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小さな身体に大きな(?)援護


「―――――!」


 少年の刃が僕の鼻先で止まる。あとほんの数秒遅ければ僕の顔は一刀両断されていただろう。


「くっ……この化け物が」

「なんとでもいえ。これが僕の身体みたいだからな」


 少年の腕には僕の右腕―――ベノムが絡みついてその動きを封じている。驚いたことにベノムは見た目からは想像もつかないほど凄まじい力で少年の腕を拘束しているらしく、彼は進むことはもちろん退くことも出来ずにいる。


「いいぞ、ユーリ!そのままやってしまえ!」

「言われなくたってそのつもりだよ!」


 そのまま少年を持ち上げて投げつける。彼はエルナとガレスを拘束していた使用人たちを巻き込んで床を転がった。ちょっと乱暴過ぎる気もしたが、コッチは腕を切り落とされて死にかけたのだ。多少の痛い思いはしてもらわないと割に合わない。


「……もうちょっとマシな助け方は無かったのか?」

「それがマシな助け方だよ」


 蛇の腕を伸ばして、二人を拘束していた縄を食いちぎる。


「……すごいな。帰ったら詳しく調べてみようじゃないか」


 彼女が怖々と僕の腕をつつくので、軽く動かして指に絡ませてみる。それだけなのに「♪☆○△□○♪☆□!」と悲鳴を上げたところを見ると、エルナはどうやら蛇が苦手らしい。今度、なにか悪さをしたらこの腕でおしおきをしてやるのが良さそうだ。


「おのれ……死霊ふぜいが、よくも!」


 使用人たちを蹴散らしてしまったおかげでヴィンセントは怒り心頭のようだ。ベヒモスのように床を踏み鳴らしながらその巨体で突撃を仕掛けてくる。


 深呼吸して、あの男の言葉を思い出す。


 頭で考えるのではなく、身体で感じる。自分でも気づかないうちに右腕は元に戻っている。今必要なのはベノムのような搦め手ではない。あの男をねじ伏せるには、同じ土俵―――腕力で勝負するのが上策だ。


「よし……マトック、君の力を借りるぞ」


 両腕に意識を集中させる。みるみるうちに僕の両腕はとげとげしい鱗を纏った屈強なリザードマンの腕に変化した。


「ほう……君はは虫類の死霊か!?」

「たまたまだよ!」


 マトックの腕でヴィンセントを受け止める。やはり勇猛な戦士の腕は、岩のように隆々とした男にも引けを取らない。だが、なかなかどうして押し返すことも出来ない。


「ふふふ……さすが息子が太鼓判を押すことはある。君が死霊で無ければ、私が鍛えてやっても良かったものを!」


 均衡が崩れ始めた。ヴィンセントが一歩、また一歩と進み始める。マトックの腕でも押さえきれなくなっているのだ。歯を食いしばるが、僕の身体は少しずつ後ろへとさがっていく。


「どうした、もう終わりか。……その小さな身体ではこの程度が限界かな?」


 ヴィンセントが口元に笑みを浮かべる。勝者の余裕というやつらしい。気に入らないがこっちにはこれ以上の余裕が無いのも事実だ。くそ、マトックやベノムの力を借りておいてこの体たらくなんて自分が情けない。ここは無双する場面だろうが、僕。


「いいや、その小さな身体にはこの強大な援護があるぞ!」


 身体がフッと軽くなる。誰かが後ろから支えてくれているような感覚がある。振り返ると、僕の背後には大勢の死霊の姿がある。一匹二匹どころでは無い。五……十、いやもっとだ。大量の死霊たちが僕を支えていたのだ。


「ユーリ、君はまだまだ死霊たちの使い方がなっていないな!帰ったら特訓だからな!!」


 エルナが僕の召喚した死霊たちを操っていた。僕の主だから僕の召喚した死霊を扱える、というわけか。


「……世話になった屋敷じゃ無かったのか!?」

「さあね。そんなこと忘れてしまったよ!」


 エルナが杖をかざす。それを合図に死霊たちが徐々に一つの塊となっていく。僕の脳裏に浮かんだのは魔物の襲撃の際に彼女が召喚した死霊の大巨人である。あの嫌な記憶を誰が忘れる事が出来ようか。


「おい、大巨人は出すなよ!?」

「ふん、そんな事言われなくても分かっているさ。今度のは改良版だ!」

「それでも嫌な予感するんだけど!」

「うるさい、よく見ていろ。出でよ『死霊の騎士』!」


 かけ声と同時に現れたのは、騎士の姿を模した死霊であった。よくよく見ると鎧兜も手にしている槍も盾も全て死霊の寄せ集めだが、不覚にも格好いいと思ってしまった自分が情けない。


「……コレで戦えるのか?」

「大丈夫だ。問題ないぞ!」


 その自信がすごく不安だ。


「さあ、死霊の騎士よ。やってしまえ!」


 死霊の騎士が槍をかざす。だが、その様子から突撃を行うようには見えない。

 槍の先端に光が収束していく。……何だか見覚えのある光だな。どうやら僕の嫌な予感は的中する事になりそうだ。


「おい、エルナ……」

「見せてやれ、死霊の騎士よ!『死霊大砲』だ!!」


 槍の先端から放たれたのは、結局大巨人が放ったものと同じおぞましい輝きを放つビームであった。


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