朝食は揃って
誰かに呼ばれた気がして目を覚ます。肌に感じるのは柔らかなシーツと温かい毛布の感触だ。ゆっくりと身体を起こせば自分がベッドの上にいることに気がつく。だが、いつの間にベッドに入ったのだろうか。
昨日のことを思い出そうとしても全く思い出せない。確かライカとミリッサの二人とクエストに行って……あれ?それからどうしたんだっけ?
ベッドから出ようとするが、身体中が軋んで上手く動かせない。覚えていないが相当無茶をしたな、僕?
気づけば視界も半分遮られている。鏡を見れば顔の半分を覆うようにして湿布が貼り付けられている。めくってみれば僕の目の周りにはクッキリと丸い青あざが出来ている。一体、自分が何をしたのか、聞いてみないことには分からない。僕はすぐさま階段を降りて食堂へと向かった。
「エルナ。昨日何があったのか教えてくれないか?」
扉を開いて呼びかける。だが、いつもそこでのんきに紅茶を飲んでいる魔女の姿が無い。
「外出中か……?」
僕は重たい身体を引きずってもう一度二階へと戻る。行き先はもう一人の居候のところだ。
「ニクス、僕は昨日何をしていたか教えてくれ」
部屋にはニクスもいない。彼女の部屋から聞こえるのは冷たい隙間風の音だけだ。
「二人とも何処に行った……?」
屋敷の中はシンと静まりかえっている。そこに至って僕の頭の中に最悪の可能性が浮かび上がった。
まさか二人が魔獣に―――。そう考えるといても立ってもいられなくなった。着の身着のまま屋敷の外へ出る。そこで僕は言葉を失った。
屋敷の庭は荒れ放題となっていた。土がほじくり返され、屍肉が飛び散り屋敷の壁を汚している。そして突き刺さったまま放置されている一本の剣―――。それは紛れもなく僕の剣だ。抜いてみれば刀身には乾いた血が付着している。それは屍肉のものでは無い人間の血だ。
間違いない。二人は魔獣に襲われたんだ。僕は叫びだしそうになるのをこらえて冒険者ギルドへの道を急ごうと走り出した。
「お、ユーリ目が覚めたのか?」
走り出して十秒もしないうちにのんきな声のエルナと鉢合わせした。その後ろにはニクスもいるしミリッサもいるではないか。
「ど、どういうことだ……?二人は魔獣に……」
「誰かが魔獣に襲われたんですか!?」
「まさかあの狼男逃げるフリしてまた人を襲ったんじゃ……」
僕の不安をよそに、ニクスとミリッサが二人で盛り上がっている。
「な、なんだ狼男って……。ひょっとして僕らを狙っていたのはその……」
「残念だが僕らは無事だぞ?」
僕の言葉を遮るようにしてエルナが言った。
「そ、それよりユーリ。フフ……あなたの顔……フヒヒ」
ミリッサが堪えきれないように笑い出す。僕の目の周りの青あざのことなのだろう。慌てて隠そうとして、初めてその痛みに気づく。……僕は本当に何をしたんだろうか?
「大丈夫ですよ、悠里さん。ひとまず安心して下さい」
ニクスがそう言って僕をそっと抱きしめた。その言葉の意味を考える前に、彼女の暖かさにホッとしている自分がいる。
「うん。……ありがとう」
僕がそういえば、三人は示し合わせたように頷いた。何か隠しているのは見え見えだが今は聞かないことにしよう。
「ユーリ、早速で悪いが僕は腹が減ったんだ。朝食を作ってくれないか?」
「ああ、じゃあそこの酒場で何か食べようか」
そういうと、エルナは「チッチッチ」と指を振った。
「酒場の料理じゃない。君の作る料理が食べたいんだよ」
「私も悠里さんの料理が良いです」
「何だか美味しいらしいじゃない?だから私も」
「……オムレツかい?」
「「「もちろん」」」
僕の言葉に、三人は揃って答えた。
読んでいただきありがとうございます。
年の瀬の忙しさにかまけて、また2日も空けてしまいました。申し訳ありません。
今年も頑張りますので、よろしくお願いします。
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