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溢れる中二魂~死霊術士大戦 round.2~


「そこだ、大巨人!スーパー死霊パンチをお見舞いしろ!!」

「―――甘いぞ、魔女!大巨人、こっちも超死霊パンチを食らわせてやれ!」



 大巨人が拳をお互いの顔に叩き込む。水っぽい音がして、何か得体の知れないものが飛び散る。……恐らくユーリも同じ事をしたのだろう。ガレスは自分に向かって飛んでくるなにかを回避しながら彼女たちの攻防をただ眺めていた。


 使う魔術だけでなくそのセンスまでも同じとは。お前ら良い友達になれるんじゃないか?



「そこだ、大巨人!あの出来損ないを羽交い締めにしろ!」

「―――大巨人よ!相手の視界を塞ぐのだ!目だ、目を潰せ!」



 エルナの大巨人が背後に回って羽交い締めにしようとするが、ラブレスの大巨人は巧みに回避する。振り返ると同時にいつの間にか掴んでいた瓦礫を顔面目がけて思い切りぶつける。体勢が崩れたところでラブレスの大巨人は続けざまに拳を叩き込んだ。リズミカルに打ち込まれた拳はエルナの大巨人の身体にクッキリと跡を残す。


「怯むな、大巨人!スーパー大巨人アタックだ!」


 更なる追撃を試みようとするラブレスの大巨人に対して、エルナの大巨人も仕返しとばかりに掴んだ瓦礫を投げつける。瓦礫は顔面にキレイに直撃し、大量の土埃を出すと同時にわずかな隙を生み出す。


「お前ら顔面狙うの好きだなぁ……」


 瓦礫の上に座り込んだガレスがのんきな声をかける。


「まだまだ、今こそ決めてやろう!大巨人、行くぞ!」


 エルナが振りかぶると、彼女の影のように大巨人も同じ動きを取る。



「ハイパー死霊アタ―――ック……」

「―――臆するな、大巨人よ!突き進むのだ!」



 エルナの台詞を遮るようにラブレスが叫んだ。彼女の大巨人がすぐさま立ち直り、エルナの大巨人目がけて突進を仕掛ける。


「―――貴様のハイパーを上回るウルトラ死霊プレスを受けるがいい!!」


 大巨人がその巨体からは想像つかない跳躍を見せた。それまでのんきに二人と二匹の戦いを眺めていたガレスもこれには驚いたのか、開いた口が塞がらないといった様子であった。


「―――どうだ、深淵の魔女よ!止められるものならば止めてみるがいい!!」

「良いだろう、今はその安い挑発に乗ってやる!」


「おいバカ、ここでその技を使うんじゃない!」


 ラブレスの言葉にエルナも応戦する。宙に飛び上がった大巨人に向けて杖をかざす。ガレスが慌てて止めようとするが、それよりも早くエルナは叫んだ。


「大巨人よ、スペシャルデラックス死霊大砲だ!!」


 エルナの大巨人の口が割れんばかりに開き、その中に潜むウジャウジャとしたおぞましいものが輝きと共に一斉に放たれる。ラブレスの大巨人はその輝きの中に飲み込まれ、やがて消えていったが、天に向かって放たれた大砲は迷宮の壁を呆気なく突き破り、多くの瓦礫がガレスたちに容赦なく降り注いだ。


「バカ野郎―――!!」

「だって挑発されたんだぞ!?ここで乗らなければ死霊術士として失格だ!」

「お前はすでに人間として失格だよ!」


 巨大な瓦礫が大巨人をいとも容易く踏み潰してしまう。ガレスは慌ててエルナを抱え上げて逃げるが、この部屋に来るために通った魔法陣はすでに瓦礫によって塞がれてしまっている。マズい。走り回って熱くなっているはずの身体がスーッと冷たくなっていく感覚があった。降り注ぐ瓦礫を何とかくぐり抜けてはいるが、このままではやがて限界が来てしまう。どうすればいい。


「―――ハハハ……(グスッ)瓦礫に埋もれてしまうが良い!!」

「……なんか君、泣いてない?」

「―――な、何のことだ?私は泣いてなどいない!まさかそんな技を使ってサイクロプスの間をめちゃめちゃにするなんて思っていなかったとか、そんなことは一切考えてはいない!!」

「ああ、なるほど。そう考えていたのか……」

「―――なんだその顔は!?もういい!貴様らはさっさとそこで生き埋めにでもなってしまえ!死んだら私の僕に加えてやるからな!」


 投げやりな言葉を最後に声は途切れてしまった。降り注ぐ瓦礫を躱しながらガレスが言う。


「……なにか手はないのか、エルナ?」


 ガレスに抱えられたまま、エルナは神妙な面持ちで口を開いた。


「ふむ。……あの魔獣の正体はサイクロプスだったのか。僕としたことが判断を誤ってしまうとは……」

「知っていたよ、お前がそんな顔をしている時にはそんなことしか考えていないことくらい!!」

「なっ!?お前こそ僕にばかり頼っていないで自分で考えたらどうなんだ!?」

「どうすることもできないから言っているんだろうが!」


 言い争っている間にも瓦礫が二人目がけて落下する。辛うじて回避するものの、バランスを崩したガレスがエルナごとつんのめって地面を転げ回ってしまう。


「くそ……このままじゃ本当に生き埋めになってしまうぞ」

「その前に僕はお前に潰されて死ぬんじゃないのか?」

「のんきなことを言っている場合か!……何とかしないと」

「なあ……ガレスよ。こんな時にこんなことを言うべきではないのかもしれないが……」

「なんだ、辛気くさい台詞なんか聞きたくないぞ!?」

「いいや、そんな事じゃ無い。だが、こんな状況とはいえ……」


 曖昧な言い回しに、ガレスも思わずやきもきとしてしまう。


「なんだ!?打開策でもあるのか?」


 こんな状況下ではどんなに口には出しづらい作戦でも実行しないわけにはいかない。ガレスはわらにも縋る気持ちでエルナに詰め寄った。


「いや……その……『する』なら、せめて僕から離れたところでしてくれないか?」


 エルナは鼻をつまんで言った。


「はあ?何を言っている。俺はこんな自分たちの命がかかっている最中におならなんかするか!」

「いや、でも何か変な匂いがするし……」


 エルナに言われて、ガレスも小動物のように鼻をひくつかせる。なるほど確かに迷宮の土や魔物たちの血の匂いに混じってどこか嫌な臭気を感じる。だが、この匂いを嗅ぎ取ったからといってこの状況を脱出できるわけではない。彼はかぶりを振って脱出の手段を考え直そうとした。


「ガレス!コレを見ろ!」


 エルナがそう言って拾い上げたのは、一つの巾着袋である。どうやら匂いの出所はこの巾着袋で間違いないようだ。


「コレはアグラフォーティスの匂いだな」

「アグ……何だって?」

「アグラフォーティスだよ。魔物除けの薬草だ。どうやら坊ちゃんはものを知らないな?」


 巾着袋の匂いを嗅ぎながらエルナが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。魔物除けについては軍の士官学校で学んだつもりであったが……。ガレスは悔し紛れに続きを促す。


「コイツは魔力に反応して匂いを発するんだ。魔力がより強ければ薬草の匂いもより強くなる……」

「迷宮の中は魔力に満ちているんだろう!?なら、意味がないだろうが!」

「いや、コイツがここまで強い匂いを発するということは何か近くに強い魔力を発するものがあるということだ。例えば……転移用の魔法陣とかな」


 エルナが匂いを頼りに辺りを歩き回る。


「ガレス、ここだ!ここ掘れワンワン!」

「……後で覚えておけよ!」


 怒りにまかせて持ち上げた瓦礫の下からは淡い光を放つ魔法陣が姿を現した。


「やった、助かった!」

「フッ、僕の手にかかれば魔法陣を見つけるくらいわけないね!」

「そんな事やっている場合か!急ぐぞ!」


 ポーズを決めるエルナの襟元を引っ掴んでガレスは魔法陣に飛び込んだ。


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