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勃発!死霊術士大戦!!


「……し、死ぬかと思った」

「生きてて良かったな。僕のおかげだぞ?」

「お前のせいで死にかけたんだよ!!」


 エルナを降ろしてからガレスは大きく息をついて天を仰いだ。咄嗟に魔法陣に飛び込んだが、一体どこに飛ばされたのだろうか。天井があるところを見るとまだここは迷宮の中らしいが、先ほどの部屋と比べてもこの空間はやけに天井が高い。この場所でなら大巨人も優に暴れ回ることが出来るだろう。


「ここには迷宮の主とやらはいないみたいだな……」


 当たりを適当に見回してみるが、周囲にはそれらしい人影はない。先ほどの魔法陣だけがこの部屋に唯一通じている道なのだろう、この部屋には扉が一切ない。無駄に広いところを除けばここは牢獄の様な場所だ。魔法陣を消してしまえば、この部屋から出ることは永劫叶わないのだろう。


 この部屋に長居するのは危険だ。だが、戻ったところで先ほどの部屋はすでに崩れ落ちてしまっている。何か別の手段を考えるのが得策だろうが、生憎魔術の使えないガレスには先ほどの魔法陣を潜る以外にはこの部屋を出る方法を思いつくことは出来ない。


「エルナ、何かいい作戦はないか?……エルナ?」


 言いかけたところで、彼女の姿が消えていることに気がつく。慌てて辺りを見回すと、彼女は興奮したようにガレスに呼びかけた。


「ガレス、コレを見ろ!!」


 喜びに頬を紅潮させながらエルナが部屋の一方向を指さす。悪い予感以外を全く感じ取ることが出来ないながらもガレスはしぶしぶ彼女の指さす方へと歩いて行く。


「こ、これは……」


 彼女の示す方向にあったのは砕かれた岩壁に瓦礫の山、飛び散っている屍肉、そして上半身のない魔獣の死体だ。ここで何かしらの争いがあったことは明白だ。そしてその当事者が誰なのかも。


「ここは、この魔獣の部屋のようだな。下半身しかないから何の魔獣かは分からないが……恐らくミノタウロスとかその辺りだろう」


 エルナが早速、魔獣の下半身を調べ回っている。あらゆる方向から下半身を眺め、その身体に触れ、メモを取り、ナイフで肉を削いでしっかりと保存している。……持って帰る気だな、コイツ。


「家に帰ったら調べてみようっと」

「……本来の目的を忘れていないか?」

「忘れてなんかいないさ。この魔獣を倒したのは恐らくユーリだ。迷宮の主が『大巨人を召喚した』と言っていたから、ここで召喚してこの魔獣と戦わせたんだろう。壁一面に屍肉が飛び散っているのはその為だ。全く、倒すならもう少し原形を留めて置いて欲しかったな。まあ、調べる楽しみが増えたと思うことにするさ」


 ブツブツと文句を言いながらもエルナは満足げに魔獣―――サイクロプスの屍肉を小袋に収めた。


「早速、貴重なお宝が見つかったな!」

「一銭にもならねえよ!」


 ガレスのツッコミと同時に天井に亀裂が走った。瓦礫が雨のように降りはじめ、徐々にその勢いを増していく。


「な、なんだ……!?」

「ガレスが叫んでばかりいるから迷宮が崩壊しそうになっているんだろうな?」

「そんなわけがあるか!早くこの部屋から抜け出さないと……」


 すでに瓦礫は雹のような大きさになっている。こんなものが脳天を直撃すれば、下手をすれば命に関わる。何としても脱出しなければ。



「―――逃げられると思ったか深淵の魔女よ!お前だけは絶対に、絶対にぶっ飛ばすからな!」



 ラブレスの怒声と共に天井が砕けて二体の大巨人が落ちてくる。一匹はラブレスの、そしてもう一匹はエルナが召喚した巨人だ。


 二体の巨人が降り立つと、彼らを中心にして衝撃が部屋一面に広がっていく。目には見えない波動が石畳を砕き、辺りに散らばった瓦礫や、下半身だけになっているサイクロプスを吹き飛ばす。


「エルナ、俺の後ろにさがれ!」

「いいや、ガレス。君こそ僕の後ろに隠れていろ」


 エルナが杖をかざすと、床から湧き出るようにして死霊たちが現れる。彼らは互いにガッチリと隙間無く肩を組み合い、一枚の巨大な壁を形成する。


「ただけしかけるだけが死霊術じゃないぞ、迷宮の主よ?」


 散弾のように襲いかかる瓦礫を死霊の壁がことごとく阻む。だが彼らにも痛覚があるのか、瓦礫が刺さる度に鈍いうめき声が漏れ聞こえてくるので、ガレスはすっかり辟易してしまっていた。


「どうだ、ガレス。僕の死霊術も中々悪くないだろう?」

「……次からは俺が前に出る」

「なぜだ!!」


「―――フフフ、この私に死霊術を説くなど傲りが過ぎるぞ魔女よ!亡きサイクロプスの分まで私が貴様らに鉄槌を下してやろう!」

「いいだろう迷宮の主よ。同じ死霊術の使い手として、ここで決着を付けてやろう!」


 二匹の大巨人が彼女らの呼びかけに呼応するかのように、激しく打ち合う。拳を振り上げ、互いの顔面を容赦なく殴りつける様は、有無を言わせぬ迫力がある。そこには自分が入り込む余地などありはしない。ガレスはただ立ち尽くして見ていることしか出来ない自分の無力さを痛感した……のはそこまでであった。


 術者の性格が多分に反映されているためか、大巨人たちは拳闘士さながらの拳のぶつけ合いを演じたかと思えば、すぐに飽きてしまったのか子供の喧嘩のようにつかみ合いを始めてみたり、果てにはじゃんけんをしてみたりと泥仕合の様相を呈している。彼は違う意味で無力感を感じていた。


「―――くっ、汚い手ばかり使って!さっきのは後出しだっただろう!?」

「貴様こそ!さっき殴った時にこっそり石を握らせていただろう!?反則だからな!!」


 自分が入り込む余地はないな。というか……こんな奴らの争いに入りたくない。ガレスはそっと剣を鞘にしまった。


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