第1話 窮鼠猫を噛む
楽しんで頂ければ幸いです。個人的に好きな物を好きなように組み合わせた作品です。
それは突然始まった物語だった。交わる事の無い存在が交わる、物語である。
片方は、剣と魔法にモンスターが跋扈する王道とも言うべきファンタジー世界。
もう片方は、近未来の世界で大きな艦隊を持つ傭兵集団。
これは、ファンタジー世界に、とある事件で未来の艦隊が漂着した事から始まる物語である。
~~~~
とある銀河の、暗礁宙域。
無数の岩の欠片、いわゆるデブリが密集する宙域。本来ならば宇宙を行き交う船が通る事など無い宙域だ。如何せんデブリと言えど船体にぶつかれば損傷や事故にも繋がる。ここを通る船など殆ど無い。
何かやましい事をしている連中や、或いはそれを討伐しようとする者達でなければ、だが。
そして今、その後者に当る艦隊がゆっくりと暗証宙域を進んで居た。一糸乱れぬ綺麗な隊形を維持したまま、無数の艦影が漆黒の宇宙を飛んでいく。その統率の取れた動きからも、巨大な船を動かす兵士達の力量の高さが見て取れる。
そしてそれこそが、傭兵世界で知らぬ者などいないと言われる最大にして最高の傭兵集団、『フリーダムディビジョン』の艦隊である。
艦隊に属する船の数は全部で14隻。
艦隊の旗艦、『アレクサンドロス級Ⅲ型宇宙戦艦』、『キンブオブアーサー』。
艦隊の防空任務を担う駆逐艦、『アマテラス級宇宙駆逐艦』8隻。
艦隊の攻撃を担う巡洋艦、『ヘッジホッグ級宇宙巡洋艦』2隻。
攻撃機などを擁する空母、『パシフィック級宇宙空母』、『ガルーダ』。
物資を満載した輸送艦、『ブラックタートル級大型輸送艦』、『ストア』。
数多の兵士達の家であり、安らぎの場所である『ガイア級人員輸送艦』、『ホテル』。
その合計14隻からなる艦隊が暗証宙域を進んで居た。旗艦キングオブアーサーを戦闘に、周囲を固める4隻のアマテラス級と2隻のヘッジホッグ級。その6隻に守られる形となっているガルーダ。
その少し後ろを、4隻のアマテラス級に守られているストアとホテルが続く。
~~~~
キングオブアーサー艦橋。その艦長席に座るのはスキンヘッドの黒人だった。彼は自分のシートの端末から周辺の宙域図を呼び出し、真剣な表情でそれを見つめている。しかしそれも必然だ。何故なら彼等はここに、この宙域に依頼で来ている。つまり、戦いに来ているのだから。
「周辺宙域への警戒を厳と為せっ!もう何時接敵しても可笑しくは無いぞっ!」
「「「「「了解っ!」」」」」
彼の指示に航行士やオペレーター、レーダー管制官などが答える。皆シートに座り、目の前のモニターを見つめている。ある者は光学観測のデータを調べ、ある者はレーダーのモニターと睨めっこしている。
『プシュッ』
「どうだ様子は?」
その時、艦橋後方のドアが開き、一人の初老の男性が現れた。白髪姿の男性は無重力の中を、まるで泳ぐように艦長席の所まで飛んできて、その背もたれに掴まる。無重力の訓練でプールなどを使う事はあるが、泳ぐように自由自在に無重力空間を移動するのは独特の馴れが必要だ。その馴れた動きが、彼がどれだけ宇宙で過ごしてきたのかを物語っていた。
「提督。もう休憩はよろしいのですか?」
「数時間は仮眠を貰った。十分だ。それより、状況は?」
提督、と呼ばれた男性はそう言って艦長席の隣にあるシートへと滑り込み、シートベルトで体を固定する。
「現在暗証宙域を移動中。各艦のレーダー及び光学観測において敵影を認めず。目標の海賊艦隊は未だ発見には至っていません」
「分かった」
提督は、艦長の言葉を聞き自分のシートに小さな宙域図を呼び出した。宙域図に浮かぶのは大小様々なデブリばかり。この付近に惑星が一つあるが、そこは木星などと同じガス惑星だ。とても人が住める惑星ではなく、そのためテラフォーミングもされていない未開拓惑星だ。なので、本来この辺りに人気というものはない。……だからこそ隠れるために絶好の場所とも言えるのだ。
しばし宙域図を見つめていた提督。
「提督。一つ進言したい事が」
「ん?どうした?」
「船を一隻、損傷した民間船舶に偽造させて餌にするのは如何でしょうか?」
「それはダメだな」
「何故です?」
艦長の提案を提督は即座に却下した。艦長はそれに首をかしげている。
「暗証宙域で損傷した民間船舶など、怪しすぎる。それにこの辺りは主要な航行ルートから大きく外れている。少しでも警戒心の強い敵兵がいれば怪しまれる恐れがある。……それに、そもそも必要は無い」
「と、言うと?」
「これまで私達が戦い、倒してきた宇宙海賊は大別すると2種類のパターンがある。片方は極度に慎重な奴。どれだけ撒き餌を撒こうが徹底的に疑い、少しでも引っかかりがあれば絶対に乗ってこない連中。もう片方は、特に考え無しに、行けると思ったら向かっていく連中だ。この手の連中は計画性が無い。そして今回の敵は、やり口からして無計画に民間商船などを襲っていた様ようだ。となると……」
「レーダーに感ありっ!9時の方角に艦影多数っ!艦影を登録されたデータと照合中っ!」
「データ来ましたっ!間違いありませんっ!ブルドッグ級駆逐艦と断定っ!」
「光学観測で船体に髑髏マークを確認っ!目標の宇宙海賊ですっ!」
矢継ぎ早に報告を上げてくるオペレーター達。しかし敵との接敵だと言うのに、落ち着いている提督と艦長。
その態度が、彼等の戦いへの『馴れ』を表していた。
「成程。つまり今回の敵は後者。考え無しに向かってくる連中という訳ですな」
「あぁ。だが、だからと言って油断していれば食われるのはこちらだ」
そう言うと、提督はシートにあったマイクを掴んで叫んだ。
「旗艦キングオブアーサーより艦隊各艦、総員へ伝達っ!」
その声は彼等の艦隊の通信チャンネルを通して発進され、全艦のスピーカーを介して数多の兵士達の元へと伝わった。皆、作業を止めたり足を止めたりして放送に耳を傾けている。
「敵艦が出現したっ!予定通りだっ!今回の我々の任務は、この海賊艦隊の撃滅であるっ!総員、直ちに第1戦闘態勢っ!各艦砲座は射撃用意っ!歩兵各員は敵艦制圧のため、戦闘準備の上で出撃用意っ!皆、戦闘開始だっ!」
「「「「はっ!!!」」」」
提督の言葉にブリッジにいた兵士達が答える。
「おいでなすったっ!」
「行くぞ野郎共っ!戦闘開始だっ!」
「「「「「おおっ!!」」」」」
更に声は聞こえずとも、各艦に居た兵士達も雄叫びを上げながら動き出した。
そして、戦いは始まった。
キングオブアーサー内部・CIC。そこは船の火器管制を行う場所だ。
「ブリッジより敵艦隊の座標データ来ましたっ!」
「よぉしお前等っ!おいでなすったぞっ!砲撃戦用意っ!」
CICをまとめる室長の声が響く。
「敵の数は!?」
「確認出来るだけでブルドッグ級駆逐艦を4隻ッ。あとは小型の航宙艇が多数っ!」
「けっ。海賊の割にゃぁ結構なモン持ってるじゃねか。だが相手が悪かったなっ。オラお前等っ!連中が誰にケンカふっかけたのか教えてやれっ!」
「「「「イエッサーー!!!」」」」
「敵艦隊座標データ入力ッ、主砲1番2番、エネルギー充填79%ッ!間もなくチャージ完了っ!」
「ミサイル発射管、装填完了っ!いつでも発射出来ますっ!」
「まだ撃つなっ!どうせこの距離だっ!ミサイルは撃っても迎撃されるだけだっ!」
室長は叫び、インカムを手に取る。
「こちらCICッ!ブリッジへっ!こちらは攻撃準備完了っ!いつでも撃てますぜっ!あとは提督の号令待ちでさぁっ!」
「了解した。オペレーター、僚艦の状況は?」
「巡洋艦ヘッジホッグ1、及び2。両艦共に主砲発射態勢ですっ!ミサイルも装填完了っ!いつでも行けますっ!」
「ッ!高熱源体接近っ!ミサイルですっ!」
攻撃を感知したオペレーターが叫ぶ。
「迎撃っ!対空防御っ!」
咄嗟に叫び返す艦長。
その叫びに答えるように、4隻のアマテラス級に搭載されている速射ビーム砲がビームの雨を放ち、飛来するミサイルを迎撃する。放たれたミサイルは、アマテラス級4隻の高い防空能力を突破出来ず、全てがビームによって迎撃された。迎撃されたミサイルが爆発し、漆黒の宇宙を光が染め上げる。
「敵ミサイル迎撃成功っ!撃ち漏らし無しっ!艦隊に被弾無しっ!」
「気を抜くなよっ!次は恐らく主砲の有効射程内まで詰めてくる気だぞっ!」
オペレーターの報告にそう怒鳴り返す艦長。
「オックスッ。敵のブルドッグ級は足こそ速いが、ミサイル以外に長距離攻撃手段を持たない。向こうが距離を詰めてくる前に我が艦と巡洋艦の計3隻で集中砲火を行う。向こうのレンジに入られる前に、潰すぞ。攻撃を開始せよっ」
「了解です提督っ!」
オックス、と呼ばれた艦長が頷く。そして彼はインカムを掴んだ。
艦隊同士の通信は、この距離なら問題無く行える。
「ヘッジホッグ1及び2へっ!こちらの主砲斉射に合わせて攻撃を開始しろっ!」
『『了解っ!!』』
2隻の艦長から異口同音の返事が返ってくる。更にオックスは無線を切り替えてCICへと繋げる。
「CICッ!艦長より攻撃許可が出たっ!主砲は狙いを付け次第射撃開始っ!相手が有効射程まで詰めてくる前に少しでも潰せっ!」
『了解っ!さぁてぶっ放すかぁっ!』
インカムの向こうでCIC室長の笑い声が聞こえてくる。それを確認するとオックス艦長は一旦インカムを置く。
「オペレーターッ!ガルーダの攻撃機と強襲揚陸艇の準備状況はっ!?」
「既に攻撃機は発艦準備完了っ!いつでも出せますっ!」
「強襲揚陸艇へのトルーパー搭乗率は現在63%ッ!後数分で全員の乗り込みが完了しますっ!」
「搭乗を急がせろっ!艦隊戦の結果次第では、敵艦への突入と戦闘が予想されるっ!全兵士に武装とアーマーのチェックをするように念入りに伝えておけっ!」
「はっ!!」
「ッ!敵ミサイル第二波ッ!来ますっ!」
「迎撃っ!一発も撃ち漏らすなっ!!」
砲声とミサイルの爆発の振動、怒号が飛び交う中で、提督、『フィルバート・マキシム』は冷静かつ鋭い視線で、静かに戦場の状況を映し出すモニターを見つめていた。
~~~~
一方その頃、艦隊の中央に浮かぶ空母、ガルーダでは艦載機及び、兵士を乗せた強襲揚陸艇の準備が進んでいた。
強襲揚陸艇の役目は、宇宙での戦いにおいて敵の戦艦や宇宙ステーションなどの施設に兵士を送り込み制圧する事だ。そのため、ガルーダの格納ブロックでは武装した兵士達が慌ただしく動き回っていた。
「第1アサルトトルーパー隊は1番機へ搭乗確認っ!」
「2番機も第2アサルトトルーパー隊の搭乗確認っ!いつでも出せますっ!」
「こちら3番機っ!こっちも今しがた客は全員乗せたぜっ!いつでも出撃出来るっ!」
「こちら4番機っ!もう少し時間をくれっ!あと2分、いや1分で全員乗り込むっ!」
船の運用や揚陸艇の運用に関わる兵士に、物資を運ぶ兵士。更に揚陸艇に乗り込み、敵と戦うことが本職の兵士達、つまり歩兵の立場にある『アサルトトルーパー』部隊の兵士達が慌ただしく動き回っていた。
戦争によって発達したボディアーマーの技術は、やがて『コンバットアーマー』と呼ばれる物を生み出した。このコンバットアーマーには特殊なフィールド発生技術によって敵の銃弾をある程度逸らす事が出来る機能や、人間のパワーや脚力を強化するパワーアシストとしての機能などが搭載されている。言わば、近未来の鎧であった。もちろん宇宙空間での活動を想定した高い機密性と、各部に小型のスラスターを搭載している。
そしてこのFD艦隊では宇宙戦闘での隠密性を維持するため、歩兵であるアサルトトルーパーのコンバットアーマーはカラーリングが黒で統一されていた。
そんな中で1番機の腹の中で、緊張しているのか体を震わせている者がいた。
「おい新兵、大丈夫か?」
「ッ、は、はいっ。大丈夫、です」
それに気づいた先輩らしき兵士が心配そうに彼の肩に手を置く。新兵と呼ばれた兵士は先輩を心配させまいとそう帰すが、とてもそうは見えなかった。
「ははっ、無理も無い。確かお前、今回の戦闘が初陣だろ?」
「うっ、……はい」
初陣という単語に、彼は気まずそうに頷く。
「まぁ心配するなってっ!実戦じゃ俺達がフォローしてやるからなっ!」
そう言って隣に居た先輩が、メットの下で笑みを浮かべながら彼の背中を軽く叩く。
「よ、よろしくお願いしますっ」
彼、『エリック・フューラー』は戸惑いながらもそう声を上げる。……しかしどれだけやる気や覚悟を持とうとも、やはりその手の中にある武器の重さだけは、どうしようもなく彼の手にのし掛かっていた。
そして彼等が格納庫の揚陸艇の中で来るかも知れない出番を待っている頃。外では艦隊戦が続いていたが……。
~~~~
「主砲命中っ!敵ブルドッグ級1隻大破っ!残り艦影は2隻っ!」
「敵の小型艇はどうなっているっ!?」
「先ほどの、ヘッジホッグ2隻からのミサイル攻撃によって大半は撃墜っ!現在はアマテラス4隻からの対空防衛網が接近を拒んでいますっ!小型艇の残存数は、遭遇時の36%まで低下っ!」
次々と状況は変化し、オペレーター達から報告が上がってくる。
「……敵艦隊の残り2隻の動きは?」
「はっ!現在は我が艦隊の近傍を周回し、デブリを盾にしつつ断続的にミサイルによる攻撃を行っていますっ!」
フィルバート提督、通称『フィル』提督の言葉にオペレーターが答える。
「連中、退く気は無いようですな」
「あぁ」
艦長、『オックス・テッドナム』の言葉にフィル提督は頷く。
「ここまで追い詰められれば逃げ出すと思われましたが、予想以上に敵方のトップは頭が弱いようだ」
「かもしれないな。が、どのみちこの状況では逃げようと転進した所で背中をガルーダの艦載機に追撃されるのがオチだ。かといって我々の艦隊とすれ違い後方に逃げようとしても、アマテラス4隻とこの旗艦、ヘッジホッグ2隻の間を縫うように抜けるのも至難の業」
「……連中はもう既に詰んでいると」
「あぁ。だが油断するなよオックス。『窮鼠猫を噛む』という諺もある。油断して噛みつかれてはならん。最後まで慎重にな」
「了解です提督」
~~~~
熟練の兵士である彼等に油断は無かった。相手は艦艇を持っているとは言え宇宙海賊。現に海賊は既に虫の息。あと少しすれば決着も付いて、この仕事も終わるだろう。でなくとも、敵の足を止めて歩兵を送り込めば終わり。殆どの者達はそう思っていた。
だが、彼等は知らなかった。海賊が、とある兵器を持っていた事を。
「ッ!敵艦より小型艇1隻発進を確認っ!」
「何っ?進行方向は?まさか逃げたのか?」
「いえっ!真っ直ぐ艦隊に向かって来ますっ!それと、艦艇の底部に謎の大型ミサイルを確認っ!」
「何っ!?まさか、特攻をしかけるつもりかっ!」
「直ちに迎撃っ!アマテラス各艦に優先して迎撃させろっ!」
驚くオックスよりも先にフィル提督が指示を飛ばす。
謎のミサイル、など不安要素以外の何者でもなかった。すぐさま旗艦と艦隊を守るためにアマテラス各艦のビーム砲が迎撃のビームを放つが……。
「ダメですっ!謎のミサイルからエネルギーフィールドの発生を確認っ!これがミサイル本体と小型艇を守る盾となっており、ビームが歪曲してしまいますっ!」
「何だとっ!?」
「まさか、先日軍の輸送船が難破し、損傷した船の格納庫が開けられていたと言う話があったが。あの船から略奪したのが奴らかっ!」
まさかの事態。予想を上回る出来事に流石のフィルも少なからず動揺していた。しかしすぐさま思考を切り替える。
「全艦に通達っ!迎撃が無理ならば被害を最小限に抑えるため、必要なエネルギー以外全てを搭載しているシールド発生装置に注力させろっ!少しでもダメージを軽減させるんだっ!!後方のアマテラス4隻とストア、ホテルの6隻は今すぐに方向転換っ!少しでも爆心地から遠ざけるんだっ!」
「「「「りょ、了解っ!」」」」
フィルの咄嗟の判断と指示に従い、オペレーター達が即座に僚艦へと指示を飛ばす。
指示を受け、前衛となっていたキングオブアーサー、アマテラス級4隻、ヘッジホッグ級2隻、空母ガルーダの船は搭載されているシールド発生装置に可能な限りのエネルギーを注ぎ込んだ。エネルギーが注ぎ込まれ、船体を覆うようにそれぞれの船が淡い水色のエネルギーに包み込まれた。
距離を置いて前衛に続いていた4隻のアマテラス級とブラックタートル級のストア、ガイア級のホテルもスラスターを吹かして転進しようとしている。
「敵小型艇っ!来ますっ!」
「総員、対衝撃姿勢っ!」
即座にオックスが指示を出す。
艦隊へと迫る小型艇は、艦隊の横をすり抜けるように飛んでいく。そして、艦隊を通り越した直後。
『カッ!!!』
小型艇の腹の下に括り付けられていた謎のミサイルが炸裂した。直後、光を飲み込むようにミサイルから黒い物体がにじみ出してきた。それは小型艇を飲み込み、更に宇宙の闇をも喰らいながら拡大していく。
そう、それはまるで……。
「小型艇の抱えていたミサイルが爆発しましたっ!しかし、これはっ!」
「何だっ!?報告しろっ!」
「み、ミサイルは、『ディメンションイーター』ですっ!」
「ッ!?空間を切り裂く、次元兵器だとっ!?そんな物を軍の奴らは奪われたのかっ!!」
オペレーターの言葉にオックスが叫ぶ。
ディメンションイーターとはつまり、空間を喰らう者。空間『そのもの』を破壊する兵器だ。当然、起爆したディメンションイーターの加害範囲に居た存在は、『空間そのもの』から消滅する。……ただし、『本来ならば』、だ。
「ディメンションイーターの起爆地点で空間の歪みを確認っ!これは、特異点ですっ!ワームホールの発生を確認っ!!!」
次第にガタガタと揺れる艦橋の中でオペレーターの叫びが響き渡る。
「何だとっ!?ディメンションイーターは確か、疑似的にブラックホールを発生させる物だろうっ!なぜワームホールが発生するっ!!」
「分かりませんっ!ミサイルのシステムに異常でもあったのかっ!?」
オックスの言葉に応えられるだけの知識をオペレーターの男性は持っていなかった。
「その事は良いっ!それより現状はっ!」
「現状、ワームホールより謎の重力波を検知っ!前衛の8隻だけでなく、後方の6隻も重力波に掴まりましたっ!船体が引っ張られていますっ!」
「最大船側で現宙域からの離脱を図れっ!」
「だ、ダメですっ!重力場の力が強すぎて、足の速いアマテラスでも離脱は無理ですっ!」
そう報告を聞いている間にも、船体がワームホールへと吸い寄せられていく。全艦、何とか逃げ切ろうとスラスターを吹かすが、足の遅い船からジリジリと引き込まれていく。
そして……。
「ストア及びホテルっ!それにガルーダもっ!次々とワームホールに飲み込まれていきますっ!!」
「クッ!?……ここまで、かっ!」
まさかの事態、予想外の出来事に、フィルは奥歯を噛みしめながら、ギュッと拳を握りしめていた。
そして、そんな彼の視界が、突如として真っ白になったかと思った次の瞬間、暗転して意識を失ってしまったのだった。
誰もが、死と終わりを悟った状況だった。しかしだからこそ、誰もが思いもしなかった出来事が起こった。
異世界に転移してしまったと言う現実を。誰も思い描く事など出来なかった現実が、彼等を待ち構えていたのだった。
第1話 END
感想や評価、ブックマークなど貰えると大変励みになりますので、よろしくお願いいたします。