメッセージがありました」
「エドから?内容は?」
「メッセージの内容を要約すると、提督や各艦の艦長、更に各トルーパー隊のリーダーなどを集めて、幹部クラスだけでも情報の交換や現状の確認をするべきではないか?との事でした」
「そうか」
要約された内容を聞き、少し間を置いた後、フィルはオペレーターの方へと視線を向けた。
「よしっ。ではキングオブアーサー内部の会議の間、『円卓の間』を使う。各艦の艦長とトルーパー隊総司令『イージス・マクガイア』。それと各トルーパーリーダーに円卓の間を使って会議を行うと通達。それと、会議の中で現状を報告してもらうので、ストアからは物資の状況の資料を集めておくように通達。更に各艦の艦長は艦の損害状況のデータを。医療班、『メディックトルーパー』リーダーのレイナにも、負傷者などの情報を持ってくるように伝えてくれ。ただ時間がないので、正確な内容が分からないのなら大まかな情報でも良いと伝えてほしい」
「はっ!了解ですっ!」
すぐさま別のオペレーターの元へと彼女は走っていった。
「オックス」
「はい。聞いておりました。すぐに円卓の間の用意をさせます」
「頼む」
「はっ!」
オックスは敬礼をすると、その場を離れていった。
一方、そのころ。艦隊が降下し3か所で仮設ベースキャンプの設営が着々と進んでいる中、エリックは仲間や隊長のゲイルと共に周辺の森の中を探索していた。全員が黒いアーマーに身を包み、手にはエリックと同型のレーザー式のアサルトライフルを持つ者や、実弾式のショットガン。レーザー式の軽機関銃『ELMG-0995』を持つ者がいた。彼らは皆、慎重に周囲を進みながら、同時に周辺の地形データを、ヘルメットに搭載されているカメラに撮影していた。
このカメラは艦などから前線の状況を兵士目線で知るための物だが、今のように映像として周辺のデータを撮影し、それを艦などに転送する事が出来る。そう、今の彼らが行っているのはベースキャンプ周囲のマッピングだ。
「隊長、周辺200メートルの地形データ、取得完了しましたっ」
「よぉし、移動するぞっ!もう少しデータを取っておきたいっ!」
「「「「了解っ」」」」
移動し、数人が地形データを採取している間、他のメンバーが周辺を警戒する。それを何十回も繰り返しながら、周辺のデータを採取していたのだ。
その道中での事だった。
「……妙だなぁ」
「隊長?」
周囲をゲイルと共に警戒していたエリックだったが、不意に聞こえたゲイルの声に、彼はそちらへと目を向けた。
「何かありましたか?」
「ん?あぁいや。ちょっとこいつのデータを取ってたんだよ」
「データって、これ木ですよね?」
ゲイルが指さしたのは、ただの変哲もない木だった。
「そうだ。カメラでこいつの映像や葉っぱの形や模様、木の表面の画像データを艦隊のメインサーバーに送信して、AIに類似する植物が無いか検索を掛けてみたんだが……」
「まさか、何か良くない結果が?」
少し緊張した声で問いかけるエリック。
「いや。そういう訳じゃない。そう言う訳じゃないんだが、返ってきたデータが妙でな」
「妙、とは?」
悪い知らせではない、と分かって幾ばくか安どした様子のエリックだが、妙と言う言葉には少なからず興味をひかれた。
「……こいつによく似た植物自体は存在していた。ただし、類似した植物が生息していたのは、人類の故郷である惑星、『太陽系第3惑星』。つまり『地球』だ」
「えっ?」
地球、と言う単語を聞いた時エリックは戸惑った。
「それって、おかしくないですか?俺は地球とか全く知りませんけど、でももしここが地球なら、天体観測で分かるはずですっ」
「そうだ。ここが地球なら天体観測の時点でここが太陽系だと分かるはずだ。だがここは地球ではない。なのに、地球に存在していた物と類似性がある植物が自生している。だから妙なんだ」
そう言うと、ゲイルは真剣な表情で周囲を見回す。
「地球と似た環境にありながら地球ではない惑星。こんな不気味な話は早々無いぞ」
「……たまたま、人類が未発見の地球によく似た惑星に不時着した、とは考えられませんか?」
「ありえんな」
エリックの、緊張した様子の問いかけをゲイルは否定した。
「確かにこれまで、人類の宇宙探査において地球に近い惑星。水と大気がある惑星が少ないながらも発見されている。だが、ここまで似ているとなると異常だ。偶然にしても出来過ぎている」
「……じゃあ、ここは、この星は一体?」
不安そうな、弱弱しい声を漏らすエリック。
「生憎、それを考えるのは俺たちの仕事じゃない。今は目の前の事に集中しろ新兵。良いな?」
「りょ、了解っ」
不安や疑問を持つエリック。しかしここは実戦の場だ。エリックはゲイルの真剣な物言いに頷くと、武器を手に改めて周囲を警戒し始めた。
それから更に、あちこちでデータ収集をしていた時だった。
「よぉしっ。これでベースキャンプ周辺のデータは集まったな。お前らっ!ベースキャンプにもどっ」
「いやぁぁぁぁぁぁ……っ!!」
突如としてゲイルの言葉を遮ったそれは、女性の悲鳴。
「「「「「「ッ!!」」」」」」
すぐさまゲイルやエリック、仲間たちは姿勢を低くして円を描くようにして各自の方向を警戒。手にしていたライフルやLMG、ショットガンを構える。
「状況報告っ!」
「1時から3時方向異常なしっ!」
「4時から6時方向異常なしっ!」
「7時から9時方向異常なしっ!」
「じ、10時方向から12時方向、異常なしっ!」
ゲイルの指示が飛び、兵士やエリック達が答える。
「誰か、悲鳴の方向は特定できるかっ!?」
「いえっ!反響していて正確な方向や距離までは……」
「聞こえてきた声の音量からして、恐らく数百メートルの圏内とは思われますが……」
「声の言語解析、出来たかっ!?」
「はいっ!データリンクで艦隊のメインサーバーに情報をアップロード済みですっ!返答は、ッ!来ましたっ!」
「結果はっ!?」
「声の言語はジャパニーズ、日本語ですっ!」
「日本語、だと?」
部下からの言葉にゲイルは眉をひそめた。地球に似た地球ではない星で、聞こえてきた声は日本語、つまり『人類の言語』。ますます増える謎に疑問と戸惑いを覚えたからだ。
『いや、今はそんなことは良い』
しかし彼はすぐさま周囲へと視線を戻した。
「周辺警戒を続けろっ!」
「どうします、隊長?」
彼の指示を受け、周囲を警戒していた兵士の一人が問いかける。
「助けたくても位置が分からないんじゃ話にならんっ!せめて、せめてもう一度声を上げてくれればっ!」
そう思った矢先。
「だ、誰かぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「「「「「「っ!?」」」」」」
再び響き渡る悲鳴。それは先ほどよりも近くから聞こえてきた。そしてそれゆえに大まかな方向の見当がついた。
「聞こえましたっ!7時の方角っ!」
「行くぞお前らっ!状況は分からんが、日本語を使うあたり人間だろうっ!救助に向かうっ!前進っ!」
「「「「「サーイエッサーッ!」」」」」
ゲイルの指示を受け、彼らは声がした方向に向かって走り出した。 パワーアシストを内蔵しているコンバットアーマーの恩恵もあり、飛ぶような勢いで森の中を駆けていくゲイル達。そして約10秒の疾走の直後、彼らの視界が開けた。
森が途切れ、森林の中にあった円形の開けた場所へと彼らは飛び出したのだ。そこで彼らが目にしたのは、緑色の体に粗末な腰布、木製のこん棒を手にした二足歩行の化け物、『ゴブリン』の群れだった。その数は、50匹近い大きな群れだった。
「な、何だこいつらっ!?」
目の前に現れたゴブリンの群れに戸惑うエリック。
「ッ!隊長っ、1時の方角に民間人っ!」
「何っ!?」
部下の報告を聞きそちらに視線を向けるゲイル。見ると、彼らからすれば古めかしい恰好の女性が小さな岩に背中を預けるようにして、ぐったりしていた。
『ギャギャッ!』
『ギギャッ!!』
一方のゴブリンたちも、突然現れたゲイル達に困惑しつつも、威嚇するように棍棒を振り上げている。
「隊長っ!?」
部下の一人が指示を仰ぐべく声を上げた。
「くっ!やむをえんっ!総員兵器使用自由っ!民間人1名を保護するっ!戦闘開始っ!」
「「「「「サーイエッサーッ!!」」」」」
指示を受けた兵士たちが動き出す。
『ドドドドドドドドッ!!』
まずはLMGから放たれたレーザーの雨がゴブリンに降り注ぐ。弾幕による牽制射ではあるが、銃など知らないゴブリンたちは瞬く間に体を高温のレーザーで貫かれ息絶えていく。
『『『『バババババババッ!!』』』』
更にエリックや歩兵の持つEARから放たれたレーザーも、同じようにゴブリンを射殺していく。 ゴブリンたちにとってそれは未知の攻撃だ。たまらずに逃げ出そうとして背中を撃たれる者や、果敢にも棍棒で殴りかかろうとして蜂の巣にされる者。戸惑っている間に射殺される者など、さまざまだ。 ただ、一つ共通しているのは、ゲイル達数人の歩兵相手に手も足も出ない所であった。
「おい新兵っ!俺が援護するから、その間に要救助者の状況確認っ!」
「了解っ!」
指示を受けて駆け出すエリック。更に彼の後を追いながら、ゲイルのEARが援護射撃を繰り出しゴブリンを攻撃していく。
そして、女性の元に辿り着いたエリックはすぐさま彼女の様子や呼吸を確認する。手足や背中、腹部などを軽く触って確認し、傷やそれによる出血が無い事を確認すると、鼻先に顔を近づけ呼吸が安定している事を確認する。
「どうだっ!?様子はっ!?」
「目立った外傷は無しっ!呼吸も安定していますっ!しかし気絶しているもようっ!」
「よしっ!お前は彼女を連れて一旦下がれっ!援護するっ!」
「了解っ!」
指示を聞いたエリックは、気絶した彼女に肩を貸す形で背負い、一旦後ろまで下がった。それを援護しつつ、ゲイルもまた森の淵辺りまで後退する。しかし、二人が下がるころには、50匹近いゴブリンはその殆どが射殺され、わずかに残った数匹が森の奥へと撤退していた。
「敵原生生物、後退しましたっ!クリアッ!」
「まだ油断するなっ!他にもいないとは限らないっ!円陣全周警戒ッ!」
「「「「了解っ!」」」」
ゲイルは指示を出すと、木陰で木に背中を預けるようにして女性を寝かせたエリックの元へと向かった。そこでは、グローブを外したエリックが女性の手首に手を当て、脈を測っていた。
「どうだ新兵。彼女の様子は?」
「改めて確認しましたが、目立った外傷はありません。呼吸、脈拍も安定しています」
「そうか」
女性が無事だった事にゲイルは安堵の声を漏らした。しかしゲイルは、彼女の顔立ちや髪色、肌色を見て違和感を覚えた。
「……こいつは、これまた妙だな」
「え?また、ですか?」
再び聞こえた妙、と言う単語にエリックが戸惑い問いかける。
「あぁ。……さっき、彼女は助けを求める声を出しただろ。何語だ?」
「え?日本語、ですよね?」
「そうだ。……しかし、見てみろ。彼女を。彼女の肌や髪色を」
「は、はぁ」
ゲイルに言われるがまま、彼女へと目を向けるエリック。女性は、古めかしい服装をしている以外、印象的なのは白人に近い肌色と、綺麗な金髪だった事だ。
「ん?……あっ」
そして、それを見てエリックは気づいた。
「この女性、もしかして白人……っ!?」
「あぁ。肌の色や髪色からして、少なくともアジア人じゃないな。かといってアフリカと言う感じでもない。顔立ちや肌の色は、むしろ欧米系に近い。『なのに話してた言語は日本語』だ。……こいつは、妙じゃないか?」
「た、確かに」
どうにもチグハグな相手に、エリックは戸惑いを覚え冷や汗を浮かべながら、よくわからない気絶している女性に目を向けた。
「ただまぁ、分かった事はある」
「え?分かった事って一体?」
しかし次いで聞こえたゲイルの言葉に彼は疑問符を浮かべた。
「少なくとも、彼女は人間だ。そして言語は日本語。服も、随分古めかしいが似たような服を歴史番組で見たことがある。つまり、彼女か彼女の周囲にはこういった服を作る技術や道具があり、それを扱える人間が居ると言う事だ。つまり、この星には『日本語を話せる人間が居る』って事が確定したな」
「ッ。人間が、居る……っ!じゃあここは、少なくとも未開拓の惑星じゃないって事ですかっ!?」
「焦るな新兵。そうと決まったわけじゃない」
ある種の希望的観測によって、エリックは少し嬉しそうな声を上げるが、それをゲイルが窘めた。
「す、すみません。……けど、どうするんですか?彼女は?このままには……」
「そうだな。ここに置いていくのも忍びない。なので、とりあえず仮設ベースキャンプに連絡を取ってみる。新兵、お前は起きた時を考慮して彼女の傍にいてやれ。他は周囲の警戒だっ」
「「「「「了解っ」」」」」
そんなわけで、エリック達はこの星で最初の人間と遭遇する事になった。
一方、少し時間を巻き戻して、キングオブアーサー艦内。
この艦の一室に、『円卓の間』と呼ばれる会議室があった。円形の巨大なテーブルにそって無数の椅子が並べられている。ここは、FD艦隊の幹部クラスとフィルたちが集まって会議をする場だ。全員が集まる場合もあるし、ホログラムのみを展開してリモートで各艦からも会議に参加可能だ。
そして今まさに、その一室に幾人かの人間が集まっていた。会議と言う事で直接この間に足を運んだ者もいれば、リモートで参加した者もいる。
『いやぁすまんすまん。資料をまとめていたら遅くなってしまったわい』
そして、最後にリモートでストアの艦長を務める老齢の男性、『ティム・ストラウト』のホログラムが展開された事で全員が揃った。
「提督、各艦の艦長と各部隊指揮官、全員が揃いました」
「よしっ。では、早速ではあるが緊急の会議を始めるっ」
フィルがそういって周囲を見回す。 今ここに集まっているのは提督であるフィルと、キングオブアーサー艦長であるフィルの右腕でもあるオックス。更に各艦の艦長13人。そして、歩兵部隊であるトルーパー隊だが、トルーパー隊にも分類がある。
従来の歩兵であるアサルトトルーパー隊。砲兵に相当し、野砲などを運営する『ショックトルーパー隊』。衛生管理や負傷者の手当てなどを行う『メディックトルーパー隊』、と言うように役割によって様々なトルーパー隊が存在する。そしてそのすべてのトルーパー隊の総指揮官を務めるのが、『イージス・マクガイア』。筋骨隆々の大男だ。更にイージス以外にも、各トルーパー隊のリーダーである『トルーパーリーダー』達が参加していた。
その数、ウィルに艦長クラスが14人。イージスと各トルーパーリーダーが合計で7人。つまり合計22人が会議に参加している事になる。
「さて、まずは改めて私の口から現状を報告したいと思う。知っての通り、我々フリーダムディビジョンの艦隊は、盗賊団との戦闘の最中に何らかの理由で故障していたでろうディメンションイーターが生み出した特異点、ワームホールに飲み込まれ、この未知の惑星に不時着する事を余儀なくされた。そして、現在も天体位置観測による座標の特定を試みているが、これと言った成果は上がっていない。ただ、幸運な事にこの惑星の大気成分は人類の生存に適した物だ。そこは、ある意味僥倖と言えるだろう。誰か、何か質問はあるか?」
そうフィルが問いかけると一人の白人、ヘッジホッグ1の艦長である『エドワード・ギュスターヴ』が手を上げた。
「提督」
「何だ?」
「現在の所、周囲に我々の脅威となる存在は確認されていますか?」
「いや。今のところ確認されているのは、かつて地球に存在した物と類似性が指摘される生物と、未知の原生生物くらいだ。こちらの兵力を鑑みても、脅威になる確率は低いと考えている」
「成程。しかし、未知の原生生物、ですか?」
「そうだ。オックス」
「はい。なんでしょう?」
「確か外部カメラで姿捉えていたはずだ。あの緑色で二足歩行の原生生物の映像を出せるか」
「はっ。少々お待ちを」
オックスは手元にあったタブレットを操作する。
「中央に表示します。ご覧ください」
そう言ってオックスがタブレットをタップすると、テーブルに囲まれる形となっていたホログラム発生装置から、カメラが捉えた映像が映し出された。
『『『『ざわざわっ』』』』
これには、歴戦の艦長や兵士たちも驚いた様子だった。
「なんだこいつらは?」
「緑色の、悪魔?」
皆、ゴブリンの姿にパニックこそ起こしていないが、未知の生物だけにかなり警戒した様子だ。
「提督、こいつらは一体?」
「分からん。ただ、映像を見て貰えばわかると思うがこいつらは粗雑な腰布と棍棒程度しか持っていない。しかし逆に言えば、武器を持つ事などは出来る、と言う事だ」
「この変なのにそれくらいの知性があると?」
「あぁ」
エドワードの言葉に彼は頷く。
「しかし、見たところ弓の類の武装もありませんね。そう考えればこいつらの知性は相当低いのでは?」
そう語るのはガルーダの女艦長であるマイヤーだ。
「マイヤーの意見も最もだが、原生生物とは言え侮ると危険だ。それにこいつらがこちらを恐れて攻撃してこない、とも限らない。なので3か所のベースキャンプは交代でドローンによる警備網を敷くのと同時に、歩哨も立てるようにしておいたほうがいいだろう。監視の目は多い方が良い」
「分かりました」
マイヤーがフィルの言葉に頷くように、他の艦長や兵士たちも頷く。
「ほかに質問は?」
「それでしたら一つ」
そう言って手を上げたのは、トルーパー隊総指揮官のイージスだ。
「提督は、今後に向けて何か目標などはお持ちなのですか?目的や目標も無くここにとどまるのは兵の士気にかかわります。ただでさえここがどこかも分からないのですから」
「そうだな。イージスの言葉も最もだ。ただ、だからと言って無暗にあちこち飛び回ってもどんな危険と遭遇するかは分からない。なので、当面はまず何よりも、慎重に情報収集だ。『この惑星に我々の脅威となる存在が居るのか?』。これが最優先される調査事案だ。驚異となる存在が居ないのであればそれでいい。だが居た場合は、対処なども考えなければならないからな。これで良いか」
「はい。問題ありません」
彼は納得した表情で頷いた。
「ほかに何か質問は?」
とフィルが声をかけるが、今の所何もないのか誰も何も言わない。
「よし。では次、艦隊の状況についての説明をしてもらおう。まずは各艦の損害状況だが、これはオックスの元に情報が集められているので、オックス。頼む」
「はっ」
彼はそういうとタブレットを手に立ち上がった。
「まず、各艦の被害ですが、こちらは皆無です。ワームホールによる転移後も各艦のAIが稼働したおかげで不時着は免れていましたし、宙賊との戦闘でも目立った被害はありませんでしたので、ほぼ無傷と言って差し支えないでしょう」
「ありがとうオックス。では次、メディックトルーパーリーダーのレイナから、負傷者についての報告を」
「はいっ」
フィルの言葉を聞き、凛とした声とともに立ち上がったのはメディックトルーパーリーダーである女性、『レイナ・シェリースカ』だ。
「負傷者に関しては、全員が転移した直後、気を失った際に転倒したために負ったと思われる打撲や捻挫が主なものです。運悪く骨にひびが入った者も若干名居りますが、大半は今言った打撲や捻挫と言った軽傷の者が殆どです」
「ありがとうレイナ。次は物資について。ストアのティム艦長から。お願いします」
「はいはいっと。え~っと、まずは武器弾薬とかについてじゃが、こちらは厳重に固定してあったのですべて無事じゃ。嗜好品の大半も無事じゃ。被害と言えば、酒瓶がいくつか割れて酒が流れちまった事くらいかのぉ」
「そうですか。所で、ナノマシンを使った製造機、あれが動くか確認をお願いしたと思いますが、どうですか?」
「あぁ。大丈夫じゃよ。さっき試運転をして問題が無い事は確認済みじゃて。問題なく使えるわい」
「そうですか。ではストアに搭載されているソーラーパネルはどうです?あれが動き続ける限りは、エネルギー補給の問題はありません」
彼の言うソーラーパネルとは巨大な補給艦であるストアの船体のあちこちに搭載されている物の事だ。ストアの役割は物資を運ぶ事であると同時に、巨大なバッテリーのような物なのだ。有事の際、具体的には長期間にわたって補給が受けられない場合にはストアから他の艦にエネルギーなどを供給するために、フィルの提案で改造が施されていたのだ。 そもそもナノマシンを使った製造機も、そのために高い金を払って購入したのだ。
「あぁ。そちらも大丈夫じゃよ。倉庫に押し込んである予備パーツも無事じゃし、パネルそのものにも被害は無い」
「であれば、ストアのエネルギーで製造機を動かし、銃弾や武器の予備パーツは作れますね」
「そうだな」
イージスの言葉にウィルは頷く。最低限、弾と武器さえあれば戦闘は出来るからだ。
「ただ、それだけでは意味がありません」
しかし一方で医療に携わるレイナは小さく眉をひそめていた。
「あれが作れるのは銃火器やパーツと言った無機物です。あれでは食料は作れません。ティム艦長」
「ん?なんじゃ?」
「嗜好品や非常食を含めて、ストアには艦隊の全員が、どれくらいの間食べられるだけの備蓄がありますか?」
「うぅむ。少し待っておくれよぉ」
そう言ってティムのホログラムは画面外へフェードアウトし何かを探す。
「確かここ最近の報告書がこの辺りに~。おぉあったあった」
やがて何かの紙書類を手に戻ってくるティム。
「えぇっとぉ。ふぅむ。そうさのぉ。全員がしっかり食べる、となると味は悪いが栄養価が高い非常食込みで6か月か7か月と言った所じゃのぉ。節約すれば何とか1年、と言った所かの?」
「ありがとうございます。お聞きの通りです、提督。今ティム艦長がおっしゃった数字が、食料の補給が出来ない場合の私たちの限界です」
「そうだな。ただ、先ほども話したが、この惑星には地球に存在した物と似た原生生物が居る。捕らえるなり倒すなりして調べない事には分からないが、安全だった場合には食料の確保の一環として狩猟を行う事も想定している」
「ですが提督。艦隊全員となると、とても狩猟だけでは……」
「うむ。数万の人間の腹を満たす事は出来ないだろう。だが、我々の最終目的はこの惑星からの帰還だ。当然、この惑星に長居をするつもりはない」
「そのためにまずは、情報収集、ですかな?」
「そうだ」
イージスの言葉にウィルは頷く。
「脅威となる存在の有無の確認と、合わせて現在地の確認。我々の居た銀河への帰還。それらが我々の今後の仕事と……」
そう話していた時だった。
『ビーッ』
「ん?」
不意に円卓の間のドアから、入室を求めるベルの音が聞こえてきた。その音にフィル以外の面々もドアの方へと目を向ける。
『会議中に申し訳ありません。実は周辺の地図データを取得しマッピングを行っていた部隊から緊急の連絡がありまして』
マイクを通して聞こえる、オペレーターの少し焦ったような声。
「緊急の連絡?よしっ、入室を許可するっ」
焦りを見せる声色にフィルは若干眉をひそめながらも入室を許可した。
「失礼しますっ!」
すぐさま扉が開かれ、オペレーターの一人が緊張した面持ちで入ってくる。
「それで、その連絡の内容と言うのは?」
「はっ!な、何でも部隊はマッピングの最中に原生生物と遭遇し、これと戦闘になったと」
「何っ!?」
戦闘、と言う単語に反応するイージス。
「まさかこちらに死傷者が出たのかっ!?」
「い、いえっ!報告では原生生物は部隊の攻撃に、手も足も出ずに撤退っ。部隊に被害は無いとの事でしたっ!」
イージスの怒鳴るような大声に戸惑いながらも報告するオペレーター。
「では一体、何が緊急だと言うんだ?」
「そ、それが。彼らが言うには、『人間の女性を保護した』、と」
「ッ!?何っ!?」
オペレーターの言葉を聞き、さしものフィルも予想外の内容に驚いていた。オックスや他の面々も、驚いたり、状況の変化に眉を顰めたりしていた。
「もっと詳しく聞かせてくれっ」
「はっ!なんでも、原生生物に襲われていた女性を救助したとの事ですっ。ですが女性は気絶しているため、安全のために可能であればベースキャンプに連れていきたい、との事でしたが……」
「どうしますか?提督」
すぐさまオックスがフィルに問いかけた。更に他の面々も、静かに彼の言葉を待っていた。
やがて……。
「レイナ」
「はっ」
「その女性が未知の病原体を持っている可能性がある。直ちにCチームのベースキャンプに検疫所を作ってほしい。帰還した部隊員の検査と装備の洗浄用意もだ。それとイージス」
「はっ!」
「彼女を艦に入れるわけには行かない。なので仮説の部屋もベースキャンプ内部に作ってほしい」
「「了解っ!」」
「では提督」
「あぁ。……例の女性をベースキャンプに連れてくる事を許可する。すぐに部隊へ連絡を」
「了解っ!」
オックスの言葉に頷き、フィルはオペレーターに指示を飛ばす。オペレーターは敬礼をすると、足早に円卓の間を退室していった。
「この星に、人間が居たのですね」
「あぁ」
オックスの言葉にフィルは頷くが、その表情は険しい。
『人類が居るのに、不明なままの天体観測からの惑星座標。データベースに存在しない未確認の原生生物。謎は深まるばかりだな』
彼にとってはますます深まる謎。その謎が未だ解けずにいるために募る不安。それが彼の表情が険しい理由だった。
そしてこれが、彼らFD艦隊と異世界人の、ファーストコンタクトである事を彼らはまだ知らない。
第3話 END
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