勃発!大魔獣戦争!!
「△△△△!!」
「■■■■!!」
魔獣と大巨人が互いに声を張り上げる。なにか特殊なコミュニケーションを見ているような不思議な感覚になる。
「―――その忌まわしい死霊を再び出すというか小娘!良いだろう。サイクロプスよ、押しつぶしてしまえ!」
「コッチの台詞だ!大巨人、やってしまえ!」
先に踏み出したのは魔獣だ。その動きは緩慢だが、大股の一歩はあっという間に大巨人との距離を詰めてしまう。
「■■■■!」
魔獣が雄叫びを上げて拳を大巨人の顔面へと叩きつけた。ビチャリと水っぽい音が響き、寄り集まった死霊たちが飛び散る。
「△△△△!」
だが、大巨人も負けてはいない。一方の手で魔獣の首根っこを捕まえると、もう一方の手で素早く顔面に拳を叩き込んだ。攻撃する度に何かしらの液体が宙を舞っているが、ソレに関しては見ないことにしよう。
「―――フフフ、さすがは深淵の魔女とやらの従魔だ。私のサイクロプスと互角に渡り合うとはな。だが、勝負はこれからだぞ!」
サイクロプスが猛然と大巨人へと殴りかかる。魔獣の拳が大巨人を打ち抜き、大巨人がわずかによろめく。
「大巨人、コッチも反撃だ!」
すぐさま態勢を整えて、大巨人も拳を叩きつける。互いの拳と拳を激しくぶつけ合う様は、まるで怪獣映画でも見ているかのような大迫力だ。だが、そうそう楽観視してもいられない。たくさんの死霊が寄り集まって出来ている大巨人は、殴られる度に死霊が飛び散っているため、徐々に身体がしぼんでしまっているのだ。あの巨体では回避もままならないし、このままでは押し負けてしまう。
「……やるしかないのか?」
自分に問いかけるように呟く。このままでは大巨人の身体がもたない。だが「アレ」は、今回僕らがこの迷宮に潜らなければならない状況を作った原因でもあるわけだし、使うのは正直気が引けるというものだ。しかし迷っている間にも激しい打ち合いで大巨人の身体はすり減っていく。
「……ええい、考える前にまず一歩だ!」
奇しくも僕を決断させたのは、側でノビているアンドレアスが先ほど放った一言であった。コイツのことは好きにはなれないが、言っていることは間違いではないと思う。好きにはなれないけど。
僕は合図を出す。それを受けて大巨人のあごが外れんばかりに大きく開いた。その中からはなにか得体の知れないおぞましいものがウジャウジャと蠢いている。それが例の「アレ」を放つ合図だ。
「―――な、なんだ、気色悪いものを見せて心理的な動揺を誘うつもりか!?無駄だ。サイクロプスよ、早くトドメを刺せ!!」
サイクロプスが勢いよく拳を振り上げた。
「―――大巨人、『死霊大砲』だ!」
まさか自分がこの技を使う羽目になるとは思いもしなかった。大巨人の口から放たれたおぞましいビームを至近距離で受けてしまったサイクロプスは、下半身だけを残してすっかり消え去ってしまった。
―――――
「……おーいニクス、立てるか?」
ジョアナの回復魔法で傷を癒やしながら、僕はニクスに呼びかける。呼吸はあるが、気を失っているのか閉じられた目が開かれる様子は無い。
「おい、アンドレアス。ニクスが起きないんだ。おぶってあげてくれ」
振り返って言うと、彼は不服そうにしながらも彼女を軽々と抱え上げた。コイツにも回復魔法はかけてやったが、傷が治るやいなや何事もなかったかのように飛び起きた所を見ると、身体は相当に頑丈なものらしい。いっそサイクロプスに潰されれば良かったのに。
ちなみに迷宮の主はサイクロプスが死霊大砲で吹き飛ばされたことにしばらく呆然としていたが、やがて泣きながら、
「―――うわあああああん!よくも私の可愛いサイクロプスを殺したな!?絶対後悔させてやるからな、絶対だからな!」
とだけ言って、それきり何の音沙汰もない。もう出てこないで欲しい。
「はぁ……」
大きく息をついてその場に腰を下ろす。さすがに一日で二回も大巨人を召喚した反動だろうか、身体が重く思うように動かせない。ニクスも目を覚まさないわけだし、ちょうどいい休憩だ。
「こむ……ユーリには借りが出来ちまったな」
アンドレアスが僕の隣に腰を下ろす。このサイクロプスの部屋には彼の仲間も囚われていたのだ。またしても怪我の功名という奴だ。コイツには幸運の女神でもついているのだろうか。
「気にしなくたって良いさ。なりゆき上仕方なくだよ。仲間が見つかって良かったな」
僕は適当なことを言ってポーチから取り出した干し柿をかじる。ニクスは「おばあちゃんのおやつ」といっていたが、疲れた身体にはちょうどいい甘さだ。
「アンドレアスもどうだ?」
僕は彼にも干し柿を勧める。ひょっとしたら彼ら異世界の住人の価値観は僕やニクスのものとは異なるものではないかと思ったからだ。彼らにとっては干し柿や干し芋がケーキやチョコレートにあたるものかもしれない。
「……懐かしいものを持ち歩いているんだな。俺のじいちゃんやばあちゃんもよく食べていたよ」
彼はわずかに鼻をならして干し柿をかじった。どうやら異世界でも干し柿はおじいちゃん、おばあちゃんたちの定番のおやつのようだ。
「まあ、ナウなヤングのおやつではないか……」
打ちひしがれた気持ちになって干し柿をもう一口かじる。干し柿はほんのりしょっぱい味がした。
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