フロントランド家へ
「―――!」
僕が声を上げれば魔物が弾け飛ぶ。僕の隣ではニクスが刀を振るって残っている魔物たちを難なく切り捨てていく。少し離れた所ではガレスがエルナを守りながら剣を振るう。
「悠里さん、ソイツが最後の一匹です!」
僕の目の前にいるゴブリンの一匹を指さしてニクスが言う。
「よし、任せろ!」
僕も剣を抜く。ゴブリンくらいなら僕の剣でもいけるはずだ。
「ぃよっしゃああああ………ああああああ!?」
だが僕は剣を振り上げたところで、思い切り足下の小石に蹴躓いた。当然、ゴブリンはその隙を見逃さない。叫び声を上げて僕に飛びかかってくる。
「何やっているんだ!?」
ガレスがその頑強な鎧でゴブリンを押しとどめる。ゴブリンの爪も棍棒も彼の鎧には歯が立たない。
「よぅし、我が騎士ガレスよ!決めてしまえ!」
「言われなくたって分かっているよ!」
ガレスがそのままゴブリンを一突きに貫いた。魔物は二、三度と身体を痙攣させて絶命する。僕は自分の命が助かったことにホッとしている反面、いつまでも剣すらまともに扱えない事にもどかしい気持ちを覚えていた。
―――――
事の始まりはエルナの騎士―――ガレスの帰還からである。
彼がいなかったのはほんの一~二日程度のことなのだが、何だか随分と久しぶりに会ったように感じてしまう。
話によると彼は本当に実家に帰省していたらしい。だが彼の意志では無く、あくまで彼の実家――フロントランド家に召還された形であるようだ。そして、それにはそれなりの理由があった。
「前回のオークの襲撃とその際に現れた……例の大巨人のことでな。それが俺の実家にも伝わっていたらしい。それで俺が事情を説明するために呼び出されていたんだ」
僕はすぐさまエルナを睨んだ。彼女は何も聞こえないふりをして紅茶を飲んでいる。
「俺の監督責任で片付けられるとも思っていたんだが……そうもいかなくてな。親父……まあフロントランド家の当主がお前に直接話を聞きたいらしいんだ」
「……アイタタタ。ガレス、僕は急な腹痛になったぞ。これは二~三日は寝込んでしまうなぁ?」
エルナがお腹を抱えて床を転がり回るが、誰も気にもとめない。
「お前が行かないとお前の伯父さんを呼ばなければいけなくなってしまうぞ?」
エルナの動きがピタリと止まる。
「それにフロントランド家が行っているお前への仕送りも打ち切られるかもしれん」
ガレスの言葉にエルナはしぶしぶ立ち上がった。どうやら周りに迷惑をかけまくる彼女でも自分の伯父さんには迷惑をかけたくないらしい。
「……分かったよ、行けば良いんだろう?でも僕一人では行かないからな。ユーリとニクスも連れて行く。それが条件だ」
「俺の実家までの道のりは魔物がウジャウジャいるからな。言われなくたって二人にもついてきてもらうさ」
僕らの意志を無視した話し合いがされる中でニクスはそっと僕に耳打ちした。
「……あの方は誰ですか?」
そういえばニクスはガレスに会ってすらいなかったな。まあ、道中お互いを知る時間くらいはあるだろう。
「……まあ、良いだろう。では我が従魔・ユーリよ!……僕の旅支度をしておいてくれ」
「自分でしたらどうだい?僕はこの後食器を洗わなきゃいけないからな」
「そんなものニクスに任せたら良いじゃないか」
「良いのか?またこの屋敷から食器が減るぞ?」
「……」
彼女はすごすごと自分の部屋へと戻っていった。僕はコッソリとホッと息をついた。おっさんの僕には少女の衣服の見繕いは未だによく分からないのだ。
「では私も旅の支度をしてきますね!」
ニクスが二階へと昇っていったのを見計らって、ガレスが口を開いた。
「ユーリ……彼女は誰だ?」
こうして僕らはガレスの実家―――フロントランド家へと向かうことになった、というわけだ。
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