暗転
「……はい、ではこちらが報酬になります」
僕らの前に並べられた金貨の山を見て、どよめきが起こった。牛頭の魔獣、ミノタウロスを倒したことによって得られた報酬は、これまでの魔獣討伐で得てきた報酬の比では無かったからだ。三人で分けても十分すぎるくらい高報酬と言えた。
「ああ……生きてて良かった……!」
ミリッサが金貨に縋り付いて泣いている。さすがに今回ばかりは命の危機を感じたのだろう。少しだけ申し訳ない気持ちになる。
「おいおい、報酬はちゃんと三等分だろう?」
「えええ!?納得いかないわ!私は死にかけたんだから、少しくらい多くたっていいでしょう!?」
そう言って彼女が抱えた金貨の量は明らかに全体の半分以上だ。「少し」という言葉を辞書で引いてみて欲しい。
「全く、クエスト前に確認したろう。『働きに関わらず報酬はキッチリ三等分』って。ミリッサ、君が言い出したんじゃないか」
「で、でもぉ……」
てっきり僕が一撃で倒して終わりだと思っていたから保険をかけたつもりだったのだろうが、自分の言葉で首を絞められるとは思いもしなかっただろう。
ライカも困ったような顔をしている。僕はといえば、ここに来て前日一睡もしなかった反動が来たのか、強烈な睡魔に襲われていた。
「ユーリ、君からも……ユーリ?」
「ん?ああ……ごめん。少し疲れたみたいだ」
最早、まともな話し合いは出来そうに無い。意識が朦朧としてきた。僕はちゃんと立てているのかも分からない。
「ちょっとユーリ?まだ報酬の話が終わってないのに……」
「ミリッサ、報酬の話はまた今度だ。今日の所は君が預かっておいてくれ。ユーリは僕が送るよ」
「いいの!?」
「預けるだけだよ。後で取りに行くから使うなよ?」
「そっちこそ。ユーリに乱暴しちゃダメだからね?」
「生憎だけどね、僕の好みは年上だよ」
報酬に瞳を輝かせるミリッサを尻目に、ライカはユーリをヒョイと抱え上げて冒険者ギルドを出て行った。その瞳にはミリッサのものとは異なる輝きが宿っていた。
―――――
「んん……」
ああ、くそ。少し寝てしまっていたのか。僕は魔獣に川に落とされて、ライカに助けられて……あれ?それからどうしたんだっけ?
「ああ、目が覚めたのか」
ライカの声で少しずつ意識がハッキリしてくる。僕はどうやら彼にお姫様抱っこをされているらしい。……んんん?
「☆○♪○♪!☆?○☆!」
驚きの余り、自分でも何を言っているのか分からない叫び声を上げてしまう。だが、僕がいくら腕の中で暴れ回っても彼の方は至って冷静だ。
「落ち着いて。ほら、大丈夫だから」
彼にそう言われると、自然と気持ちが落ち着く。不思議だ。
「安心して、深く息を吸うんだ。ほら、ゆっくり」
彼に言われるがまま、深呼吸を繰り返す。彼の塗っていた軟膏の香りが胸いっぱいに満ちていく。それだけで意識が再び朦朧としてくる。あれ?僕は何をしていて、これから何をするんだっけ?
「そうだ、偉いぞ。そのまま僕の言うとおりにするんだ、いいね?」
無意識のうちに頷く。身体中が弛緩したように力が入らない。
「いいかい?君は僕の命令に絶対に逆らえない。君は屋敷に帰ったらすぐに―――」
彼はいつの間にか抜き身の剣を僕の手に握らせた。
「君なら出来るよ。僕はいつだって『君(お前)を見ている』。いいね?」
僕は満面の笑みを浮かべて走り出した。そうだ、簡単な話だったな。
僕は屋敷に帰って、ニクスとエルナを殺すんだ。
惜しくも一日空いてしまいました。申し訳ありません。
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