組み込まれない歯車
世界はいつだってかみ合わない。僕と皆の価値観は乖離し、君が希望を抱く時、僕は絶望に打ちひしがれていた。
今日も一人ネオンの街並みを歩く。すれ違う人々が僕の方を見て連れと何か喋っている。嘲笑の声が耳に届く。
集団はどうも異端を排除しようとする傾向にあるらしい。コンクリートが傷ついた素足に滲みる。
家まで、なんとか戻ることができた。
傷だらけの肢体を眺める。治療が出来ないために変に残ってしまった傷跡が生々しい。生きることを恥じろと言うかの如く、それは永遠に残っている。
僕は決めた。異端である事が罪なら、その証を剥いでしまえばいいと。痛みはとうに忘れた。
包丁を握りしめた手が震える。意を決して、それを背に突き立てた。今までの比ではない痛みが電流のように全身に走る。しかし、止めてはならなかった。その刃を、さらに内側に進める。
押し殺した声が漏れる。鮮血が薄汚い壁紙を汚した。
*
彼は綺麗だった。いつも同じ場所を歩いている彼は、異端として苦しみを受け続けていた。しかし私は救うことが出来ないままだった。
私は愛していたのだ。異端の──、翼の彼を。
しかし、ある日彼はそれを無くした姿で、代わりに服の背に血を滲ませて現れた。足元が覚束無い。大丈夫か、と思う矢先に彼は体を大きく揺らし、倒れた。
私は彼に駆け寄った。縋るように伸ばされた手を、私は払った。驚愕する彼。そっと囁く。
「それだけで人は貴方を判断しない。対応が変わる訳ではない。私は前の貴方の方が好きだったけど。貴方はそれさえも手放した。貴方の味方は、何処にもいないんだ」
だって、そうでしょう。絶命へ向かっていく彼に呟く。
「可哀想に」
その声が、ひどく優しく響いた。